まさかこんな風に関り合う事になるなんて、その時は微塵も考えていなかったから。

あの緋咲をブッ飛ばせる奴なら、【魍魎】の武丸クラスだとばかり思っていたから・・・まさか、武丸を後ろに乗せていた小さな体躯の君が、そうだったなんて。

識った時の衝撃は、凄まじい勢いで“怒り”が全身を突き抜けて、いつもの全てを壊す発作が起こった。

“殺”すつもりで繰り出したナイフを、止めたのはヒロシで・・・何度も繰り返される“親友”という言葉が耳障りで全部消してしまいたかった。

なのにあの瞬間、小さな身体はヒロシの身体を守るかのように目の前に立ち塞がって。

『“友達”だよネ？そーだよネ！？“時貞”クン』

恐怖に怯えて、泣きながら―――それでも真っ直ぐに見返してきた瞳が余りにも穢れなくて、一瞬で“怒”りが静まった。

それまで、いつもビクビクとして、余り真っ直ぐに人を見ないタイプだと思っていた君が、初めて顕した強い意思は、ヒロシを守る為のもので・・・なのに、その口から零れ落ちた言葉の数々は、生まれて初めて聴くオレ自身に向けられた【純粋】な想い。

―――それが、強く意識に残ったから。

“殺”すと意識が暴走したのに、壊さなかった初めての相手。

その直後にウチの前で出会って。

すぐにオレはいつもの発作で何も理解らなくなったけれど・・・それでも君は壊れなかった。

幾らヒロシとキヨシの匂いが付いているからといって、オレの敵だと判断すれば相手を引き裂くアービィとルーファスが何もしなかったのは、最初から君を認めていたからなのかもしれない。

そう考えると、とても遠回りをしてしまった気もするけれど・・・。

「“拓”ちゃん・・・」

口にするのは簡単な名前。

なのに、その名の持つ響きがオレの意識の中に浸透するのは、そう時間は掛からなかった。

出会う度に、君はオレの意識を強く惹き付けた。

小さな身体は何時も誰かが庇うような状態なのに、気付けば君に護られている。

喧嘩が強い訳じゃない。

力がある訳じゃない。

何処にでもいるような・・・そこらに有象無象に居るありきたりな人間の一人でしかない容姿なのに。

小さな声で「暴力は止めよう」って、いつも止める方の人間なのに・・・。

誰かを護る為に、君は動く。

その小さな身体全部を使って。

・・・まさかオレさえも、助けてくれるとは思わなかったのに。

そうして気付けば、物凄い行動で乱闘を治めてしまったのも君で。

その余りの破天荒ぶりに、驚きながらも安心した。

全ての“強運”を引き寄せる君は、決して壊れない事が理解ったから。

しかも最後の殺し文句。

『・・・ボクも好きだナ・・・“時貞”クンの“ギター”・・・』

驚いたオレの目の前で、君は見事にスッ転んだ。

自然と湧き上がったのは喜び。

ギターの【技術（テク）】を褒められたりするのは良くあったけれど・・・君が告げたのはそういう事じゃなくて。

オレの【音色（コトバ）】を認めてくれたのだと理解った。

あぁ・・・君は何度オレを驚かせれば気が済むのだろう？

だからオレは、心の底からこみ上げてくる笑いの発作を抑える事が出来なくなった。

ねぇ、壊れない君。

優しいのに強い君。

君の隣には何時も誰かが居るけれど・・・どうすればオレだけの“唯一”になってくれる？

“ギター”だけじゃなくて、オレも好きになってくれる？