そして拓は、また控室へと足を運ぶ。
　控室は関係者でごった返し、小柄な拓はその波に揉まれてしまう。
　それでも緋咲が拓を見つけ、彼の元へと急ぐ。
　「拓！」
　上半身裸の緋咲に抱きすくめられ、拓は頬を真っ赤に染めながら、
　「緋咲クン…素敵」
　…そう言うのがやっとであった。
　息も出来ないほど、緋咲にきつく抱きしめられたからである。
　そんなところへ、
　「緋咲ィ、今日の打ち上げは相方ナシだから、お前出席駄目ね」
　「はぁ？」
　時貞から告げられた台詞に、緋咲は思わず目がテンになった。
　「そ、カップルでの参加は駄目、フリーのみ」
　時貞の思い掛けない言葉に緋咲の心が揺れた。
　「セロニアス…？…お、おい？セロニア…スっ？」
　その時貞は緋咲を押しのけ、拓に近づくと、彼をきつく抱き締め、一瞬のうちにその唇を啄んだ。
　余りの早業に呆気にとられる緋咲と拓に、時貞は笑いながら、
　「今日は拓ちゃんの為に諦める。でも今度は…」
　意地の悪い笑みを残すと、時貞は手を振りながら控室を出て行く。既に他の面々は平蔵や桜宮が連れ出していったので、広い控室には緋咲と拓のふたりきりになってしまった。
　怒りに震える緋咲に、拓は涙目で謝った。
　「…ご、ごめんなさいっ」
　時貞に不意打ちのキスを奪われたことに対する謝罪だったが…この件に関して緋咲は一言、
　「…オレは何も見ていねー（怒）」
　はっきり言って拓のキスを奪った時貞をこの場で殺してやろうかと思ったが、その時貞のお陰でふたりきりの時間が取れたのだ。
　今回だけは（仕方なく）見逃す事にした緋咲であった。
　「拓…」
　先程までの表情とは打って変り、緋咲は拓を優しく抱きしめる。
　拓は彼の首に腕を回し、そっと目を閉じる。
　刹那、煙草の苦味が、拓の口中を満たしていた。

　…緋咲が一人暮らしをするマンションに到着したふたり。
　幸いなことに、まだ日付は変わっていなかった。
　玄関に入るなり、緋咲は拓を背後から抱きしめ、首筋にそっと、唇を這わせた。
　思わぬ不意打ちに低く呻いた拓は、緋咲の顔を見上げる。
　漸くふたりきりになれた嬉しさの為か…既に瞳が潤んでいた拓に緋咲は、何も言わずに濃厚な接吻を贈る。
　…暫しの時間の後、余りの激しさに（苦笑）自分の腕の中で果てた拓を横抱きし、緋咲は漸く室内に入った。
　意識を失ったままの拓を寝室に連れて行き、ベッドに寝かせる。
　ベッドの上で眠っている拓を起こさぬよう、緋咲は身体を滑らせる。
　数ヶ月ぶりの再会に一番胸を躍らせていたのは、実は緋咲だったのかもしれない。
　眠っている拓の唇に、自分の唇を軽く重ねた。
　　
　まるで「sleeping−beauty」だな…。
　　
　もう一度、くちづける。
　その時目蓋が微かに動き、眠り姫がゆっくり目覚めた。
　まだ夢現の拓は、心ここにあらずの顔で緋咲を見つめる。
　緋咲は口元に笑みを浮かべ、今度は激しい接吻を拓に贈った。
　息もつけずに激しくも甘い接吻を贈られた拓は、緋咲のパルファンの香に意識をとられる。
　待ち望んでいた甘美な時間。
　唇を名残惜しげに離した緋咲は、拓にひとこと。
　「目、覚めたか？」
　漸く目が覚めた拓は、頬を真っ赤に染めながらも緋咲の胸に抱かれ、安心しきって頬を摺り寄せる。
　目が慣れてくるにつれ、寝室に見慣れぬものが置いてあるのに拓は気づいた。
　「ピアノ…買ったの？」
　寝室になんとグランドピアノが置いてある。
　「ああ、…何時でも練習出来る様に買った。結構気分転換になるもんだな」
　拓は特攻服姿で帰ってきた緋咲が、ピアノを弾き始める姿を想像し、余りのギャップの激しさに思わず笑ってしまった。
　「あ？何笑ってんだよ？」
　それに気づいた緋咲は拓を羽交い絞めにした。
　それでも顔は笑っている。
　拓だけに見せる無邪気な笑顔だった。
　「…だ、だって凄く不思議なんだもん」
　当然といえば当然である。
　勿論緋咲もそう思う。
　だから照れ隠しをするしかない。
　「よぉ〜くわかった…」
　緋咲が甘い笑みを浮かべながら拓に迫ってきた。
　まだ心の準備（笑）が出来ていない拓は、
　「ま、待って緋咲クン！」
　拓は頬を真っ赤に染めながら…ポケットに大切に入れていた綺麗な小箱を緋咲に差し出した。
　「緋咲クン、メリークリスマス」
　「？」
　拓に手渡された…シックな色合いにラッピングされた小箱を、緋咲は大事に包装を解いた。
　箱を開けると中には宝石箱が入っていて、その蓋を開けるとプラチナのシンプルな指輪が鎮座していた。
　拓は頬を真っ赤に染め、緋咲に告げた。
　「緋咲クンと逢えない間、頑張ってバイトしてたの。…僕達の付き合いってカタチが見えないから…せめて指輪で、緋咲クンと繋がっていたかったの」
　緋咲と逢えない寂しさを紛らわす為と気分転換も兼ねて、拓は実益を兼ねて（？）バイク便のバイトを始めたのだ。
　最初の頃は慣れない仕事がとても辛く、バイトを辞めようかと何度も思った事もある。
　しかし、緋咲が殆ど諦めかけていた音楽に、また復帰出来た事の嬉しさが勝ったのか、（緋咲と）逢えない寂しさ…そして仕事の辛さを乗り越えることが出来たのだという。
　今ではバイク便の会社代表取締役他関係者諸々から、
　「このまま正式に就職しないか？」
　とまでお墨付きを頂いてしまったらしい（をいをい）。
　拓の…その言葉に胸が詰まりながら、緋咲もベッドサイドの引き出しから何かを取り出した。
　「…拓、俺達同じ事考えてたんだな」
　「え？」
　「拓、メリークリスマス」
　緋咲から綺麗にラッピングされた小箱を渡され、その包みを恐る恐る開けた拓は、一瞬目を疑い、緋咲を見つめた。
　「安心しろ、堅気のバイトで買った」
　プラチナのダイヤリング。
　はっきり言って凄まじい値段である。
　実は緋咲も、元麓沙亜鵺十代目の岩崎のツテで、拓と同じ様にバイク便のアルバイトをしていたのだ。
　緋咲の場合は、拓と付き合い始めてすぐ、バイトをはじめたが（笑）。
　普段というか…性格と立場上（笑）、絶対に頭を下げない（頭下げるところを想像出来るか？）緋咲にとって、働く事はかなり以上に苦痛というか、拷問であった（涙）。
　生理的に気に入らない得意先に対し、何度隠し持っていたバール（爆）を振り上げるのを思い止まった事か。
　それでも拓へのプレゼントに汚れた金は使いたくない…その気持ちだけで、緋咲は必死に働いたのである。
　尤も、復活GIGSの練習が入ってしまったお陰で、アルバイトは暫し中断してしまったが、それでもかなりの金額が貯蓄できたのは間違いなかった。
　「…俺達の場合、逢いたくてもちょくちょく逢う訳にはいかねぇだろ？だから…」
　緋咲は拓の左手を取ると、薬指に指輪を滑らせた。
　拓も緋咲の左手を取り、彼の薬指に指輪を滑らせる。
　「…何か照れるな」
　「うん…」
　緋咲は拓の頬を両掌で優しく包み、そっと唇を重ねる。
　唇を離すと、緋咲は意を決したように、詞を告げた。
　「…ずっと、俺だけのそばにいろ…」
　一瞬、拓の瞳が大きくなり、刹那、真珠の涙が零れ落ちた。
　「…はい」
　拓は緋咲を見つめ、頷いた。
　大粒の涙が沢山零れても、緋咲の瞳をまっすぐ見つめたままで。
　緋咲が本当に欲しかったのは、その瞳…。
　憎しみでも哀れみでもない…真っ直ぐな想いを込めて自分を見つめてくれる拓を、緋咲は手離すつもりはなかった。
　
　もう、修羅にはならねぇ…。
　
　修羅に変貌する時、それは拓を傷つける者、そして…拓を自分から奪い取る者だけに見せるだけだ。
　譬え、拓が昔愛した秀人でも…自分の真友である時貞でも…自分から拓を奪う者は、全て「敵」であるから。
　緋咲はそう、心に決めた。
　
　「…薫」
　拓が自分を名前で呼ぶ時は、甘えたい…という合図。
　緋咲は、拓の頬に残る涙を唇で拭き、優しくベッドに寝かせる。
　その拓は緋咲の首に縋り付くと、自分から彼の唇にそっと、キスをしてきた。
　緋咲は予想していなかっただけに、思わず赤面してしまう。
　そう…拓からキスをするというのは、滅多になかったから…。
　「いい匂い…」
　拓は緋咲の胸に頬をすり寄せる。
　煙草とパルファン…そして汗の混じりあった緋咲の匂いに、拓は心底うっとりしている。
　目を閉じ、安心しきって自分の胸に抱かれている拓のその姿に、緋咲は慈愛の眼差しで見つめていた。
　拓に腕枕をしながら、サラサラの素直な髪に指を絡める。
　「拓…」
　緋咲は拓をそっと、見つめた。
　「暫く練習もねぇし、今度は一緒の時間作れるな」
　「本当？嬉しい…」
　緋咲を真っ直ぐに見つめ、無垢な笑顔で応える拓。
　どれだけこの笑みに自分は救われてきたか…緋咲は照れ隠しをするしかなかった。
　「ああ…だから今夜は眠れねーぞ」
　「え…？ま、まっ…」
　拓の言葉は緋咲の唇で塞がれてしまう。
　「…今度はオマエの歌、聴かせろよ」
　「…ボク、薫みたいに歌えない…」
　「…いつも歌ってるだろ？」
　「？」
　「オレの腕の中で、誰にも聴かせられない…甘い歌」
　ニヤリと笑う緋咲に拓は思わず顔を真っ赤に染めた。
　「…やだ、恥ずかしい」
　「…大丈夫、オレだけが聴くんだから」
　緋咲に包まれるように抱き締められ、首筋に唇を這わされた拓は観念したのか、そのまま瞳を閉じ、身体の力を抜いた。
　「…薫…大好き…愛してる…」
　緋咲は拓の想いを受け止め、濃厚な接吻を贈った。
　「…愛してる、拓…オマエだけを…」
　
　数ヶ月振りの逢瀬に、互いの想いを優しく受けとめあうふたり。
　ふたりだけの甘く激しい夜はこれから…。

　
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（清琉談／…お、終わった（事にする、キリが無い（涙））。はい、仕事しながらこっそりカキコしてました（爆）。すいません、話全然オチてません（汗）。
えろ話も仕事中なんで書きたくても書けませんでした（爆）。
二次創作では多分お初のSSを書きましたが、こんなにも難しいとは…緋咲がはっきり言って別人格です、勿論天羽も八尋も（笑）。
ドリーマー様や他の皆様方の著作とかなり以上に被っているうえに、超おバカ話になってしまった事をここに謹んでお詫び致します。
今回、私が永年お世話になってる（笑）『T○E　AL○EE』の歌詞を（この場合、著作権はどうなるのでしょうか？この際内緒ということで皆さんよろしくです・笑）拝借しましたが、あの緋咲に一体何を歌わせたらいいんだと悩み悩んで、何故かこの曲（これはサングラスの桜井賢さんが歌ってます・アルバム「LOVE」収録曲より・笑）。
本当は超激甘のも考えましたが…似合わないのでやめました（爆）。　
カキコしていて不思議に思ったのは、何かこの緋咲、元『X JA○AN』のヨ○キ様に何処か被ってるような気がしてならない（Drumとピアノのミスマッチ…凄く懐かしいぞ）（笑）。）

（ドリーマーのコメントｖｖｖ／このＳＳは、突然のプレゼントでしたｖｖｖええもう、最高の！！読ませて頂いてから、ドリーマーの中でのザキの変貌振りは本当に目から鱗でした（苦笑）だって・・・ヨシキってずっと千冬さんだと思っていたので（爆）天羽がガクトで、ザキはバクチクのボーカル（名前なんでしたっけ？）かなぁ・・・って・・・（撲殺）　冬の原稿書く前に読んじゃったんで、頭の中が大変なことになってましたが・・・（笑）修羅場の苦痛も慰められました。凄く凄く拓ちゃんが幸せそうなので、何だか泣きたくなるぐらい嬉しかったんですｖｖｖ本当は皆様に一気読みして頂きたいのですが、流石にサイト上では見にくくなってしまうので４部に分けさせて頂きました。ええもう、ドリーマーお許しが頂けるのなら、コピー本にしてイベントで販売しちゃいたくなるぐらい―――素晴らしい大作を本当にありがとうございましたｖｖｖ早速、清琉さまを次のアンソロ本の執筆者予定リストに書き込まなきゃ！！（＞▽＜）　）