ＭＯＯＮ　ＢＡＢＹ　（後編）　１



　――朝目覚めたら、いきなり二人の子持ちになってしまった――


　幾ら拓が、衝撃的な毎日を過ごしているからと言っても、この出来事はあんまりかもしれない。
　しかも、そんな覚えもなければ、"男"の拓が、子供を生める筈もない。
　それが、常識の筈なのに・・・何故、それが当たり前ではなくなってしまうのであろうか・・・。
　ハァ・・・。
　深いため息が、拓の口元から零れ落ちた。
　


　朝っぱらからの大騒動が・・・漸く落ち着いた頃、拓は疲れたようにソファーに身を預けきっていた。
　折角意識を飛ばして、夢にしてしまおうと思った拓の目論見も、後からきて、パニックに陥った乱校のクラスメートである、リョーやカズたちによって、叩き起こされてしまったのであった。
　その後、何も理解らない拓に、上手く説明がつけられる筈もなく・・・結局収集がつかない状態になった所で、騒ぎに飽きた時貞によって、皆追い出されてしまったのである・
　周りを巻き込むだけ巻き込んで、突き放す時貞の、変わらない非常識に、拓はただただ泣きが入るだけであったのだが・・・。
　帰り際の、皆の視線が、とても痛かった拓は、明日っからの人生がとても辛いものになってしまったような気がした。
　勿論、そんな事が、時貞に通用する筈もないので、拓は泣き寝入りをするしかないのであるが・・・。
　「名前をつけよう。」
　拓にそっくりな方の子供を、両手で持ち上げながら、時貞が笑顔でそう告げる。
　腕の中の時貞に似た子供に視線を向けてから、拓は困ったような表情を浮かべた。
　「拓ちゃん？」
　「・・・そうだよね・・・。ボクたちで育てなきゃダメなんだよね・・・。」
　笑顔を止めて、尋ねる時貞に、拓は不安を告げた。
　それも当たり前かもしれない。
　何しろ、この歳で子持ちになるとは拓は思いもしてなかったのだ。
　しかも、何の前触れもなく突然なのであるから・・・。
自分が、生んだというのは、絶対にないと否定できるが・・・ここまで自分たちに似ていると、全然関係がないとは言い切れまい。
　時貞の説明が、何処まで本当の事なのか、拓には理解できなかったが・・・現実に存在している子供たちが、逃れられない物的証拠でもあったので・・・拓はますます困惑してしまう。
　「・・・迷惑だった？拓ちゃん・・・。」
　不意に、声のトーンを落とした時貞が、拓に向かって問う。
　「――時貞くん・・・？」　
　「ゴメン・・・嬉しいのは、オレだけかもしれない。だけど・・・オレ、拓ちゃんとの子供だから・・・二人で育てたい・・・。」
　ハッとしたように顔を上げた拓は、その瞳の中に、淋しそうな時貞の姿を見つけて、何故か胸が痛んだ。
　拓に似た子を、キュッと胸に抱き込んで、告げる時貞に、拓は困ったように微笑した。
　それから、全身の力を抜く。
　「――うーん・・・なんか、まだ戸惑っちゃうけど・・・・・・。それが時貞くんの望みなら・・・ボクは別に・・・」
　照れたようにそっと告げる拓を、時貞は次の瞬間、片手で引き寄せた。
　「とっ・・・時貞くん？！」
　「・・・嬉しいよ・・・拓ちゃん。拓ちゃんなら、きっとそう言ってくれると信じてた。オレに家族を与えてくれるって・・・」
　夢を見ているようにうっとりと告げた時貞は、拓の唇に軽いキスをする。
　途端に真っ赤になってしまう拓に、二人の子供を預けると、そのまま拓ごとそっと包み込んだ。
　「オレの腕の中の大切な『家族』。誰にも渡さない・・・オレが護るよ。」
　ニコッと微笑む時貞の言葉に、拓は恥ずかしくて首まで赤くして照れてしまう。
　それが、時貞の真剣な『想い』だと言う事を拓は理解っていた。
　本当に満ち足りた幸せそうな時貞の様子に、拓の中の戸惑いが消えていく。
　時貞が幸せなら、拓がどうこう言う事もない。
　何を言っても無駄な事だという事もあるが・・・それ以上に、『家族』と告げた時貞の心を拓は哀しい気持ちで受け止めたのだ。
　その言葉だけで、拓は時貞が欲しかったモノが理解り・・・それが手に入るのなら、そのお手伝いをしても良いと思っていた。
　随分前に・・・まだ拓が時貞の事を余り知らなかった頃、些細な事で喧嘩をしてしまい・・・その後で偶然に時貞の家に呼び込まれた時、拓はその事を知ったのだ。
　時貞には、父親も母親もいないと言う事−を。
　しかも、自分の世界に閉じこもってしまった時貞が、泣きながら告げた言葉は、拓にとっても衝撃的な事だった。
　時貞の祖父が武器商人であり・・・その武器によって父親と母親が殺されたのかもしれないという、惨劇を知って・・・拓はとても胸が苦しくなった事を覚えている。
　あの時に、ほんの少しだけ時貞の事を知らされて・・・拓の心の中に深い感情が生まれたのも事実なのだ。
　哀しそうな時貞の表情に、心の底から"友達"になりたい・・・と。
　尤も、それが、どうしてこんな関係になってしまったのかは、未だに拓には理解できていないのであるが・・・・
　だが、こんな風に満ち足りた時貞の、幸せそうな顔を見てしまうと・・・拓は、何も言えなくなってしまうのだった。
　そうして、時貞の為にできるだけの事をしてあげたいと思ってしまうのだから・・・これはもう、持って生まれた性分というしかないだろう。
　それが、時として『不運』を呼び寄せてしまう最大の原因ともなってしまうのだが・・・。
　「名前かぁ・・・。」
　うーん・・・と小首を傾げて、拓は考え込む。
　どうせ付けて上げるなら、恰好良い名前の方が絶対にいい。
　「時貞くんに似てる方は、やっぱり時貞くんに似た名前の方が良いのかなぁ？」
　二人の子供を見ながら、拓は悩みながら考えを呟いた。
　だが・・・。
　「こっちの子は、トキヤ・・・時貞の時に、夜って名前がイイ。」
　「時夜？」
　「そう・・・んで、こっちはタクミ。拓ちゃんの拓に、"実"って字にしよう。」
　ニコニコしながら、あっさりと決めてしまった時貞に、拓は呆気に取られてしまう。
　幾ら何でも安直過ぎると思ったのだ。
　「と・・・時貞くん？」
　拓に取ってみれば、名前というのは一生付き合うものなのだから、もっとこう色々と考えてと思っていたのだが、時貞はそれがすっかり気に入ってしまっているらしい。
　「トキヤ・・・タクミ・・・☆」
　それぞれに名前を呼びながら、嬉しそうにその頬に軽いキスを贈っていた。
　されている子供たちも、時貞と同じような笑顔を浮かべていたので、拓もそれ以上の言葉を失ってしまった。
　「・・・拓ちゃん♪」
　そのまま、勢いとばかりに、時貞は拓にもキスをしてきた。
　「とっ・・んっ・・・。」
　どうして自分は口になのかを抗議しようとした言葉は、時貞の唇に奪われてしまう。
　そうして、子供達にするのとは、意味の違う口付けは・・・拓の意識が飲み込まれてしまうまで・・・続けられたのであった。
　子供達の目の前でも平気でデイープキスをかます事のできる男だから、拓と夫婦になると言う無謀な事も実現させたのであるが・・・・
　『龍神』というのは、常識もケタ外れという意味を持っているのかもしれない。
　この場合、見初められてしまった拓の"不運"がそれだけ強かったのかもしれないが・・・。
　いつになったら、拓に平穏な日々が戻ってくるのか・・・それは一生無理な事なのかもしれなかった・・・。
　


　「デパートに買い物に行こう。」
　午後になってから、突然に思いついたように時貞がそう発言した。
　「デパート？」
　「そう・・・拓実と時夜の服を買いに。」
　無造作にポケットに入れてあったカードを差し出しながら言う時貞に、拓は困ったように微笑った。
　「そうだね・・・小さい服なんて・・・ないものね・・・。」
　それでも、確かに必要な事なのだと思いなおして、頷くと子供達に向き直る。
　「一緒に行く？」
　「駄目だよ、拓ちゃん！勿論、絶対に連れて行くんだよ・・・。」
　尋ねようとした途端に、時貞の決定が告げられる。
　「・・・だって・・・・」
　うーーんと冷や汗を流す拓の様子に、子供たちも笑う。
　「いくーーっ！」
　「そとーー☆」
　元気な返事が返ってきて、ホッと拓は吐息を零した。
　「じゃあ、行こーーっ☆」
　にっこり笑顔で言う時貞も上機嫌らしい。
　拓実を抱え上げると、そのまま歩きだす。
　「おいで・・・」
　どうしても、拓に似た方だけを連れていく時貞に、困りながら・・拓は時夜に両手を差し出す。
　「マーム・・・♪」
　キュッと抱きついてくるこれまた時貞のリトルバージョンに、拓は小さく笑みを零す。
　大きな時貞も、これぐらい可愛い性格だったら良かったのに・・・と。
　勿論、そうだったなら、今頃こんな状態にはなってはいないが・・・・
　車庫からセドリックを出した時貞が、三人に乗るように指示する。
　「大丈夫かい？重くない？」
　「ん・・・ヘーキ。」
　心配そうに言う時貞に、時夜と拓実を抱いたまま助手席に座った拓は、安心させるようにそう告げた。
　「何処に行くの？」
　「横須賀に、キッズ系のファッションを扱ってる店があったから、ドライブがてらにそこに行こう。」
　「横須賀？」
　「嫌なら、"横浜そごう"でも、"ランドマークタワー"でもいいけど・・・」
　一瞬、緋咲に会うかもしれないという予感が横切った拓が眉を顰めると、つまんなさそうに時貞が続ける。
　そっちの方が誰かに会う可能性がひたすら高い事に気づいた拓は、がっくりと肩を落とした。
　「横須賀の方が良い・・・」
　「オッケー♪」
　シブシブ告げる拓の返事を聞いた途端に、時貞はハンドルを握ってエンジンをかけた。
　横浜を出てから一時間・・・漸くお目当ての店に辿り着いた。
　一体いつの間にこんな場所を知ったのかと思うようなそこは、子供服専門館だけでなく、色々な建物が密集している買い物地域でもあった。
　車を駐車場に止めると、それぞれ子供を抱えて建物の中に入っていく。
　「拓実は、どんなのが似合うかな？」
　ここまでくるともう、完全に時貞の愛のベクトルは片一方のみのようで・・・拓は気が気ではなくなってしまう。
　拓に似ている方だけを猫可愛がりするなんて、あんまりな話だ。
　「――時夜は、ボクが選んで上げるから。」
　ジッと見つめてくる大きな赤い瞳に、思わずジンとしてしまった拓は、腕の中の子供をキュッと抱きしめて、そう言った。
　途端に、ニコッと笑う時夜が、可愛くて。
　「うーん・・・拓実は、何着せても可愛いなぁ・・・・」
　親馬鹿丸出し発言をしている時貞の言葉に、そちらを見やった拓は、次の瞬間絶句した。
　「・・・と・・・時貞・・・くん？」
　「・・・見てみなよ、拓ちゃん♪・・・拓実、スッゴク可愛い☆」
　気を取り直して、恐る恐る問いかける拓に、時貞の機嫌は最上級のようで、ニッコリ笑顔で拓実を抱きしめて見せた。
　「・・・あの・・・拓実って・・・女の子だったんだ・・・？」
　初めて知った事実に、拓の目が丸くなる。
　白いフリルのついたブラウスに、はいているのは紛れもなくピンクのスカートで・・・。
　頭にはお出かけようのおしゃれな帽子まで被ったその姿は、確かにとても可愛らしくて。
　「似合うんなら、どっちでも良いんだよ☆ナ、拓実。」
　チュッと頬にキスをして、時貞が問いかけると、拓実はキョトンとした顔をニーッコリと綻ばせた。
　時貞が喜んでいるので、拓実も嬉しいらしい。
　だが、拓は気づいてしまった。
　時貞は、拓実が女の子だとは、肯定しなかったのだ。
　つまり男の子でも、似合うなら良いのだ・・・と・・・。
　ハァァ・・・・
　がっくりと肩を落として溜め息を零した拓は、時夜だけはまともな服を選んであげようと固く心に誓っていた。
　


　「可愛らしいお子さんですね・・・お幾つなんですか？」
　店員のお姉さんに尋ねられて、拓はヴッと言葉に詰まってしまう。
　まさか、今朝できたばかりなので、理解らないとも言えないだろう。
　この大きさで、生まれたばかりとは、絶対に言える筈もないし・・・。
　「二つっ！」
　困っている拓を見ていた時夜が、ブイサインをしながら、そう替わりに答える。
　「まぁ・・・頭が良い子なのね・・・」
　すっかり信じきったお姉さんは、時夜をマジマジと見つめてから、その頭を撫でて挙げている。
　拓は拓で・・・二つなのかぁ・・・と困った笑顔を浮かべていた。
　「マァム・・・あっち・・・」
　ニコッと笑った時夜が、買い物に飽きたのか・・・手を引っ張る。
　あらかた時夜の分は買い込んだ拓は、チラリと時貞の方を見たが、あちらは一生分の買い物をしているようで・・・まだ当分終わりそうもない。
　仕方なく、拓は時夜のせがむままに手を引かれて歩きだした。
　そう・・・二つと答えたこのお子様達は、実は歩けたのである。
　「これ・・キレイ・・・」
　壁にレリーフにように彫り込まれていた彫刻を指して、時夜が拓を振り返る。
　それは、羽根を広げた天使の姿だった。　　　
　「そうだね・・・」
　小さく頷いてやると、時夜は拓の両足に抱きついた。
　「でも・・・マァムもっとキレイ・・・♪」
　待合広場のようになっている場所で、子供にそんな事を言われて拓は真っ赤になってしまう。
　周りの者たちの視線が集中しているようで、いたたまれなくなってしまった。
　「とっ・・・時夜？」
　抱き上げて、一緒にベンチに座ると、時夜はギュッと拓に抱きついてくる。
　「マァム・・・やさしい・・・あたたかい・・・ずっと・・・いっしょ・・・いたい・・・」
　突然フニャと半べそになる時夜を、拓はソッと抱きしめてやった。
　「一緒に・・・いるよ・・・。大丈夫・・・時貞くんだって、時夜の事を好きだから・・・。」
　抱きしめながら、漸く拓は理解ったのだ。
　時貞が、どうして拓実の事ばかり構っているのかという事に。
　わざとなのだ。
　拓に似ている拓実だけを構う事によって、拓に、時夜の面倒をみさせて・・・愛しむ心を教えてくれたのだ。
　心の何処かで、拓は二人の子供を他人なのだと思っていたのだろう。
　だから、そうではなく、家族なのだと知って欲しかったのかもしれない。
　「ボクも・・・時夜も拓実も・・・大好きだよ・・・。」
　一言一言、言い聞かせるように告げると、ポンと頭に手が置かれた。
　「時貞くん・・・？」
　「オレが嫉妬でどうにかなっちゃう前に、帰ろうか、拓ちゃん・・・」
　フッと微笑う時貞に、拓は漸く心からの笑顔を浮かべて見せた。
　


　「凄いね・・・どれくらい買ったの？」
　両手に一杯の荷物を抱えている時貞に、拓は首を傾げる。　
　「店ごと買っても良かったけど・・・そうしたら、拓ちゃんが怒ると思って・・・」
　「・・・怒るよ・・・」
　ボソリと呟かれた信じられない言葉に、拓は目を見開いてから、そう告げた。
　「うん・・・理解ってるから・・・」
　コクンと頷く時貞も、なるべく拓の意見を聞き入れようとしているらしい。
　大人二人がそんな会話をしている間、前を歩いている子供二人は、何を考えているのかキャラキャラと笑っていたりする。
　因みに今の恰好は、時夜が白に青地ラインのセーラーの上着に、白のコットンパンツ。
　それを子供用の吊りベルトで固定していた。
　対する拓実の恰好は、一体何処のお嬢様？！なのかと思える程で・・・。
　フリルふりふりの白のワンピースを着ていたりするのだ・・・。
　頭には同じ白で、ピンクのリボンのついた帽子を被り、手にはご丁寧に手袋まで嵌めていたりして・・・。
　一目見た瞬間に、拓は開いた口が塞がらなかったと言っても過言ではない。
　このままで行くと、この子の将来がとっても不安になってしまう拓であった。
　それでも、そんな二人が仲良く並んでいる様は、まるで子供モデルのように可愛くて・・・他の親たちの視線を総なめにしているのは間違いなかった。
　何処から現れたのか理解らないが、突然モデルになってほしいと名刺を持って現れたスカウトの人は、時貞が絶対零度とも言える程の冷血さで、足蹴にしてしまったが・・・。
　そんなこんなで、今は屋上にいたりする。
　何をしているのかと言えば、親子でアイスを食べているのだ。
　ベンチに座って、時貞が買ってきたそれを味見する。
　不味そうに、一人だけアイスコーヒーを飲んでいた時貞に、拓実が自分のソフトクリームを差し出す。
　「サンキュ☆」
　チュッとお礼のキスをして、時貞はそれを一口嘗めている。
　甘いモノがトコトン苦手な彼が・・・だ。
　それに、気づいた拓はクスクスと小さく微笑った。
　そんな拓の視線に気づいた時貞が、悪戯っぽく少しだけ舌を見せる。
　「拓ちゃんのも、味見したい♪」
　「あっ・・・はいっ・・・。どうぞ・・・」
　キラリと光る"緋"い瞳で見つめられて、少し焦った拓は、慌てて自分の食べていたソフトクリームを時貞に差し出した。
　「こっちが良い☆」
　差し出した手を、グイッと引かれたのは一瞬で、次の瞬間、またしても唇が奪われていた。
　「んっ・・・。」
　ペロッと舌で唇を嘗められて、思わずバッと両腕を突っぱねてしまう。
　「とっとっ・・・時貞くん・・・。」
　耳まで真っ赤にした拓は、恥ずかしさの余り言語障害まで陥ってしまった。
　「ごちそうさま♪」
　全然気にしていない様子で、そう告げる時貞は、いつもの事と、平然としている。
　こんな事ぐらいで、いちいち初々しい反応を返す拓が、ただ可愛くて仕方ないだけなのだが。
　ニコニコと笑みを浮かべる時貞には、何を言っても無駄・・・。
　それを嫌という程、良く理解らされている拓は、ただガクゥッと肩を落とすだけだった。
　しかも驚きの余り、手に持っていたソフトクリームは、落ちてしまっていたりする・・・。
　「あぁ・・・もう・・・落ちちゃったじゃないか・・・・」
　必死に話題を逸らそうと告げる拓に、時夜が自分の分のアイスクリームを差し出した。
　「時夜？」
　「マァム？」
　にっこりとしている時夜に、拓はそれを自分にくれるのだと気づいて、嬉しくなる。
　「ありがとう・・・でも、ボクは良いから・・・時夜がお食べ・・・。」
　時夜の頭を撫でて、拓はそう応えた。
　その間に、自分の分を食べおわった拓実が、テテテッとゴミ箱にゴミを捨てに行く。
　その後を、食べながら時夜が追いかけて・・・アイスを食べ終わるまでそこで待って、それから二人で側の水飲み場で手を洗っていたりする。
　「・・・時貞くん・・・ねぇ・・・あの子たち二つだって、知ってた？」
　「何が？」
　余りにもしっかりした行動に、苦笑しながら拓が時貞に告げる。
　子供たちが離れた瞬間に一服していた時貞が、二口吸っただけで煙草を灰皿に消しながら問い返した。
　「だから、あの子たちの歳・・・。さっき、店員さんに"二つ"だって自分で答えてたから・・・きっとそうだと思うんだけど・・・」
　「ふーん・・・なら、きっと、そうだよ。」
　ニッと笑って時貞が立ち上がる。
　そういう問題なのだろうか・・・と思いながらも拓もそこから離れた。
　「帰るゾ・・・」
　軽く手を挙げて時貞が合図をすると、子供たちが手を繋いだまま転がるように走ってくる。
　戻ってきた拓実を抱き抱えて、時貞が歩く後ろを、拓は時夜と手を繋いでついていく。
　その姿は、はたから見るとただの団欒にしか見えなかった。
　

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