（えっと・・・このお話は最初に１と２を書いてから１０年以上経っていたりします・・・orzあの当時は、本当に千冬の事を色々妄想するのが楽しくて・・・裏の裏まで設定を組んでしまったのですが・・・余りにもオリジナル過ぎるのと、妄想が暴走していたので、ずっと続きが書けませんでしたｗ今回千冬×拓としてシリーズ別にしたのと、キリリクやバレンタイン用に書いた千冬×拓SSがこの設定上の物だったので、改めて書き下ろしました（＞ｗ＜）勢いだけで作ってしまった設定なので、全部が捏造話であって・・・実家の場所も、過去の話も、一族の話も総て大嘘ですｗｗｗこのシリーズ上の設定だけですので、他の話に出てくる千冬とも全く違うので、くれぐれもご注意下さい（TДT；））

御意見無用スペシャル３

熊本県・天草地方。
八代海に浮かぶ大小さまざまな島の中の一つに、千冬の実家はあった。
ハウステンボスを後にした千冬と拓は、長崎空港でチャーターした小型飛行機で天草空港にやってきた。
そこから、車で港まで連れて行かれ・・・迎えに来ていた船に乗って島まで辿り着いた時には、もう日暮れだった。
九州など生まれて初めて来た拓が、地図の事を理解る訳もなく・・・自分が一体何処にいるのか全く理解らない。
「・・・この島は、地図に乗ってないような小さな島だから、住んでいるのは一族の者しかいないんだ。中心に一族を纏める御館様がいて・・・それが、俺の祖母で。口喧しくて、格式に固執している頭の固い人だから、凄く厄介で・・・今回の結婚話もこっちに何の相談も無く勝手に決定してしまって・・・。」
島に降り立った千冬が、拓を振り返って苦笑する。
すっかり身支度を整えた千冬は、腰まである黒髪のウィッグをつけて、着物に着替えていて・・・何処から見ても清楚なお嬢様と言う出で立ちだ。
初めて拓が千冬と出会った時も、化粧をして女神の様に綺麗な千冬を女性と間違えたのだが・・・あの時とはまた違った雰囲気は、確かに長年女性として育てられたと言われても違和感のないものだった。
「・・・大変ですね。」
その姿に見惚れながら、拓もまた困ったような表情を浮かべた。
「それで、ボクは・・・どうすれば・・・？」
キュッと拳を握って、千冬を見つめると、千冬は微笑を浮かべて拓の手を取った。
「―――一緒に、居て。」
「・・・うん。」
請い願うように告げる千冬に、拓はドキドキしながら・・・それでも大きく頷いた。
「―――慎様。お迎えにあがりました。」
「・・・一総さん？」
一台の車が停車し、運転席から降りてきたのは、スーツ姿の青年だった。
洋装なのに純和風な雰囲気を漂わせているその者は、丁寧な動作でお辞儀をすると、後部座席のドアを開けて乗るように促した。
「わざわざ来てくれたんですか。ありがとうございます。じゃ、拓ちゃん行こうか。」
「―――慎様？そちらの御方は・・・」
千冬に手を引かれた拓に視線を向けた青年が、問い掛ける。
零れ落ちたその質問に、一瞬、拓の足が止まった。
「え？ボ・・・ボクは・・・」
「この子が、今回連れて戻ると言った拓ちゃん、です。私の選んだ婚約者として、お祖母様に会わせます。」
拓が自己紹介を始める前に、千冬が先にそう言った。
その瞬間、相手が瞠目する。
「慎様？本気ですか？北条家からは何の説明もありませんが・・・」
「ええ。私が、一人で決めました。あちらは、対抗馬として琢也を連れて行けとか、ふざけた事を言っていましたから。弟を選んで千夏家の顔を立てようなんて、馬鹿馬鹿しい。あれでは、お祖母様に一蹴されて終わりです。」
「ですが・・・」
「ふ・・・拓ちゃんは、私が見付けた“龍珠”の存在。理解る人になら、一目で理解る筈。その稀有な神気が理解らないなら、貴方もまだまだですね。一総さん。」
尚も言いかけようとした相手を、千冬は一瞥した。
二人が話している内容が、全く理解できない拓は、深刻そうな二人の様子をオロオロしながら、見ている事しかできない。
「―――理解りました。慎様がそれ程までにおっしゃるのなら、お手並み拝見致します。拓様。」
「は・・・はいっ？！」
クルリと振り返った青年に見つめられて、拓はピキーンと緊張する。
「申し遅れました。私は千冬一総と申します。この島における慎様のお側仕えをしております。」
「―――お側仕え？」
キョトンとして、拓は千冬を振り返る。
「・・・一総さんは、こっちでは俺が男だって事を知ってる数少ない内の一人なんだ。一応、島内だったらお祖母様の次に偉い人だから、困った事があったら何でも言って良いよ。こんな格好だと、多分男女と言う事で離される事もあるし・・・まぁ、そうならないように俺も抵抗するけど、ね。」
そっと、拓の右手を取って、千冬は言い聞かせるように拓に告げる。
少し寂しげな千冬の表情を真っ直ぐに見つめてから、拓は少しだけ笑う。
「えっと・・・理解りました。」
そうして、一総に改めて向かい合う。
「あの・・・ボクは、浅川拓と言います。ボクに何が出来るのか全く理解らない事ばかりですけど・・・。どうぞ宜しくお願いします。」
真面目な顔で、ペコリと頭を下げる。
「拓ちゃん・・・」
そんな拓を見て、千冬が嬉しそうに破顔する。
それから、そっと包み込むように抱き締めた。
「―――その気持ちだけで、嬉しい。何があっても、俺が護るから。」
そっと耳元で千冬が囁くと、途端に拓はカアァッと顔を紅潮させた。
「あ・・・あの？！千冬さん・・・み・・・見られて・・・っ！！」
そのまま頬にキスした千冬の行動に、慌てた拓がその腕の中でアタフタと身じろぐ。
更に赤くなった顔を隠すように、拓はそう呟いた。
そんな二人の様子を見つめていた一総は、少しだけ表情を和らげた。
「そんな風にお笑いになる慎様を見たのは、本当に何年振りでしょうか・・・。拓様。この島内では何でも私にお申し付け下さい。慎様と共に、誠心誠意御仕えさせて戴きます。」
その場に跪く勢いで、一総は恭しく頭を下げた。
「では、早速屋敷にお連れいたしましょう。慎様、この先は誰が手の者か理解りませんので、くれぐれも言動と行動にはお気を付けください。今回の御館さまの御言葉の所為で、他の四千家の者たちも島内にいらっしゃいますから。」
「―――理解った。さ、ここから先は舞台の上だ。拓ちゃん、私のここでの役は“志乃”という女性だから、多分凄い違和感があると思うけど・・・」
「・・・あ・・・うん？」
「名前も、今までどうり苗字でも良いけど・・・島内の殆どが千冬だから、できれば下の名前で呼んで貰えたら嬉しい。」
「―――えっと・・・じゃあ、志乃、さん？」
少し赤くなって拓がその名を呼ぶと、千冬は微妙な顔をした。
「やっぱり・・・名を呼んで貰うんなら、慎の方を呼んで欲しい・・・」
「え？で・・・でも・・・」
「理解ってるけど・・・はぁ・・・悔しいな。仕方ない、こんな茶番をさっさと終わらせて、後で一杯呼んで貰おう。ね、拓ちゃん。」
全ての者を魅了する微笑で、千冬が笑いかける。
拓は困ったように笑みを返す事しかできなかった。

一総の運転する車の後部座席に二人で座って、簡単な説明を受ける。
それは、拓の想像もつかない事ばかりだったけれど、唯一理解ったのは、自分がやる役が非常に重要なのだという事だけだった。
この辺りは、忘れ去られた地として、地図上にも存在していない場所で・・・中央にある小さな社のある島を中心に、５つの島があるらしい。
中央の島にある社を守護する為に、それぞれの島に四季の名を冠した一族が代々住んでいて・・・千冬は、そんな島の一つである千冬家の直系として生まれた。
ここは中央の社の北にある島なので、冬島・・・だから千冬家なのだそうだ。
東にある春島には千春家が・・・南には今回の千冬の婚約者である夏島の千夏家があって・・・西の秋島には、千秋家という一族がそれぞれ存在している事も知った。
昔から、直系の男子は若くして亡くなる者が多く・・・その為に産まれた時から女として育てられる者も多いらしく、千冬の場合、先代であるお父さんがやはり早く亡くなったので、たった一人の子供として本当に大事にされていて・・・そうして、現在の一族の当主である祖母が、実は千冬が男だと言う事実を知らないのだと言う事も。
そんな中で、千冬家の直系を残す為だけに、同じように社を守護する夏島の一族の者を選んで、千冬の婚約者としたのだと言う経緯と・・・今回の結婚の儀が全ての島の者達の注目となっている事まで告げられて、拓は愕然とした。
「・・・そ・・・そんな大変な役・・・ぼ・・・僕、出来るかどうか・・・」
すっかり萎縮してしまった拓の肩を抱き寄せて、千冬は柔らかく笑う。
「拓ちゃんは、普段のままで構わない。・・・できれば、演技じゃなくて、本気で私を好きになってくれたら・・・嬉しいけど・・・。」
「えっと・・・頑張り・・・ます。」
すっかり雰囲気も仕草も“志乃”となった千冬にそう言われて、拓は赤くなって小さく笑った。
そんな風に過ごしながら１５分程走った車が、静かに止まった。
「さあ、どうぞ。志乃様。拓様。」
後部座席のドアを開けた一総に促されて、千冬の後に車を降りた拓は、目の前に広がった光景にあんぐりと口を開けて固まった。
初めて見るような大きな屋敷は、古いがそれ以上に重厚な趣きを備えていて、妙な迫力があった。
時貞が自宅の事を“天羽の館”と呼ぶ、大きなお屋敷だったが・・・今、目の前にあるのはそれ以上に広い。
「お帰りなさい・・・志乃。」
大勢の出迎えの中、一番前にしずしずと現れた着物姿の物凄い存在感を持った女性に、千冬の表情が変わる。
「只今、戻りました。お祖母様。」
小さく会釈して、そうきっぱりと告げた。
「随分と、遅かったですね。―――そちらの御方は？」
ふと、気付いたように拓を見たその瞳は、年齢に似合わない鮮烈な眼差しだった。
目線が合った途端、拓の身体がビクッと震える。
全身に電流が走ったような感覚を受けたからだ。
「あ・・・」
「私の選んだ、者です。」
拓が口を開くよりも早く、千冬が言葉を発する。
その途端に、その場の空気がざわめく。
動揺が、漣のように広がっていく様に、拓は心臓がドキドキした。
「―――御当主！これは、一体、どう言う事ですかっ！！」
背後に立っていた背の高いがっしりとした体格の青年が、驚いたように声を上げる。
「志乃・・・。」
「私は、四千家の者とは結婚しません。勿論、一族の誰が相手でも・・・。これ以上、濃い血を作ってどうなさるのですか？呪われた血脈を何時まで続けられるのですか？私は、その事を告げる為に戻りました。」
嗜めるように眉を潜めた祖母に向かって、千冬は真っ直ぐにそう告げた。
静かな言葉の中に秘められた想いが、何だかとても哀しくて拓は胸が締め付けられる気がした。
「しかし、この婚儀は御社様の決定です。」
「では、私を除籍して下さい。私が見付けたこの方・・・“龍珠”である拓ちゃん以外との婚儀は嫌です。この身に流れる血が拒絶します。」
そっと、拓に身を寄せて告げる千冬に、拓はギュッと拳を握った。
「あ、あの・・・初めまして。―――僕は、浅川拓と言います。ち・・・志乃、さんに誘われてここに来ました。」
お祖母さんと言うには思っていた以上に若い着物姿の女性の前に進んで、拓は精一杯の勇気を総動員してそう告げた。
「今回、結婚を無理強いさせられると聞いて・・・それで・・・」
少しだけ膝が震えるが、必死に自身を奮い立たせる。
その為に、自分は来たのだ。
与えられた役を、こなさなければならない。
それが、気の遠くなりそうな緊張を齎しても・・・逃げる訳にはいかないから。
「―――ぼ・・・僕は、志乃さんが、好きです。」
真っ直ぐに顔を上げて、拓は女性に向かってそう告げる。
大切な友人・・・好きか嫌いかで言えば、間違いなく好きな相手。
時々、拓が困ってしまう事ばかりやったり、告げたりされるが・・・それでも、優しく包み込まれるような想いは、確かに拓を惹き付ける。
嫌な想いをさせたくない。
困っているなら、助けてあげたい。
自分に何が出来るのか本当に理解らないけれど・・・それでも自分を選んで、頼ってくれた事が嬉しいから。
そっと、千冬を見ると、今にも泣き出しそうな顔が返ってきた。
そっと、握られる手から、伝わってくる温もりが、勇気を齎す。
「あの・・・志乃、さんは、とても綺麗で、優しくて・・・一緒に居ると、凄くドキドキして・・・女神様みたいで。僕じゃ、似合わないって理解ってます。でも・・・僕を選んでくれたから・・・だから、僕は一緒に・・・ここに着ました。」
少し赤くなりながらも、きっぱりと言い切る。
それは、普段の拓を知っている友達が見たら、きっと拍手してくれるぐらい頑張った姿だった。
「・・・拓ちゃん・・・」
感極まったような表情で、千冬は目元を拭う。
拓を真摯な眼差しで貫いていた女性が、フッと息を吐き出す。
「―――貴方の言いたい事は、理解りました。しかし、直系の血を絶やす事はできません。何百年も続いた一族の血脈を、ここで途切る訳にはいかないのです。志乃、我が侭は許しません。貴女には、千夏家の琢磨様と結婚して子供を儲けて貰います。」
「お祖母様っ！」
「―――これ以上、千冬家の血を薄める訳にはいかないのです。お社様を守護する力が、失われてしまう。それは、一家だけの事では済まされません。只でさえ、この千冬家は昔から直系の男子は早逝なのです。貴女は、遼の残した唯一の子供。一族の悲願なのです。千夏家の直系の血をお持ちの琢磨様と夫婦になって血を残すのは、貴女の使命でもある。だからこそ、幼き頃より婚約者として定められているのです。今更、違う相手との結婚など、認めません。」
静かに告げられた言葉が終わらない内に、数人の女性が前に出てくる。
そうして、千冬と拓を引き離した。
「・・・っっ！！」
「・・・千冬さんっ！？」
その身を拘束されて、表情を変える千冬に、拓は思わず駆け寄ろうとしたが、女性たちの威嚇により近付けない。
「浅川様と仰いましたね。ここまで来られて申し訳ありませんが、今言った通り、志乃はただの女ではないのです。幾ら想い逢っていたとしても、貴方を受け入れる訳にはいきません。今夜はもう船を出せないでしょうからこの島におられても構いませんが、明日にはこの島を出て行って下さい。そうして、志乃の事は忘れて下さるようお願い申し上げます。」
丁寧に頭を下げながら告げる女性に、拓は大きく瞳を見開く。
それから、千冬に視線を移して・・・辛そうに眉を寄せる。
「・・・そんな事、出来ません。」
ポロリと零れ落ちたのは、本音。
途端に、周りの雰囲気が凝縮されて、拓に襲い掛かる。
「―――私が、説得しますっ！」
スッと前に出たのは、一総だった。
身構えた女性や、周りにいた島の者たちから拓を庇うように前に立ち、そうきっぱりと告げる。
「―――一総？」
「御館様。この者の身は、私が志乃様より承っております。これ以上の手荒な真似は、却って一族を貶める事になります。拓様に何かあれば、志乃様は決して一族を許しはしないでしょう。」
頭を垂れたまま、一総はそう告げる。
そうして、拓を振り返った。
「志乃様は、大丈夫です。今は、私と共にいらして下さい。」
告げられた言葉に、拓は一瞬千冬に視線を向ける。
拘束された千冬が、小さく頷くのを見て漸く拓は息を吐き出した。
「―――理解りました。」
小さく頷いた拓は、踵を返して歩き出した一総の背を追うように、歩き出した。