少し下を向いて小さく告げられた言葉は、ストンとオレの心を射抜いた。

以前、君に聞かせたことのある“ギター”は、あの時に家で聞かせた音だけで、オレの“想い”だけだった。

しかも、途中でザワザワとした羽根の音が聞こえて、いつもの発作が起こった時だ。

アレを聞いて、それでも“好き”と告げられたその【台詞（コトバ）】。

一瞬、息が止まった。

素で、驚いた。

なのに、君は次の瞬間更に驚くような事をしでかして。

―――本当に、オレの意識を全部持っていく。

これ以上惹かれてしまったら、オレは一体どうなってしまうのだろう？

日に日に膨れ上がっていく【感情】は一向に治まる気配も無くて。

いつかそれで全てが覆われてしまったら、オレは君を本気で壊してしまうかもしれない。

だから、家に引き篭もった。

自分の部屋の中で、“兄弟”だけを側に置いて。

ふとすれば探してしまいそうな脳裏に焼きついた姿を、必死に掻き消す。

いつからこんなにオレの中に君は棲み付いたのだろう？

出会ったら“殺”そうとまで思っていた相手なのに。

凄まじい覇気がある訳でも、興味を引くような容姿でもなくて、本当に何処にでもいるような小さな他愛無い存在感でしかないのに。

気付けば、生きていく事に必要な酸素を求めるように、その姿を求めている。

大切にしたいと・・・護りたいと思っていながら、最終的には全てを壊す事しかできない自分が・・・だ。

こんなに執着してしまうなんて、本当にアリエナイ。

背筋をゾクゾクした感覚が這い上がっていく。

破壊したい欲求が湧き上がる。

強い執着心が、君を壊してしまう前に。

―――オレは君を忘れないといけない。

意識から消してしまわないと。

ザワザワとした羽音が、意識を覆いつくしてしまう前に。

“何処までも何処までも一緒に・・・”

―――堕ちてしまわない様に。

「―――時貞クン？！」

突然、意識が浮上する。

忘れようと思っていた君の声が幻聴で聞こえるなんて、オレの頭はとうとうイカレてしまったのかもしれない。

それでもオレを惹き付けるその声音の呼ぶ声に視線を向ければ、そこには確かに本物が存在していた。

やられた・・・そう、思った。

相変わらず、悪戯好きな神様の意地悪な【運命】はオレを見逃さない。

小さく呪いの言葉を吐き出してから、自嘲した。

これがオレたちの“運命”だと言うのなら、抗うだけ無駄なのだ―――と。

「風邪をひいちゃうよ？」

駆け寄ってきた君が差し出すハンカチに、漸く雨が降っているのだと認識した。

そうして自分がずぶ濡れである事も理解った。

「良いんだ・・・」

そう答えた瞬間、浮かんだのは困ったような貌。

不意に、酷く胸が締め付けられた。

忘れたい・・・忘れなければならない。

そう心に決めた君の姿が、オレを惹き付けて止まない。

「ああ・・・。全ての悪いモノを、このまま・・・流してくれれば良いのに・・・」

零れ落ちた本音。

オレ以上に傷付いた【表情（カオ）】を浮かべる君を、忘れる事なんてできやしない。

だから・・・。

「―――拓・・・ちゃん・・・」

駄目だと理解っているのに、身体が動く。

凍りついた【感情（こころ）】が、温もりを求める。

オレは、君を壊してしまうかもしれないのに。

止まらない・・・止められない。

抱き締めた君の身体は、思った以上に小さくて温かくて・・・。

「・・・拓ちゃんは、暖かいね・・・」

思ったままに呟いたら、君の綺麗な瞳からもっと綺麗な雫が零れ落ちた。

その【泪（ナミダ）】に捉まった。

完全に―――捕らわれた。

もう逃げられない。

ああ、そうか。

ようやく、理解った。

君は、オレの変わりに【慟哭（ナ）】いてくれる、“唯一”なのだ―――と。