優しい静けさの中で
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　静かな空間が漂っていた。
　―――これは、夢？
　それとも・・・。
　目の前に浮かぶように“存在”するのは、永遠に失われた筈の“トモダチ”で・・・。
　銀の髪を靡かせて・・・ユラユラと存在するその姿が、胸の奥を熱くする。
　漸く、巡り逢えたね・・・。
　そんな、不可思議な感情が、“想い”となる。
　彼が“宇宙”を目指したのは、実は本当の“友達”を見つけたかったのかもしれないと・・・失ってから初めて気づいたのだ。
　誰よりも彼の心を理解ってくれる者を、望んでいたのではないか・・・と。
　そうして自分は、そんな“孤独”を秘めていた彼に、惹かれたのだ。
　その“強さに”ひどく憧れた、もう一人の大切な“彼”のように。
　・・・“親友”と呼べる者は、たった一人じゃなくても良い。
　それ程、“近い”位置に居て、自分の心を理解ってくれる者が大勢いるのならば・・・それはとても幸せな事だから・・・。
　皆、自分にとって、そう在ってくれる“存在”を探して、生きているんだ。
　だから、絶望の淵で逝かなくてはならなかった“友達”に、それを伝えてあげたかったのだ・・・ずっと。
　「・・・時貞・・クン・・・」
　ソッと呟く。
　これは夢の中の出来事なのかもしれない。
　それでも、こうして、目の前にいる“存在”に、自分の気持ちを隠す事はできないから・・・告げるしかない。
　「―――大好き・・・だよ・・・。」
　ニッコリと微笑して、告白する。
　余りにも速く・・・誰も追いつけない程迅く・・・瞬くように逝ってしまった彼に、漸く追いつけたから。
　その心にどれ程の悲しみが在ったのかは、理解らないけれど。
　「・・・助けてくれて・・・ありがとう。ボクは・・・時貞クンに“到達”りつけなかったけれど・・・それでも、“想い”は届いたでしょう？」
　クスッと小さく微笑んで、顔を上げる。
　でなければ、彼がここにこうして“存在”する筈もないのだ。
　譬え、残留思念としても・・・。
　「できる事なら・・・もう一度・・・初めて出会った瞬間から、やり直したい事も一杯あるけど・・・でも、もう良いんだ。きっとまた逢える・・・そんな気がするから。」
　ありったけの“想い”を口にすると・・・目の前の“存在”がユラリと揺れて、側に動いた。
　ゆっくりと動いた両腕が、自分の身体を包み込む。
　優しい波動のような抱擁が、全身を包み込んで・・・。
　「うん・・・そうだね・・・」
　知らず溢れ落ちた涙を拭う事もせずに、その柔らかな空間の中に浸り続ける。
　その“存在”が喋る事はない。
　実際に音として耳に聞こえなくても・・・。
　―――伝わってくるのだ“魂”に。
　「アービィとルーファスも元気だし・・・ギターも大切にしてるよ・・・。“ルシファーズ・ハンマー”も・・・。時貞くんが、残していった“遺物”は、全て・・・ボクがちゃんと預かっておくから・・・」
　ゆっくりと瞳を開くと、全身を包み込んでいた波動が、離れた。
　そうして、静かな空間が消滅していく。
　たった数秒だったのかもしれない・・・でも大切な“時間”。
　一瞬ぼやけた周りの景色は、次の瞬間・・・鮮やかさを取り戻した。
　そうして、ここが何処だったのかを・・・漸く思い出した。
　ベイブリッジ・・・時貞の“最期の場所”。
　この前の“最終戦争”の報告と、礼を伝えに来たのだ。
　夕暮れ時の景色が、ベイブリッジを染めていく。
　逢魔ケ時・・・現世とあの世の接点が一番近い時間帯・・・。
　あれは、夢だったのか・・・現実だったのか・・・？
　包み込まれた感触は・・・まだ身体中に残っていた。
　サアァァァッッと吹いた、海風が・・・髪を靡かせる。
　持って来たユリの花束が、その風に吹かれて舞い上がって・・・そうして海に帰還って行った。
　　
　「また、来てたのかよ・・・拓・・・」
　ハッと気づいて振り向く瞬間・・・風に靡く紫の髪が視界を横切って・・・。
　振り返った表情は、笑顔になっていた。
　　
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