折角、君と出会えたのに。

人を大切に想う事や、愛しく想う事を思い出したのに。

それでも、心は闇に染まらない。

行き先が喩え地獄だったとしても、オレはもう修羅には戻らない。

それで罪を贖えるのなら・・・いつか遠い未来、君にまた出会えるのなら、オレは全てを受け入れよう・・・と。

ポタッ。

何か温かいモノが降ってくる。

薄れて消えかかっていた意識がその感触に引き戻される。

ポタ、ポタ。

幾つモノ暖かい“雫”。

あの夜の記憶が鮮やかに蘇る。

「―――花なんか飾るなァ！！」

ザワザワした羽音が、羽ばたきと共に遠くに薄れて・・・替わりに聞こえたのは慟哭する君の声。

途端に、完全に止まった筈の鼓動がドクンッと一つ鳴った。

君の声に呼応するように、固まった血がゆっくりと動き出す。

「時貞君は・・・！時貞クンはッ！！」

あぁ・・・君が怒っている。

遣り切れない心を抱えて、泣き叫んでいる。

それは、オレの為？

こんなオレの為に、君は本気で哀しんで怒って・・・。

あれほど、オレが壊せなかった君が、壊れてしまいそうだ。

―――イヤダ・・・イヤダ・・・イヤダッ！！

神様！

オレはどんな【運命】も受け入れるから。

それがオレの罪だと言うのなら、どんな過酷な罰でも与えて構わないから。

君を壊すのだけは―――ヤメテクレ。

「死んで・・・なんか・・・いな・・い・・・」

途切れ途切れ、絞り出すように紡ぎだされた君の【悲鳴（オモイ）】。

生きてても良い事なんか一つも無いと思ってた。

全てを諦めてた。

ここには悪い人しか棲んでいなくて。

きっとこの世の何処にもオレの居場所なんかナイと捻くれて。

全部切り裂いて・・・破壊して・・・絶望して・・・。

散々壊してきたオレが、今更それを望むのは赦されない事なのかもしれない。

祈りの言葉を綴るのは間違っているのかもしれない。

それでも・・・。

【God, oh　my God．Please do not get rid of your lost lamb．Preferably to him happiness.
（神よ、貴方の迷える子羊を見捨てたもうな。どうか彼に幸せを）】

すっかり忘れてしまった祈りの言葉を、何度も心の中で呟く。

君をこんな風に泣かせる為に、オレは君を求めた訳ではないから。

ずっと君の側に居たかった。

穏やかな時間が欲しかった。

ただ、それだけなのに・・・。

「―――――ッッ！！」

息を呑むような緊張感が空気を振るわせる。

すぐ側に君の気配。

「時貞くんっ！！・・・時貞くんっ・・・時貞く・・・」

何度も何度もオレを呼び戻すかのように、叫び続ける君の声に呼応するように、オレの意識はどんどんはっきりしてくる。

感覚が戻ってくる。

周りがざわめいていて、五月蝿い。

君の声だけが聞こえれば、それで良いのに。

―――他には何もいらない。

「―――目を、開けてよ・・・ねぇ！」

泣きじゃくる君の声がオレの全て。

だから・・・。

ゆっくりと開いた視界の中に映ったのは―――。