３．君が泣いた日

土砂降りの雨の中。

君を見つけたのは、本当に偶然だった。

買い物帰りに降り始めた雨を避けた軒下。

人気のない道を、ゆっくりと歩くその姿は、まるで散歩をしているようで・・・。

思わず掛けた声に、ゆっくりと振り向いた君は、まるで悪戯が見つかった子供のように罰の悪そうな顔で、微笑った。

胸を締め付けるその表情に、駆け寄った僕は、その身体がずぶ濡れなのに気付いた。

「風邪をひいちゃうよ・・・」

「良いんだ・・・。」

差し出したハンカチも何の意味もない。

空から降ってくる大粒の雫は、変わらずに全身を打ち付ける。

鈍く光る銀色の前髪から滴り落ちる雫が、頬を伝っていく様が、涙のようだと思った。

「ああ・・・。全ての悪いモノを、このまま・・・流してくれれば良いのに・・・」

溜め息のように零れ落ちた囁き。

ともすれば雨音にかき消されてしまいそうな『声音』。

酷く傷ついているようなその姿に、僕は声を無くした。

掛けてあげられる言葉を持っていないから。

「―――拓・・・ちゃん・・・」

縋るように伸ばされた冷たい手に捕らわれる。

腕の中に包み込まれて、どうすれば良いのか理解らない。

身も心も氷のような君に・・・僕は何をすれば・・・？

「・・・拓ちゃんは、暖かいね・・・」

吐息のように呟かれた言葉が、とても苦しくて。

不意に零れ落ちたのは、『涙』。

泣きたいのは、僕ではない筈なのに・・・。

本当に、泣きたいのは―――君なのに。

君の代わりに泣くのではなく・・・。

君の為に・・・いつか一緒に泣ける日がこれる事を切実に願うよ。

今はただ―――この雨が君の涙の代わりだとしても・・・。

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