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（このSSは18禁なので、十分お気を付け下さいｗ）
ＳＥＸＹ 〜すべてはこの夜に〜
夜が来る。
心が通じ合ってから、初めての二人きりの夜が・・・。
ドキドキする鼓動を止められない。
これは、誓約だ。
二人の心が、触れ合う為の儀式のようなもので・・・逃げだしたくなる身体を必死に抑えて、その瞬間を待っている。
ベットの上・・・真新しいシーツの感触に、激しく鳴る響きが耳を捕らえる。
息苦しくて堪らない。
特別な今夜・・・。
朝まで二人きりで過ごそうと囁かれたその言葉を、受け入れたのは自分。
それでも、あの時の恐怖は記憶から離れる事はない。
その感触が蘇って、慌てて意識の外側へと追いやる。
あれは、悪夢だ。
二人の想いがすれ違った為に、起こってしまった忌まわしい出来事。
無理やり開かされた傷口よりも、傷んだ心。
もう、忘れよう。
そうして、最初から始めよう。
決めたのは自分だから。
他の誰でもなく、選んだのはただ一人の・・・。
そこまで考えて、ベットの上に座っていた浅川拓は彼がとても好きなのだという事に気付いてしまった。
あんなにも激しく傷ついて、ボロボロにされたというのに・・・。
それでも―――心は変わらない。
あの日から、ずっと。
紫の髪が目の前を横切って、偶然とは言えキスをしてしまったあの夜から・・・本当は拓だってずっと気になっていたのだ。
無理に忘れようとしていただけで。
互いにすれ違った想いの所為で、随分と遠回りをしてしまったけれど、通じ合った今、想いを止める事などできそうもなかった。
カチャッとドアが開かれる。
入ってきた人物を瞳に映した時に、その瞳が恐怖に打ち勝ったかのようにゆっくりと細められる。
シャワーを浴びてきたらしい彼は、いつもディップで固めて立たせている髪を下ろしていた。
紫の長い髪がまだ幾分か濡れて、思ったよりも長い流れを作っている。
鬱陶しげに前髪を掻き上げると、彼はゆっくりと歩いてベットに近づいた。
視線は絡まったままだ。
一瞬も離れる事はない。
そのままベットに片膝を乗せて、彼はベットの上に座り込んで待っていた拓に静かに口づけた。
「・・・ん・・・」
小さな言葉が吐息と共に、口元から零れ落ちる。
密かな身じろぎを、戸惑いごと両腕の中に抱き込んで、封じ込めてしまう。
膝立ちになった彼に、引き寄せられて危なげな態勢のままに長く激しい想いの込められたキスは、拓の全ての思考すら奪い取ってしまいそうで・・・流されないように縋りつく。
「・・・は・・ぁ・・・」
長い、永遠に続くかと思われた口づけから漸く解放された時にはがっくりと膝が砕け・・・彼の腕の中に、肢体の全てを預ける状態になってしまっていた。
乱れてしまった呼吸を取り戻そうと荒く肩で息をしている腕の中の、存在に彼はゆったりと瞳を細めて、その首筋に唇を寄せる。
「・・・拓・・・。」
甘く囁かれる自分の名前に、ビクリと身を強張らせて・・・ギュッと眉を寄せる。
怖さと嬉しさの入り交じったゴチャゴチャとした感情の波に流されてしまいそうで、ただ彼の着ていたガウンをきつく握り締める事しか拓には出来なかった。
彼の名は緋咲薫。
横須賀の暴走チームである『麓沙亜鵺』の１１代目の頭でもある。
『麓沙亜鵺』はまた、拓の『親友』でもある鳴神秀人の率いる横浜最強チーム『外道』の天敵でもあった。
だからこそ、初めて会った時は、拓と緋咲も喧嘩をしたのだ。
勿論、拓の方は勢いだけで・・・とてもではないが緋咲の相手になど、なりはしなかったが・・・。
殺される・・・そう思った瞬間に、全ては始まったのだった。
ドサクサ紛れに、逃げだしたのも束の間、一人になった瞬間に拓が思い出したのは・・・緋咲が触れた唇の感触だった。
その時は、何となく不可思議な感情が横切ったが、ファーストキスを不可抗力とはいえ男に奪われてしまったショックと嫌悪の方が激しくて、沸いた感情は消え失せていたけれど・・・。
それが、思っていたよりも深く根付いていたのだと気付いたのは、緋咲の言葉に想像以上に傷ついた自分を認識してしまったから。
疑心暗鬼は、真実の想いすら、ネジ曲げて・・・。
ただ、互いに傷つけ合う事しか出来なかったあの頃。
自分に自信のない拓には、本気で緋咲が拓の事を愛している事など、信じられる筈もない。
それでも、言葉ではなく・・・態度で緋咲はそれを拓に示した。
自分の位置を失うかもしれないような状態で・・・拓を選んだのだ。
信じない・・・と堅く拒んでいた心は、その瞬間に吹き飛んでいた。
緋咲の言葉にあれ程深く傷ついたのもまた、拓が緋咲を好きだったから。
「・・・拓・・・」
もう一度優しい言葉が耳元を擽り、拓は回想から意識を戻した。
いつしか身体は、緋咲の腕に抱かれたままシーツの波に沈んでいる。
ギシッと軋むベットの音に、拓はポッカリと瞳を開けた。
目の前に、緋咲の綺麗な顔があった。
その眼差しの中に、心配そうな陰りを見つけて、拓は大丈夫だとフワリと微笑った。
それでも、あの時の恐怖を覚えている身体の震えを止める事はできない。
優しいキスを受けながら、ガウンの紐を解かれる。
素肌の上を、緋咲の指が辿っていき・・・キスされたままの状態で、拓はゾクリと身を震わせた。
だが、その恐怖に負けないように、緋咲の背中に両腕を回してしがみつく。
ギュッと瞑られた瞳から、じんわりと涙が滲んで零れ落ちる。
その涙を緋咲は、何度も安心させるように口づけで拭っていく。
「・・ぁっ・・・」
か細い声が上がる。
素肌の感触を馴染ませていた緋咲の指が、拓の柔らかそうな胸の突起を捕らえたのだ。
ユルリと人指し指で撫でた後、軽く摘まれる。
ピクッと反応を返す拓の肌が、さざめく。
ピリピリと過敏に反応してしまう肌を覆う産毛が、ゾクリとする感触に総毛立った。
「・・・ここは・・・嫌・・・か？」
首筋に顔を埋めた緋咲が、拓に尋ねる。
ギュッと唇を噛み締めて・・・頬を綺麗に染め上げたまま、拓はフルフルと首を横に振った。
「・・・ふぁ・・・っ・・・！」
シーツの波を漂っていた拓の背が纎かに反り返る。
指と同時に、緋咲の唇が突起を含んだ瞬間に。
舌で転がされる感触に、イヤイヤをしながら擦り上がろうとする。
背筋を駆け抜けるこの感触を何と言えば良いのか、拓には理解らなった。
ただ、そのまま続けられたら、どうにかなってしまいそうな自分が怖かったのだ。
ペロッと緋咲が舌で嘗め上げる度に、ビクリと身を震わせる。
ただそれだけなのに、どんどんと高ぶっていく感情に呼吸が荒くなっていく。
「・・あっ・・・・ゃっ・・・！」
不意に緋咲の腕が、反り返っている拓の背中に回り・・・胸に顔を埋めたままで、抱えるような恰好で拓の腰を自分のそれと密着させたのだ。
はっきりと認識させられてしまう。
相手の昂り以上に自分の事までも・・・。
まだ触れた訳でもないのに、正直な身体は欲望を隠しきれない。
カアァァァっと耳まで紅潮させて、拓はシーツに顔を埋めた。
恥ずかしくて・・・どうにかなってしまいそうだった。
あの時は、こんな風にはならなかったのに。
ただ衝撃と、暴力のままに無理やり引き裂かれた傷みしか残ってはいない。
どうしよう・・・。
あの時とは違う恐怖が、拓の胸に沸き上がる。
ドキドキと高鳴る鼓動は、今にも胸を突き破ってしまうのではないかと思える程、激しく脈打っている。
小刻みに震える拓の身体を、緋咲は怯えさせないように慎重に離すと、ガウンを脱ぎ捨てた。
均整の取れた身体が、月明かりの中に浮かび上がる。
紫の髪が、光を通して幻想的に拓の涙に濡れた瞳に映った。
拓のガウンも既に腕を通しただけという状態で、着ているとは言えなかったので、再び緋咲が拓を抱きしめた時は・・・互いの素肌が直接触れ合う感触がダイレクトに伝わった。
拓の恐怖が頂点に達する。
どんなに忘れようと思っても、忌まわしい記憶は拭えないのだ。
心では緋咲を受け入れようと必死なのだが、身体はどうしても硬直してしまう。
そうして、それが、無意識の動作で現れる。
「・・やっ！・・」
ビクリと大きく震えた拓は、両手で緋咲の身体を押し退けようとした。
「―――拓？」
驚きに、緋咲の瞳が見開かれる。
大粒の涙を、その大きな瞳からポロポロと零しながら、拓は緋咲の腕の中から逃げ出そうとする。
腕の中で暴れる拓に、緋咲は辛そうに眉を顰めて、逃がさないようにきつく抱き締める。
「・・・逃げ・・ないでくれっ！―――頼むから・・・怖がらないで・・くれっ！」
悲痛な想いが、緋咲の唇をついて出る。
それは緋咲の魂からの叫びだった。
怯えたようにビクリと動作を止めた拓は、それでもガタガタと震えながら、緋咲の中で小さく縮こまった。
そんな拓を腕の中にすっぽりと怖がらせないように包み込んで・・・緋咲はそのシャンプーの匂いのする髪に顔を埋める。
「・・すまない・・・嫌なら、もうしない。だから・・・こうして抱き締める事も・・・俺の腕の中にいる事も・・・嫌だとは・・・言わないでくれ・・・。」
救いを求めるように苦しげな口調に、拓は我慢出来なかった。
緋咲の腕の中で、その胸に顔を埋めて泣き始める。
悲しくて・・・どうしても恐怖に勝てない自分が悔しくて・・・。
緋咲が怖い訳では、決してない。
それを理解らせてあげたいからこそ、拓は緋咲に抱かれても良いと思っていた。
緋咲に抉られた傷を、緋咲に抱かれる事で、忘れてしまいたいからこそ・・・。
「―――今夜はこのまま・・・眠ろう。」
拓の髪先をゆっくりと慰めるように梳きながら、緋咲は、はっきりとそう口にした。
その言葉に、拓はハッとしたように顔を上げて、緋咲を見つめた。
そうして、緋咲の真摯な眼差しに虜まれて・・・それが、嘘ではない事を悟る。
ギュッとシーツを握り締めて、拓は震える唇を開いた。
「・・・ゃだ・・・。」
瞬時に、真っ赤になる。
「・・・拓・・・？」
不思議そうに尋ねる緋咲は、一瞬自分の耳を疑った。
「・・・逃げ・・ないから・・・もう・・・イヤがらないから・・・―――止めないで・・・。」
最後の方は今にも消え入りそうな言葉ではあったが、それでも拓は蚊の鳴くような声でそう呟いた。
ここで止めてしまえば、緋咲は本当に二度と拓に手を出さないと思ったのだ。
そういう相手だと・・・いつでも拓の気持ちを一番に気づかってくれる緋咲だからこそ・・・。
「・・・好き・・・」
全身が、ボッと火を点けたように熱くなる。
それを誤魔化す為に、緋咲の視線から、恥ずかし過ぎてシーツに逃れようとした拓は、逆に緋咲の力強い腕に引き戻された。
「・・・緋咲・・・くん・・・っ？！」
焦って、ドギマギしてしまった拓の、肩口に顔を埋めて・・・緋咲はきつく拓を抱き締めた。
「・・・ってくれ・・・」
「えっ？」
セリフが聞き取れなくて、問いかける。
「・・・もう一度、言ってくれ・・・。」
掠れた声が、拓の鼓膜に響いた。
「あっ・・・」
困ったように、拓は口元を押さえる。
そんな事・・・何度も言える筈もない。
恥ずかしくて、どうしようかと思ったが・・・誰よりも、それが緋咲の願いなら、叶えてやりたくて・・・。
「・・・好き・・・だ・・・んっ・・・！！・・」
告白は途中で・・・いきなり唇を奪った緋咲のディープキスに封じ込められた。
驚いて逃げようとする拓の舌を、緋咲の舌が搦め捕って吸い上げる。
痺れのような甘美な感触が、拓の意識を奪い去る。
「・・・んっ・・んっ・・・ふっ・・・」
同時に始まった愛撫に、中断されていた身体の奥の火種が燃え上がる。
初心者に対しては激し過ぎるそれに、拓はどうする事も出来ずに、ただ身を任す事しか出来ない。
ゆっくりと身体のラインを辿った緋咲の指は、やがて拓の中心へと辿り着いた。
最初は布の上から触れられ、ゆるりと刺激を受け・・・そうして、拓の感覚が完全に緋咲の腕の中へと移ってから、漸く口づけから放して貰えた。
「拓・・・たく・・・」
涙の跡や柔らかな頬のラインに口づけながら、甘く囁く緋咲の言葉と愛撫に、拓は徐々に上り詰めていく。
やがて、下着の裾から差し込まれた指先が、直に触れた時、その感触は拓の背筋を駆け抜けた。
やんわりと絡みつく指先の動きに乱れた息の為に、綴じれなくなった唇から喘ぎが漏れてしまい・・・無意識に拓は、自分の指を噛んだ。
その痛みに、一瞬気を取り直すが・・・気付いた緋咲に優しく、だが抵抗を許さない強さでもって、奪われてしまう。
「・・あぅっ・・・」
更に軽く扱かれて、ビクリと身体が撥ねて、信じられない程に甘ったるい声が飛び出した。
一度外れた箍は再び戻る事もなく・・・次々と甘い悲鳴が上がる。
追い詰められて高められて・・・捕らわれた指先に、緋咲が口づける。
拓の指先を、緋咲の舌が這う。
ゆっくりと・・・だが丹念に搦められる・・・。
そうして、指先から離れた緋咲は、一度拓の臍の横をペロリと嘗めてから・・・指を搦めていた拓自身を、口に含んだ。
「・・・あっ・・・っ！！」
驚きと衝撃で、拓は半分程飛ばしかけていた意識を一瞬覚醒させる。
自身を包み込んでいるのが、緋咲の口内なのだと理解した途端に、狼狽と恥ずかしさでボッと顔から火が吹くかと思った。
「・・・ゃあっ・・・やぁだっ！！」
むず痒いような・・・掬われるような感覚に、泣きながらシーツを擦り上がる。
だが、抱え込まれた下半身はビクともせずに・・・逆に絡みついた舌に、大きく弓なりに背を反らす事しかできなかった。
「・・・お願い・・・離して・・・ボク・・・もうっ・・・」
逃れるかのように、緋咲の髪に両腕を搦めて、離そうとするのだが・・・身体に力の入らない状態では、望みは叶わなかった。
大きな波がやってくる。
解放を待ち望んで、ギリギリまで膨張した想いが出口を求めて集中していく。
「・・・はなしてっ・・・んっ！・・・」
甘い悲鳴のような哀願の後、拓の全身を激流が飲み込んだ。
頭を退けようとした指先が、以外と柔らかな緋咲の髪に差し込まれて、縋るかのように搦められる。
衝撃に息を詰めて耐えながら・・・タイミングを図ったかのように刺激を加えた緋咲の舌技に、拓が適う筈もなかった。
緋咲は拓の放ったものを難なく飲み下して・・・ぐったりとシーツに四肢を投げ出して、呆然としている拓を抱き締める。
「・・・お前が・・・欲しい・・・」
問い掛けのような言葉に、拓は脱力した状態のまま、必死に両腕に力を入れて、緋咲に凭れかかるようになりながらも小さく頷いた。
このまま終わらせられる−筈もない。
緋咲だとて、まだ想いを解放していないのだ。
拓を気づかって、態々尋ねてくれるその心が嬉しくて・・・拓はゆるりと微笑った。
火照った身体をシーツに投げ出して・・・覆い被さる緋咲の重みを感じる。
そうして、腰に当たるその欲望も・・・。
それでも緋咲の愛撫は、拓を気遣う慎重なものだった。
拓自身に指を這わせて・・・拓の意識をそこに集中させながら・・・もう片方の指を、拓の口元に寄せる。
「―――嘗めるんだ・・・」
言われるままに、拓は緋咲の指先を口に含んだ。
先程、自分がされたように、舌を這わせる。
「・・・腰を浮かせて・・・。」
命令のような言葉にも、拓は素直に反応する。
身体が小刻みに震えるのが、恐怖の為なのか、緋咲に与えられる感覚の為なのか・・・拓にも理解らない。
「・・・っ・・・！」
浮いた腰の後ろから差し込まれた指先が、暫くの間は双丘の奥まった蕾を、ゆっくりとほぐすかのように撫でられていたが・・・幾分きつく自身を扱かれた時に、同時に拓の中に侵入してきた。
息が詰まるのと同時に、身体が硬直する。
体内に忍び込んだ指が、掬うように内壁を撫ぞる。
「・・・あっ・・・」
眉をきつく寄せて、拓はその感触から逃れようと首を振る。
そんな拓を、緋咲の唇が、顔中にキスの雨を降らせて宥めていく。
奇妙な感覚は、不意に訪れた。
中で蠢いた指先が、触れた箇所で・・・拓の身体が大きく震えたのだ。
「んっ・・・！」
鼻に掛かる甘い吐息が、唇から漏れる。
同じ箇所を辿ると、腿が痙攣したように小刻みに震え・・・緋咲の中に存在する拓自身が、反応した。
「・・・ここが、『良い』のか？」
クックッと揶揄するかのように問いかける緋咲に、拓は真っ赤になって首を横に振る。
だが、身体は正直だった。
増やされた指先が、擦るかのようにそこに触れる度に、過敏な反応が全身を震わせてしまう。
余りの恥ずかしさに、拓は身を捩ろうとするのだが、前後から押さえ付けられているので、どうにもならない。
はぁはぁと荒くなる息に、胸が苦しくて涙が出てくる。
「・・・緋・・・咲・・く・・・」
熱過ぎる身体をどうにかしてほしくて、拓は緋咲に縋りつく。
「・・・薫・・って呼べよ・・・。」
拓の耳たぶを軽く噛みながら、緋咲が囁く。
「・・・ぉ・・・る・・・」
「―――聞こえない・・・。」
この苦しさから解放して貰えるのなら・・・と必死の想いで口にするが、きっぱりと言われてしまう。
「・・・もうっ・・・許し・・て・・・薫ッ！」
泣きながら、拓は哀願する。
こんな状態のままでは、気が狂ってしまう。
拓の言葉に、緋咲は初めて自分の意志で拓に口づけたあの時のように、うっとりとした表情で微笑んだ。
それは恐ろしくセクシーな微笑であり・・・緋咲の会心の笑顔だった。
霞む視界の中で、拓はその笑みに捕まった・・・と感じた。
―――捕まってしまった・・・と。
指を抜かれると同時に、身体を開かされる。
緋咲の欲望が、露になった拓の蕾にあてがわれ、貫かれたのは一瞬だった。
「・・・ひぃっ・・・あぁ・・！！」
激しい衝撃に飲み込まれる。
変わらない裂かれる痛みが、全身を駆け巡る。
知らず流れる涙を、唇が拭い・・・シーツを握り締めていた指先を捕まえて、背中へと導いていく。
最初の勢いで全てを拓の中に収めた緋咲は、そのきつく締めつけてくる感触に、フーッと吐息を吐いた。
拓の身体を押さえ付けるかのように包み込んで・・・逃れられないように肩先を掴む。
背中に回された拓の指先が、余りの痛みに、無意識に力を入れて−爪を立てる。
泣きじゃくる拓の苦しみを、少しでも慰めるように、キスをしながら搦めていた自身に刺激を与えてやる。
緋咲の腕の中で、啜り泣きながら身を強張らせていた拓の身体から、徐々に力が抜けていた・・・苦痛以外の吐息が溢れてくる。
「・・拓・・・拓・・・」
何度も何度も名を呼びながら、緋咲はゆっくりと拓の中で己の欲望を解放させる為に、動き始める。
その度に、拓の身体に震えが走るが、最初の痛み程ではないらしく・・・緋咲を拒絶する動きはなかった。
痛みから逃れる為に、緋咲の与える快感を追い始めた拓は、いつしか緋咲の動きが激しくなっても同調するかのように身体を預けていた。
互いの呼吸が荒くなり、重なり合う鼓動の響きが、どちらのものなのかも理解らない程に、感覚に飲み込まれていく。
「・・愛してる・・・拓・・・拓・・・」
他に想いを伝える言葉を持たないかのように、緋咲はただ拓の名を呼び続けた。
言葉で包み込まれて・・・全身で追い詰められて・・・緋咲の腕の中で、拓は二度目の解放へと上り詰めていく。 それを感じた緋咲の動きも一層激しくなった。
意識を半分失いかけたまま、拓は緋咲にしがみついて甘い悲鳴を上げ続けている。
貫かれて抉られて・・・なのに、既に痛みではない感覚がジワジワと全身を嬲っていく。
「あっ・・あぁーーーーっ・・・！！」
「―――た・・くっ！」
先に昇り詰めたのは、拓の方で・・・深く拓の身の内に己を沈めた時に、緋咲もまた、自分の欲望を拓の内へと吐き出していた。
緋咲の腕の中で、これ以上はないというぐらい背を反らせた拓が、次の瞬間、カクリと崩れ落ちる。
そんな拓を支えたまま、緋咲は欲望の解放の余韻を味わうように呼吸を整えていく。
「・・・ふぅっ・・・。」
やがて俯いていた顔を上げて、緋咲は乱れて汗で張り付いた前髪を、片手で持ち上げて後ろに掻きあげた。
そうして、腕の中でぐったりしている小さな肢体を抱え直したまま、横になる。
ひんやりとしたシーツの感触が、まだ熱さの冷めきらない肌に気持ち良く感じられた。
既に拓は、完全に意識を失っていた。
指で顔を軽く持ち上げながら、緋咲は、涙の跡が赤く残っている拓の頬に唇を寄せる。
拭うように移動しながら・・・きつく噛み締められた為に切れてしまった拓の唇の血を、舌で嘗め取った。
そのまま、深く口づける・・・。
意識を失ったままの拓の身体は、無抵抗なまま、緋咲の口づけを柔順に受け入れるだけだ。
その瞬間、拓の全ては緋咲の手の内にあった。
緋咲の表情に、自嘲気味なものが浮かぶ。
間違いなく初心者とも言える拓に対して、気を失ってしまうまで犯ってしまった事が、可笑しくて・・・また、どうしてこうなってしまったのかさえも理解らない程、夢中になっている自分が、何だか滑稽に思えた。
それでも、腕の中に拓が存在する事が嬉しい。
それは紛れもない―――"真実"。
「・・・拓。」
耳元に唇を寄せて、甘く呟く。
勿論、拓から返事が返る事など、期待してはいない。
抱き締めて背中から拓を抱き寄せると、そのサラサラの髪に顔を埋める。
密着する肌を通して、拓の鼓動が緋咲のそれと絡まっていく。
ゆっくりと・・・穏やかな・・・振動。
その音に意識が浸透していくかのように、引き込まれていく。
朝がくるまでの―――幸福な時間。
誰にも渡さないと思った者を両腕で抱き締めながら、緋咲もまた微睡みの中に沈んでいった。
『朝の光りの中で目覚めたら・・・最初にキスを交わそう。』
そんな事を夢見ながら・・・。
―――その時、一体、拓はどんな顔を緋咲に魅せるのだろうか・・・？
終わり。（うわーんゲロ甘で死にそう・・・（Ｔ▽Ｔ；） ／ 戻る
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