二度目に君と肌を併せた夜。

相変わらず、僕には何が何だかよく理解らなくて。

ドキドキと早鐘のように鳴り響く心臓の音だけが、やけに強く印象に残ってて。

耳に、額に、頬に、鼻に、唇に・・・そうして、一杯落ちてきた口付け。

のぼせ上がった頭はボーとして、全身が熱くて・・・どうにかなってしまいそうにクラクラした記憶が残っていたのはそこまでで。

３度目のキスの後からはもう、記憶すらあやふやで。

―――ただ、もう自分が自分ではなくなる感覚だけが残って・・・ずっと触れていた肌の熱さだけが残っていた。

『ごめん・・・一杯、泣かせちゃったね。』

意識を取り戻した僕の頬にキスしながら、君は優しく微笑んで涙の痕を拭ってくれた。

でも、僕はボウッとしたままで・・・思考能力が戻らなくて。

それでも、壊れ物を扱うように抱き締められたあの瞬間は幸せだった。

『ありがとう・・・拓ちゃんは、俺の“オンリー・ワン”だから。』

温かい温もりの中で、何度もキスされながら囁かれた想い。

それが嬉しくて・・・また涙が零れ落ちた。

誰かにそんな風に必要だと言ってもらえた事なんか無かったから、胸が一杯になってしまった。

『―――ずっと、一緒にいよう。嫌だって言っても・・・もう、離さないから。』

吸い込まれそうな綺麗な緋い瞳にただ見詰められて、声が出ない僕はただ頷く事しか出来なかった。

頷く度に、新しい涙が零れ落ちて。

まるで涙腺が壊れてしまったんじゃないかって、君に心配させてしまうぐらい。

それでも、宝石みたいだって言いながら、君は何度も口付けでそれを拭ってくれた。

初めて抱かれた後に呟かれたあの台詞が、その時もずっと心の中にトゲの様に突き刺さっていたけれど・・・。

しこりの様に残った台詞はどうしても消えなかったけれど、君が僕を求めてくれるのなら・・・それだけで良いんだと―――僕は自分に嘘を付いていた。

忘れたくなかったのは・・・記憶にしがみ付いていたのは僕の方。

初めて僕を・・・こんな僕を必要としてくれた君を失いたくなかった。

だから、全部を君の所為にして―――。

ごめん・・・ごめんね・・・時貞くん。

君に甘えてしまった。

君に好きと言ってもらえたから。

生まれて初めて好きと言われたから、僕は盲目になってしまった。

君しか見えなくなってしまった。

想いが溢れていく。

空っぽだと思っていた心が満たされていく。

零れ落ちる涙が溜まって・・・鮮やかな色を映す。

―――現実に戻った瞬間、開いた瞳の先に見えたのは、君の銀色の髪ではなくて・・・彼の紫に波打つ髪色だった。