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遠い夢の国・オマケ
「・・・あれ？」
ベットの上で目覚めた拓は、何となく身体に感じる違和感に、少しだけ驚いたが・・・特に気にする事もなく起き上がって、部屋の中を見回した。
「何か・・・変だなぁ？」
キョロキョロと辺りを見回して、微妙にではあるが部屋の雰囲気が違う事にも気付いた。
そうして、いつものように支度をしようとして、完全に違う事に気付いてしまったのだった。
「うわっ・何だよ・・・ダサイ服しかないじゃんか・・・でも・・・確かにオレの部屋なんだけどなぁ？！」
フームと考え込んで、色々と物色してみると結構知らないものが一杯あった。
「へぇー？！特攻服かぁ・・・どれどれ？」
タンスの中にしまってあったそれを引っ張りだすと、そのまま鏡の前で羽織ってみせる。
「―――うーん・・・やっぱ、もうちょっと背がほしいなぁ。せめてカオちゃんぐらいあったら・・・そーだ、これっ！カオちゃんに着せちゃおうっ♪」
ニーッコリと全開の笑顔で、それを持って、自分の部屋の窓を開ける。
いつもの通り道とばかりに梯子を探した拓は、そこにあるべき物がなくて、困った顔をした。
「うーん・・・ひょっとして、違う“世界”？」
眉を顰めて、小さく呟くと・・・適当に服を選んでその部屋から飛び出した。
そのまま家からも外出した拓は、取り合えず誰か知っている奴がいないかどうか探し始めた。
夢かと思ってつねった頬は、やっぱり痛かったのだ。
「困ったな・・・これが夢じゃないんなら、どうやって帰るか・・・だけど・・・」
そんな事を考えていた拓は、目の前を歩いてくる人物に、ムッとした表情となった。
始めて出会った知り合いが、寄りによってケンカ相手の秀人だった事に対して、胸がムカムカしてくる。
しかも、拓に気付いた筈の相手が、近づいてくるのも気に入らなくて・・・。
「拓っ！」
嬉しそうに声を掛けてきた秀人に、拓は思いっきり眉をしかめた。
「どうした？元気だったかよ？」
更に笑顔を浮かべる相手に、拓は全身に走った鳥肌を抑える事ができなかった。
「あんたなんか、知らないよ・・・」
途端にがっくりと肩を落とした秀人の様子を無視して、通りすぎようとした。
「・・・ケッ！朝っぱらから、テメー等に会うなんてな・・・」
だが、後ろから掛けられた言葉に、反射的に振り返った拓は、そこにいた一番会いたかった者の姿を見た。
紫の髪に鼻のキズ・・・チェリーピンクのＦＸに乗ったその姿が、野性的で恰好良くて・・しかも、拓が着て欲しかった特攻服まで、ちゃんと髪とお揃いである。
「―――カオちゃんっ♪」
全開の笑顔を浮かべて、拓は、緋咲に飛びついた。
「すっごくカッコ良ーよっ！？どうしちゃったの？その恰好・・・ワイルドにしびれちゃうねっ☆」 抱きついたまま、嬉しそうにいい募る拓に、その場の空気が凍りつく。
もしもし・・・？状態の緋咲は、くわえていた“ジョーカー”をポトリと落としてしまい・・・目の前の信じられない光景を目撃してしまった秀人は、目尻に涙を浮かべて更に地面に沈んでいく。
「―――ん？どーしたのカオちゃん？いつもなら、抱き返してくれるのに・・・まだ、昨日の事怒ってんの？だってカオちゃん、いきなり押し倒してくるからオレ・・・心の準備ができてなくて、びっくりしちゃっただけで・・・。」
照れながら言う拓のセリフに、緋咲は口をあんぐりと開けたまま、何も言えなくなってしまっていた。
「・・・オレも大好きだよ・・・カオちゃんっ♪」
ギュッと抱きついてチュッ槇と軽いキスをする。
突然の不意打ちに、緋咲は彼にしては珍しくカアァーッッと顔面を紅潮させた。
だが、それも一瞬の事で・・・相手が“クソチビ”だという事を思い出して、ブチンと切れる。
「何っ、フザケてやがんだっ！拓ゥッ！！」
抱きついていた拓の身体を振り払うように突き飛ばした緋咲に、拓は大きな瞳を見開く。
その瞳から、いきなりポロポロと大粒の涙が零れ落ちて、本当に一瞬だけ緋咲はギクッとした。
「どうして？オレの事キライになったのかよ、カオちゃん・・・。オレの所為でその顔にキズが残った時から、オレはずっとカオちゃんの側にいるって約束して・・・。・・・だからカオちゃんが好きだって言ってくれて嬉しくて・・・なのに・・・からかっただけ？！」
キッと睨み付ける拓は、本気で怒っているようだった。
だが、全然身に覚えのない事を言われて・・・しかも“テキ”でしかない筈の拓にそんな事を言われても、緋咲にはどうする事もできない。
―――当たり前である・・・・
「―――カオちゃんのバカァッッ！」
泣きながら、その場から走りだした拓の後ろを、残された二人は、呆然と見送る事しかできなかった・・・・
―――緋咲と秀人の心の中に、言いようのない波紋が広がったのは、言うまでもない事だった。
ちゃんちゃん。 ／ 戻る |