いやー、すっかりUPするのが遅くなっちゃいましたが・・・ええまあ、実はこんな話考えてたんですよ・・・（苦笑）　

特別な日。
　　
バレンタインデー・・・。
それは、男にとっては期待と絶望の日。
　　
工業高校ではない私立校の癖に、男女比率が激しく男子に偏っている聖蘭高校内でも、この日だけは毎年様々な騒ぎが起こっていた。
数少ない女子のチョコをゲットしようと・・・数日前から男子がちやほやするものだから、校内の女子の態度はどんどん女王様化していく。
それでも、懲りない連中は、まるで下僕のように付き従っている姿が目立った。
「・・・馬鹿馬鹿しい・・・」
一言で言い捨てたのは、龍也だった。
硬派な彼にとっては、チョコの為に媚びへつらう態度を取る連中の腐った性根を拳で叩き直してやりたいところなのだが・・・それ以上に今は上機嫌な女達の恨みを買うのも面倒くさいので、無視していたのだが・・・。
何よりも一番腹が立つのは―――。
バサバサ・・・。
靴箱に押し込まれていた物を、下に落とす。
それが何なのか、龍也は確かめなくても理解っていた。
苦虫を噛み潰してしまったような顔をして、龍也は舌打ちした。
「―――龍也クン？」
後ろから来た同じクラスの都築が、不思議そうに問い掛けるのを無視して、龍也はさっさと上履きに履き替えて歩き出す。
「え？・・・これ・・・良いのか？」
他の連中が、指を咥えて指差すものを見て、都築は龍也の不機嫌の理由を悟って、溜息を零した。
「―――ああ。今日は"バレンタイン"―――か。」
眉を潜めて、都築は呟いた。
「都築クン？」
「・・・食っても良いんじゃねーの？龍也クン絶対ェ、食わねーから。」
「なんで？！勿体ねーっ！！」
メンバーの動揺に耳栓をしながら、都築はしたり顔で続ける。
「・・・それ、どうせ男からだし―――」
次の瞬間、全員がザザーーッと引いたのが理解った。
幾ら硬派で男前とはいえ、頬に傷があって、普段から凄みを効かせて、女を近寄せない龍也にバレンタインチョコを渡す勇気のある女なんてこの学校にはいない。
だからと言って、男から貰うのも―――不毛な事以外の何でもなくて。
去年初めて貰ったチョコが、男からの物だった龍也は、これ以上無く落ち込んでいたのだ。
それはもう、傍で見るのも可愛そうな程に・・・。
それでも、龍也に憧れている者が多いのも事実だ。
メンバー内では牽制し合っていたので、誰も渡す事は無かったが・・・。
「・・・まあ、嫌いじゃないだけに・・・不毛だよな・・・。」
―――長い付き合いの都築だけが、誰にも言えない龍也の苦悩を知っていた。
　
龍也が昇降口から居なくなってから、５分後。
「たっくちゃーーーん♪おっはよーーーっっ！！」
朝から元気一杯の声が、辺りに響いた。
「・・・あ・・・おはよう、マー坊くん。」
ギューッと抱きつかれて、困った顔をしながら拓は挨拶を返した。
「ねえねえ、拓ちゃんっ！！今日、何の日か知ってる―――？」
にっこり笑顔で、真理は両手を拓に出しながらそう尋ねる。
「今日？・・・えっと・・・？何か宿題あったっけ？」
困ったように返す拓に、真理はがっくりと肩を落とした。
「そうじゃなくてぇ・・・。チョコ、頂戴！」
「マー坊・・・。それじゃあ、タカリだぞ。」
おねだりする真理に、後ろから追いついてきた秋生が疲れたように、嗜める。
「チョコ・・・？何で？おなか空いてるの？」
まだ気付かない拓は、不思議そうな表情のまま鞄を漁っている。
本気で、拓が気付いてない事を悟った真理は、がっかりとした顔で、拓に抱きついた。
「酷いよぉ・・・拓ちゃん・・・。俺、拓ちゃんからバレンタインチョコ貰いたかったのにィ・・・」
恨めしそうに言う真理に、拓はやっと意味が理解ってボボッと真っ赤になった。
「バ・・・バレンタインッ・・って・・・！！ぼ・・・ボク・・・男だし・・・？！」
心底驚いた顔で言う拓を、真理は笑顔でギュッと抱き締める。
「―――拓ちゃん、カワイー♪良いじゃん、俺、拓ちゃんから欲しかったんだから・・・ネｖ」
ムキューとなっている拓が、逃げようとしてもその腕が離れる事は無い。
「・・・朝っぱらから、バカな事やってんじゃないよ、マー坊！」
カコンッと小気味の良い音がして、真理の頭に何かが当たる。
「イッテ！・・・晶ァ？」
真理が振り返ると、晶が投げつけた包みが、下に転がっていた。
「―――やったぁ、これチョコ？！サンキュー♪」
パッと拓を離した真理が、いそいそと小箱を拾う。
その姿を目で追って、拓は羨ましいと思った。
自慢ではないが・・・今まで女の子からバレンタインチョコなど貰った事が無いのだ。
「・・・拓。」
スッと近付いてきた晶が、擦れ違いざまに拓に袋を差し出す。
「アキラさん・・・？」
「―――味の保障は、しないから。」
「ボクが貰っても―――良いの？」
「アンタに渡しただろっ！」
訝しげに拓が聞き返すと、赤くなった晶はそっぽを向いたままそう告げた。
拓の目が大きくなる。
「うん・・・ありがとう。」
心からの笑顔で、拓は礼を告げた。
　　
それぞれの―――想い。
更に、信じられない・・・現実。
　
その場面を目撃してしまった連中は、思わず自分の頬を抓っていた。
これは夢だ―――夢なんだ・・・と。
だが、痛みは確かに存在して、目の前の光景は消えなくて・・・。
完膚なきまでに叩きのめされた連中の屍ばかりが増えていく。
「―――武丸ぅ・・・！！」
校門前、可愛い部類に入る女の子が誰かを待っている姿に、登校途中の男子生徒の視線が集まる。
あんな可愛い子が、この学校の誰に会う為に居るのかが、不思議に思うほど・・・違和感だったからだ。
だから、その可愛い唇が綻んで、待ち人の名を呼んだ時に、全員が驚愕した。
「あぁ？」
殺される―――と、誰もが悲劇を想像して肝を冷やしていたのだが。
「逢いたかったぁ♪」
世の中には、知らなければ良かった事が、山のようにあるのだ―――と、目撃してしまった連中は誰もが思った。
駆け寄って、抱きついた女の子を、ちゃんと受け止めた武丸の姿は、衝撃以外の何でもなかった。
「あのね、今日バレンタインだから・・・チョコ持ってきたんだ♪ちゃんと、手作りだよ。一個でも良いから、食べてねーｖ」
ニコニコと告げる女の子を見る武丸の雰囲気が、異様なほど柔らかくて・・・。
天変地異か、世界破滅か―――それ程の威力。
そう考えて愕然とした者が、意識を失っていく。
校門前で、バタバタと力尽きるように倒れていく連中を尻目に、二人のラブラブ度は上昇していくばかりだった。
　　
一つ・・・二つ・・・三つ。
拓は目の前にある物に、感動していた。
一つは、朝に晶から貰ったもので・・・それから昼に萌子から貰って・・・その後で、何故か清美からも貰えたのだ。
今まで生きていた中で、一番嬉しい日なのは間違いない。
男として、バレンタインにチョコを貰えるかどうかはやはり気になるものだから・・・。
それが、本命であろうと、義理であろうと―――。
男の自分からまで貰おうとする真理の甘い物好きには閉口してしまう―――が。
「マー坊クン・・・あんなに貰ってたのに・・・」
実際、上級生にも人気のある真理は、それこそ山のようにチョコを貰っていたのだ。
それなのに、最後まで拓にチョコをせがみ続けたのは、理解できなかった。
「まあ・・・秋生くんも大変そうだったけど・・・ね。」
思い出して、苦笑する。
男の先輩から呼び出された秋生が、うんざりした様子で机に突っ伏して姿を思い出した。
リョーは、京子から貰えて上機嫌で帰っていったし、他のメンバーは今日は学校にも顔を出さなかった。
尤も、カズとかにばれたら、それだけで拓のチョコなど没収されていただろうから、それはそれで助かったのだが・・・。
「―――皆、帰っちゃったのかな？」
拓も貰ったチョコを鞄にしまって、帰り支度をした。
階段を下りて踊り場まで来たので、窓から外を見た拓は、校門の横に止まっているバイクに気付いた。
「・・・あれって・・・？」
跨って、誰かを待っているかのような姿が、目に止まる。
目立つ事この上ない容姿。
「―――えーと・・・」
・・・ここは乱校なのだ。
いつ大乱闘が始まってもおかしくは無い。
尤も、並みの相手では歯が立たないという事も嫌というほど、知っているのだが・・・。
慌てて、拓は残りの階段を転がるように駆け下りた。
　　
「―――拓ちゃん」
最初に気付いたのは、時貞―――だ。
ゆったりをした笑みを浮かべて、手招きする。
「時貞クン？―――どうした・・・の？」
聞こうとして、言葉が凍る。
見開かれた瞳に、映ったのは・・・。
「おう。」
「やっと出てきたんかよ？」
風神と雷神が笑顔を向ける。
「え？！なんで・・・？」
？マークを顔一杯にくっ付けたまま、拓は唖然とした口調で問い返した。
そんな拓を、時貞が後ろから抱き締める。
「うわっ？！」
「―――逢いたかった・・・」
うっとりと囁くように、耳元で言われて拓の膝が砕ける。
「・・・時貞くーーーん・・・」
スリスリと懐いている時貞に、拓は情けない声を上げた。
「時貞！テメー・・・！！」
「・・・抜け駆けしてんじゃねーよ！！」
ペリッと剥がすように、時貞の腕から拓を奪い返す。
そのまま三竦み状態になっている真ん中で、拓は困ったように立ち尽くす。
仲が良いのか悪いのか・・・。
彼らの言う『ブロウ』という関係は、拓には理解不能なものだった。
「ふふふ・・・。」
突然、甘い香りに包まれて拓は驚いた。
「・・・千冬・・・さん？」
しなやかな腕が、拓の身体を引き寄せる。
「―――チョコ食べる？」
真っ赤な唇が、艶やかに誘う。
思わず開いてしまった口の中に、甘い味が広がった。
「美味しい？」
言葉も無く、拓がコクコクと頷くと、千冬は美麗な笑みを浮かべて拓の頬にキスした。
「・・・っっ！！」
驚きの余り、拓が硬直すると横からまた腕が伸びて、引っ張られる。
「―――テメーは、隙有り過ぎ・・・だ。」
ムッとした顔で拓を引き寄せたのは、信じられない事に緋咲だった。
ピキッと拓の身体が更に硬直する。
静かな怒りを湛えてその横に立っていた人物―――に。
撚りによって見られたくなかった相手に、見つかってしまった衝撃。
あうあう・・・と涙する拓に追い討ちを掛けるように、校舎から飛び出してきたのは真理で・・・。
「あっ？！テメー等何で集まってんだよぉ？！」
ズラッと並んだ連中を一瞥して、ムッとした表情を浮かべていた。
「―――夜まで、待てなかったんだよね。」
したり顔で言ったのは来栖だ。
「・・・夜？」
「今夜の月は、格別だろう・・・な。」
単車に跨ったまま、空を見上げて大珠はそう言った。
　
「―――結局、出し抜けなかったって事か。」
ボソリと呟いたのは―――誰だったのか。
　
その夜の、彼らの走りがいつも以上に凄まじかったのは―――語るまでも無い。
　　
　　　終わり。　／　戻る

（あれ？最初は龍也拓になる筈だったのに・・・何処で間違ったんだろ・・・（T▽T））