『世界で一番、君が好き・・・。』

さらりと、笑顔で告げられた・・・何処かで聞いた歌詞のようなその言葉。

『好きだよ・・・拓ちゃん・・・』

柔らかな声が、記憶の中の耳朶に響く。

何度も口にした“好き”という台詞。

まるで、その言葉だけが僕を縛る呪文のように。

優しい―――【嘘（フェイク）。】

全部が嘘だとは思わないけれど・・・きっと本当でもなかった。

だって、君はこんな風に僕を置いて逝ってしまった。

その姿を追って・・・何度も何度も風の中で見えたのに。

君を捕まえる事はできなくて。

―――怒ったような君の顔が、哀しくて。

僕は何処にも行けないままで、立ち止まったままだから。

『―――ずっと、一緒にいようね・・・拓ちゃんが傍にいてくれないと、淋しいよ。』

約束の証とでも言うように、交わした指きりは、擽ったくて照れ臭くて・・・。

請われるように差し出された腕の中に、包まれたまま瞳を閉じた。

耳にずっと響いていたのは、睦言のように甘い【声音（こえ）】。

『好きだよ・・・拓ちゃん・・・』

何度も何度も囁かれて、刻み込まれて。

心も身体も意識も、全部僕から奪い取っていった君。

「ずっと、一緒に・・・居るって・・・いったのに・・・」

きつく握り締めたシーツに、皺が寄る。

冷たいベッドの何処にも、君の痕跡は無くて。

ただ、現実だけを僕に見せ付ける。

＜・・・嘘吐き。＞

―――声にならない、想い。

＜嘘吐き。・・・嘘吐き・・・うそつき・・・。＞

本当に、嘘を付いていたのは、どっちだったのだろう？

僕？・・・それとも、君？

それすらも、もう確認する事も出来ない。

主を失った部屋は、僕と同じように・・・あの時から時が止まった空間だった。