小さな身体に纏うのは、暴力とは無縁そうな穏やかな気。

淡い笑みは、媚びへつらう物ではなく、恐らくそれが自然体。

狩られる獲物が、保護欲を湧き起こさせるような可愛らしい風体を持っているのと同じ、モブに紛れても全く違和感のない姿。

なのに、気付けばその姿を視線で探して捉えている。

偶然のように出会う筈なのに、まるでそれが必然だとでもいうかのように、悪戯な神様は【運命の出会い】を用意してくれた。

色々なモノを失ったあの時から、多くの物を望むのは諦めた。

どんなに欲しても、壊れてしまうモノの方が多かったから。

ちっぽけな自分の腕で護れるモノなど、本当に数える程もないだろう。

―――君と出会えたのは【奇跡】。

物凄く細い線で繋がっていたそれを、オレはちゃんと引き当てた。

ふとすれば頭の中で鳴り響く羽ばたきに意識を持っていかれてしまうオレを、必死に理解ってくれようとしてくれたのも、君が初めてだった。

“彼女”である優理に求めたのは、情愛。

肌を併せて繋がって、与えられたのは刹那の快楽。

それでも、一番近い場所で温もりをくれる優理でさえ、オレの怒りの発作の時は決して近寄らない。

間違いなく壊れてしまうから。

・・・壊してしまうから。

狂おしい程の衝撃に全身を苛まれて、自分が自分ではなくなっていく感覚。

ザワザワする感覚が、全てを解放しろと頭の中で叫ぶ。

目の前が真っ赤になって・・・意識が捕らわれて。

凶暴な感情が暴れ捲くる。

自分ではどうしようもない【絶望】。

初めてオレを映した黒曜石の瞳は、只でさえ大きなそれが零れ落ちそうなぐらい見開かれていた。

そうして、出会う度に君の瞳の中に映るオレの姿は、色々な表情を浮かべていた。

凶悪な笑顔。

詰まらなそうな貌。

怒りの形相。

とても好意を持って貰えなさそうなモノばかりなのに、君はオレを“友達”だと告げた。

“兄弟”でも“彼女”でもなく。

―――【友達（ダチ）】だよネ？と、そう叫んだ。

君の瞳の中のオレは、決してそれを言ってもらえるには相応しくない姿だったにも係わらず、だ。

その瞬間、身体中で暴れ捲くっていた凶暴な感情が凪いだ。

代わりに沸きあがってきたのは、生まれたばかりの初めての【感情（オモイ）】。

それが信じられなくて、逃げるようにその場を去った。

オレの中にポコンと生まれたそれが、それ以上大きくなってしまわないように。

―――決別した筈だった。

再会は驚く程あっけなかった。

乱れてしまった感情を、“兄弟”たちに慰めて貰っていたのに、その“兄弟”たちが先に見つけてしまった―――君を。

門の前に立っている小さな姿を視界に捉えた瞬間、全身の血が逆流しそうになったのを覚えている。

“兄弟”は優しい。

綺麗でとても強くて繊細で―――オレよりもずっとオレの事を理解っている。

オレの敵には容赦しない筈の“兄弟”が、威嚇すらしないで嬉しそうにしている。

その姿を見た瞬間、理解った。

だから、有無を言わさず家の中に引きずり込んだ。

“殺”すとまで思っていた君。

二度と面を見せるなと忠告し、決別したにも係わらず、数刻で出会ってしまうのは間違いなく運命なのかもしれない。

ビクビクしながらも、その真っ直ぐな瞳は変わらない。

クルクル変わる表情は、今まで知ったどんな奴よりもその心を素直に表す。

君は、感情を隠すのがとても下手だから・・・他人の思惑なんか考えた事もないオレでさえ、全部筒抜けに理解ってしまう。

だから、戸惑う。

今までの人間だったら、完全に無視するか、媚び諂うか、互いに拳を交えて理解り合うか、身体の関係を求めるかだけだったのに・・・君の態度はそのどれとも違ったから。

―――君の瞳に映るオレは、君にどう見えていたのだろう？

運命の出会い。

不可思議な感情。

偶然なのか、必然なのか・・・それすらも理解らないけれど。

確かな事はただ一つ。

君はオレを惹き付ける。

他のどんな“モノ”よりも。

それが―――紛れも無い【真実（トゥルース）】。