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２０分後、秋生の家である真嶋商会にやってきた時には、二人ともびしょ濡れ状態だった。
「・・・着いたぞ。取り敢えず、ウチ寄ってけ。兄貴に車で送らせるから。バイクはまた後で、雨が上がったら持ってってやっからよ。」
「え？で・・・でも・・・」
「いいから、遠慮すんなって。・・・服もそのままじゃ、風邪でもひいちまったら、まずいだろ。」
バイクを倉庫内に入れて雨に当たらない状態にしてから、秋生は改めて拓にそう言った。
「くっそー、前髪うぜぇな・・・おーい、アニキっ！！」
ぽたぽたと髪を伝って顔面に滴り落ちる水滴を、嫌がるように前髪を掻き揚げて後ろに退けると、秋生は大声で作業場に居るだろう兄を呼んだ。
だが、返事が帰ってくる事は無かった。
「あれ？おかしいな・・・って、車がねぇ。配達にでも行ってやがんのか？おう、拓。取り敢えず、上がってこいよ。先に濡れた服何とかしようぜ。ほらっ。」
ズカズカと奥に入っていった秋生は、作業場からそのまま家の中まで入っていき、頭からタオルを被って戻ってきた。
そうして、持っていたもう一つのバスタオルを拓に寄越す。
「・・・あ、ありがと。」
バスタオルを受け取った拓は、そっと顔を拭いたが、絞れば水が出てきそうな服を拭くのは何だか申し訳なかった。
「うえー、絞れるな、マジで。これ・・・」
本当に無造作にシャツのボタンを外して、その裾をギュッと握って水を滴らせた秋生は、嫌そうな顔をしながらそのままシャツを脱いだ。
途端に、筋肉質な身体が現れて、拓はドキッとした。
同じ男なのに、秋生の身体に付いている筋肉は、拓がどう頑張っても手に入れられないような立派なモノだったからだ。
「お前もそれ、びしょ濡れじゃねぇ？脱いじまえば？」
被っていたタオルで身体を拭きながら言った秋生の言葉に、拓は目線を逸らしながら・・・途方に暮れた。
「で・・・でも、着替えないし・・・」
「俺のでよけりゃ、貸してやっからよ。ほら、マジで風邪引くだろうが・・・」
「ちょっ・・・わ・・・分かったから・・・脱がさないでぇ・・・！」
「・・・っ！・・・わりぃ・・・」
モジモジしている拓に、ついつい真里に世話を焼いているつもりで同じようにしようとした秋生は、真っ赤になって身を縮めた拓に慌てて手を止めた。
「じ・・・自分で脱ぐから・・・で・・・でも、貧弱な身体見ても笑わないでよ・・・」
「貧弱って・・・っっ！！」
真っ赤になったまま、恥ずかしそうにそう告げて、Tシャツを脱いだ拓に引き釣られるように、秋生もまた顔を赤くする。
「き・・・着替え取ってくっから。」
そのまま逃げるように秋生は、階段を上がっていった。
「・・・ふう。」
秋生が居なくなったので、拓は漸く緊張を解いてバスタオルで身体を拭き始めた。
「うわぁ・・・下着まで濡れちゃって、気持ち悪ぃ・・・どうしよ、これ・・・」
下を拭こうとして、途方に暮れる。
流石に下着まで借りる訳にはいかないだろう。
「取り敢えず、シャツだけ借りて、さっさと帰った方が良いかも・・・」
ブツブツ呟いていると、自分は着替え終わった秋生が、服を手に戻ってくる。
「一応、それ、俺が中坊ん時の服なんだけど・・・それ以外に小せぇ服ねぇから・・・」
差し出された服を広げて、一瞬固まった拓を見て、秋生が困ったように口を濁す。
「う・・・うん・・・。ありがと・・・」
中坊の時の服でさえ、高校生である今の拓の着ている服よりも随分と大きい事が、拓のコンプレックスをｸﾞサｸﾞサ突き刺していく。
それでも、他にないのなら仕方なく手を通したのだが、案の定サイズの合わない服は以前須王に貰った特攻服の様にブカブカで、下は完全に履けないだろう事が容易に伺えた。
それでも、濡れていない布の感触にホッとする。
「やっぱ、大き過ぎるか・・・」
Tシャツの襟ぐりも大きくて、今にも肩からずれそうだ。
「だ・・・大丈夫。うん、上だけでも嬉しいから・・・。あの・・・僕、やっぱりバイクで帰るよ。ここからならそんなに掛からないし・・・」
額を抑えながら苦悶する秋生に、拓は安心させるように笑みを見せる。
その途端、拓は秋生に引き寄せられた。
「え？・・あ・・・秋生くん？！」
驚いたような声が拓の口から零れる。
「―――オレが、嫌なんだよ！」
少し強い口調に、ビクッと拓が身じろぐ。
「え？」
「・・・帰らせられる訳ねぇだろ・・・雨降ってんのに・・・大事なおまえを・・・」
押し殺すような秋生の声に、拓はぎゅっと心臓を掴まれたような衝撃を受けた。
秋生がずっと自分の事を案じてくれていたのだと漸く気付いて、ずっと帰りたがっていたのが申し訳なくなってしまう。
肩口に顔を埋める秋生の髪が、首筋に冷たい。
自分もまだこんなにも濡れているのに、拓の心配ばかりする秋生に、拓は本当に申し訳ない気持ちで一杯になった。
「ご・・・ごめん・・・」
「―――拓？」
盛り上がるのは嬉しい気持ち。
こんな風に心配を掛けて申し訳ないのと、心配してくれて嬉しい気持ちとない交ぜになった想いが涙になった。
「泣くなよ・・・」
「・・・ちが・・・そんな風に、思ってくれるなんて・・・嬉しく・・・て・・・」
困ったように言う秋生に、拓はポロポロと涙を溢しながら微笑う。
「・・・バカヤロ・・・そんな顔されたら・・・我慢できねぇよ・・・」
眉根を寄せて苦しそうにそう呟くと、秋生は噛み付くように拓の唇に触れた。
「・・・ん・・・」
一瞬強く押し付けられた後で、離れた唇が戻ってしっとりと重ねられる。
「・・・はぁ・・・」
「―――あー、もう！散々我慢してたのに、もう無理だっ！限界っっ！！」
漸く口付けが離れて潤んだ瞳で見詰める拓の表情に、秋生の理性が白旗を上げる。
叫ぶようにそう告げると、秋生はそのままヒョィッと軽々と拓を抱え上げた。
「え？・・・あ・・・秋生く・・・んっ？！」
驚いた表情の拓を抱えたまま、ズカズカと階段を上がって秋生は自分の部屋へと入ると、そのまま拓をベッドの上に下ろした。
「ぼ・・・僕、まだ濡れてるからっ！！」
「んなもん、脱いじまえば同じだろ。」
「えぇ？！ぬ・・・脱ぐって・・・・んぅっ！！」
慌てて起き上がろうとした拓の身体を抑えつけると、そのまま秋生は拓の口をキスで塞いだ。
驚いて逃れようとする拓を全身で抑え込んで、逃がさないように覆いかぶさったまま、秋生は口付けを深くしていく。
上手く鼻で呼吸が出来なくて、思わず息を欲しがって薄く開かれた拓の口内に、秋生の舌が生き物の様に入り込む。
途端に、ビクリッと拓の身体が震えた。
初めての体験に、知らず涙が溢れる。
逃げ回る拓の舌を、絡め取るように秋生の舌が動く。
溢れた二人の唾液は混ざり合って、小さな拓の口から零れた。
濃厚なディープキスから漸く解放されても、拓はぐったりとしたまま潤んだ瞳でぼんやりとしていて、視点が合わない。
浅く上下する胸と、揺れる華奢な肩先・・・更に零れ落ちた涙が、シーツの上の拓の姿を痛ましく見せて、秋生は途端に後悔の渦に取り込まれた。
「・・・ふぅっ・・・っ・・！！」
「・・・っっ！！」
ギュッと辛そうに閉じられた瞳から溢れる拓の涙に、秋生は酷く殴られたような衝撃を受けて、我に返った。
激情に任せて、無理矢理してしまった感が拭えない。
誰よりも大事にしようと自分に誓った筈なのに、日に日に募る欲望に感情が追いつかない。
身を切るような想いで、秋生は拓の上から離れて、ベッドの下に背を向けて座り込んだ。
「・・・秋生・・・くん？・・・」
突然離れた秋生に、漸く息を整えられた拓が、声を掛ける。
「わりぃ・・・」
くぐもった声が小さく拓の耳に届く。
ゆっくりと身体を起こした拓は、ベッドに背を向けて胡坐をかいて座っている秋生の姿に目を見開く。
「どうした、の・・・？」
「―――下でアニキ待って・・・送ってってもらえ。拓の頼みなら、断んねぇと思うから・・・」
「でも・・・」
背中を向けたまま、拓を見ようとしない秋生に、何か怒らせてしまったのかと思って、拓は泣きそうになる。
「頼むから、一人にしてくれ・・・でねぇと、オレ・・・お前に何すっか分かんねぇ。」
ギュッと握り締めた拳が、膝の上で震えている。
秋生が何を我慢しているのか、おぼろげながら理解した拓は狼狽した。
凄まじい勢いで、全身が熱くなる。
あの流れからなら、秋生が望んでいるのはそういう事なのだろう。
拓自身には、男同士のそれがどうなのかも、本当にできるのかも全く理解できないのだが・・・。
―――未知への体験は怖くて仕方ないけれど・・・。
それでも、大好きな秋生がそれを望んでいるのなら、拓が拒絶する事はない。
先程のキスも、息が出来なくて苦しくて涙が溢れてしまったが・・・決して秋生にキスされるのが嫌なわけではないのだ。
「あ・・・あの、ね。秋生くん・・・」
拓の気持ちばっかり考えて、秋生の気持ちを押し殺して欲しい訳ではない。
こんな風に我慢して、顔を見れなくなる方が拓はずっと寂しくて悲しいから。
ベッドから降りた拓は、そっと秋生の後ろから、その大きな背中から抱きついた。
「―――大好きだよ・・・」
他に上手い言葉なんか思いつかないから、精一杯の想いを込めて呟く。
「だから・・・我慢なんかしなくて良いんだ・・・よ。」
「―――拓？」
消え入りそうな声で、拓が呟くと、驚いたような秋生が振り返った。
その瞳が縋るような色を醸す。
「・・・うん。」
にっこりと笑って、拓はそっと秋生の唇に自分のそれを押し付けた。
優しく触れるだけのキスだったけれど、離れた瞬間に見えた秋生の間抜けな顔に、拓は小さく笑ってしまう。
そうして、覚悟を決めたように、まだ湿って肌にへばり付いていたズボンを脱いだ。
「た・・・拓・・・？」
茫然と呟く秋生の言葉に、全身を染め上げながら、拓は借りていたTシャツも脱いだが・・・余りにも秋生の凝視に堪えられなくて、頬を染めたまま身を捩って脱いだTシャツで身体を隠してしまう。
「・・・や・・・やっぱり・・・恥ずかしい・・よぉ・・・」
真っ赤になってへたり込もうとした拓を、秋生の腕が捉えた。
「拓・・・拓・・・たく・・・」
何度も拓の名を呼びながら、Tシャツごと拓を抱え込んでキスの雨を降らす。
「・・・ん・・・・」
ギュッと目を瞑って震えながら、拓は身体のあちこちに秋生の唇が触れるのを堪えた。
余りにも恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだったけど・・・自分に触れているのが大好きな秋生なんだと思って身を委ねる。
口付けられながらベッドの上に戻されて、秋生が覆いかぶさってきても、もう拓は逃げなかった。
「―――優しくすっから・・・」
「・・・う・・・うん・・・」
首筋に触れた秋生の唇から、くぐもった声が聞こえて、くすぐったさに堪えながら、拓はギュッとシーツを握り締めた。
肌のラインを辿る秋生の唇が、胸の上で何かを見付けたように止まる。
そこにあったのは、過敏な小さな赤い芽。
ずっとくすぐったいような感覚だったのが、急に強い刺激になって拓はびくっと大きく跳ねた。
「あっ・・・！」
零れ落ちた自分の声の高さに、驚いて慌てて口を塞ごうとしたのに、それは秋生の腕に阻まれた。
「お前の声・・・聞きてぇ・・・。」
強請るように言われてしまえば、それ以上拓が抵抗できる筈もない。
それでも、弄られる度に漏れてしまう自分の声が、本当に恥ずかしくて拓は身悶えた。
「・・・や・・・声・・・こんなの・・・ふぁ・・・んっ・・・もう、そこ・・・やぁ・・・」
真っ赤になって懇願する。
舐められたり、強く舌で押されたりする度に、身体がビクビクして高い声が溢れてしまう。
しかも、身体の奥から盛り上がるような熱が、確かにそこが性感帯なのだと示すかのように違う場所にも刺激を与えていた。
「スゲー・・・可愛い・・・」
胸への刺激だけでヘロヘロになっている拓に、秋生の性も滾る。
すぐにでも爆走しそうな想いを抑えて、秋生は拓の身体を馴染ませるようにゆっくりと愛撫していく。
泣きじゃくる拓に、余り虐めるのも可哀想な気がして、秋生は更に触れる箇所を下降させていく。
細い腰に浮き出るような腰骨にキスをしてから、膝を曲げさせて膝小僧へ。
そこから徐々に上に向けて、太ももの内側を撫でるように口付けていく。
「・・・ん・・・んっ・・・・」
触れる度に、ビクビクしながらも声を押し殺すような拓に、秋生の口元に笑みが刻まれる。
まだ触れていないのに、若い性は確かに普段鈍感な拓にも快感を与えているようで・・・まだ脱がせていない下着の中で張り詰めていた。
「―――あっ・・・！！」
ゆっくりと脱がせると、半ば屹立した小さめなそれが外の空気に触れてフルリと揺れる。
息を詰めるような声が、聞こえたが秋生は聞こえなかった振りをした。
こんな風に、同性のモノを見るなんて、拓を好きになるまでは想像もしていなかった。
なのに、不思議と嫌な気にもならず・・・自分の愛撫で感じているのが嬉しい。
恥ずかしがり屋の拓だから、多分精神的に物凄い状態になっているのが秋生には手に取るように理解ったが、もう欲望を抑え切れなかった。
想いが通じ合ってから３ヶ月・・・それこそ、拓に付きまとう強烈な連中を退けて、漸く初めてキスを交わしたのが、２ヶ月前。
何度か良い雰囲気になる度に、何処からともなく現れる邪魔な連中の所為で、初デートに漕ぎ着けるまでにだって今日まで掛かってしまったのだ。
まさか、今日この日に、こんな風に抱き合うことが出来るなんて思いもしていなかったが・・・拓の許しを受けた今、秋生を止められるのは何も無かった。
「ひゃあぅ・・・・ぅ・・んっ・・・」
そっと触れると、ビクンッと拓の身体がまた跳ねる。
縋るように動いた拓の腕が、自身に触れる秋生の愛撫を止めようとその腕を掴もうとするが、全く力が入っていない。
ただ、触れているだけなので、そのままに秋生はゆっくりと優しく強弱をつけて扱き始めた。
途端に、手の中で滑らかな手触りのそれが固さを変えていく。
「あっ・・・んん、・・・ふっ・・・」
チラリと拓の表情を見ると、涙に濡れた瞳を空に漂わせて恍惚とした状態で、喘いでいる。
その顔は恐ろしいほど、扇情的だった。
もっと乱れさせたくて、秋生は先走りの蜜で滑りを帯びたそれに口付けた。
そのまま口に含んで舌を這わせると、行為に気付いた拓が逃れるかのように身じろいだ。
「やっ！・・・そ・・・そんな・・・んっ・・・汚いよぉ・・・や、・・・やだぁ・・・」
今度こそ、秋生の髪に指を絡めるようにして頭を押し退けようと腕を突っ張る。
「・・・だ・・・らめぇ・・・あきお・・・く・・・おねが・・・らからぁ・・・」
呂律の回らない声で、大きく息を吐き出しながら、拓は必死に懇願する。
それでも、秋生は行為を止めなかった。
拓の言葉よりも、その身体の方が正直だからだ。
口に咥えたモノは、秋生の与える刺激に奮えながら喜んでいる。
本当に嫌なら、とっくに萎えてる筈だ。
「や・・・も・・・出ちゃうよぉ・・・離してぇ・・・っっ！」
悲鳴のような声が、拓の口から零れ落ちる。
必死で我慢しているのだろう事は、いつの間にか縋るように髪を掴んだ指先が小刻みに震えている事で理解った。
ガクガクと震えている腿の震えが、緊張を伝えてくる。
「ふ・・・あぁ、ぁ、・・・―――――っ！！」
ギリギリまで口で扱いて、拓が達する瞬間に、秋生は口を離して吐き出された精を手で受け止めた。
【達（い）】った衝撃で、一瞬意識を飛ばしていた拓は、薄い胸を激しく上下させながら・・・ぐったりとシーツに身を沈めている。
薄く開かれた瞳に涙が溜まり・・・無防備な表情は、誘っているかのように口端から赤くて小さな舌を覗かせていた。
その酷く色っぽい表情に、秋生は我慢できなくなった。
「―――拓・・・」
意識を朦朧とさせてるような拓の頬にキスして、秋生は拓の膝裏を持ち上げて足を開かせる。
「・・・やっ・・・ぁ！」
恥ずかしい格好に、気付いた拓が、全身を染め上げて顔を手で覆ってしまう。
「・・・おま・・・あんま、煽んな、よ・・・」
秋生だって、言っちゃあ何だかこうゆう行為は初めてなのだ。
雑誌やHビデオで知識はあるが、画面の向こうで乱れている女はいつだってもっと淫らでいやらしくて・・・こんな風に可愛くて堪らなくなるような仕草なんかしない。
はっきり言って、男なんだから、早く突っ込みたい。
だけど、拓は女じゃなくて・・・男同士のSEXは物凄く痛くて・・・それこそ、相手を貶めるリンチ的な行為で行われる事もあるぐらいだと耳にした事があって・・・。
そんな風にしたい訳じゃないけれど、それでも一つになりたいと思うのはただの我が侭なのではないか―――と、悩まなかったと言ったら嘘だ。
「拓ぅ・・・オレ、お前ん中に・・・」
―――挿れたい・・・。
その言葉が、どうしても躊躇する。
それでも、濡れた指先で後孔に触れて・・・周辺をなぞった事で拓にも秋生の願いが理解ったようだ。
大きく瞳を見開いて・・・かあぁっと顔を紅潮させて、拓は秋生を見た。
二人の視線が絡み合う。
「あっ・・・あ・・・ぼ、・・・ぼく・・・」
オロオロと目線を漂わせた拓は、ゴクッと息を飲み込んだ後で、ぎゅっと目を瞑った。
「―――あ・・・秋生くんなら。・・・そ・・・その・・・ぼく、どうしたら良いのか・・・理解んないけど・・・」
両手で顔を隠すようにしながら、小さな声でボソボソと呟く拓の姿に、秋生は泣きたくなるぐらい胸が苦しくなった。
ああぁ・・・もう、こいつどうしてくれようか・・・。
そんな愛しさだけが、苦しい程胸を締め付ける。
何をされるのか良く分かっていないだろう事は、小刻みに震える身体の振動で秋生に伝わっている。
それでも、それを拓は受け入れるのだ。
今までずっと幼馴染みの心配をしてばかりで・・・こんな風に純粋な想いを貰った事なんかなかった。
幼馴染みの真里や晶には持たなかった感情。
大切にしたいという想いは同じなのに、誰にも渡したくないという“独占欲”を、初めて持った相手は拓だけだった。
最初にこの感情に気付いた時は、自分も焼きが回った・・・と、秋生は自分でも呆れたぐらいだったのに。
受け入れられないだろうと思っていた感情を、拓は不器用な想いで返してくれた。
まさか、両想いになれるとは全く思っていなかったから、それからがまた大変だったが・・・。
「―――できるだけ、優しくすっから・・・」
湧き上がる愛しい想いのままに、秋生はそっと拓に口付けた。
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