|
天下無敵の親バカども
「ヒーローシちゃ−ん♪」
クスクスと笑いながら真っ赤な顔をした拓が、両手に一升瓶とウイスキーの瓶を持って近付いてきたのでヒロシは一瞬点目になってしまう。
「た・・・拓ちゃん？どしたよ？！」
「もっと、のもーーーっ♪♪」
すっかりロレツの回らなくなった口調で、ニコニコと迫ってくる。
それが完全に出来上がっているせいだと気付いて、ヒロシは相棒を睨み付けた。
「テメー、キヨシッ！！拓ちゃんに何飲ませやがったっ！！」
「んーーー？！まだ日本酒一口だぜっ・・・何だよ・・・俺ぁ何もしてねーって・・・」
ヒロシの言葉に、手酌で日本酒をお椀で飲んでいたキヨシが顔を上げる。
「ひ・・・一口・・・。」
キヨシの答えに、ヒロシはがっくりと肩を落としてしまう。
たかが一口飲んだだけで、ここまで出来上がってしまうなど『ザル』とか『底無し』・・・と呼ばれているヒロシにはとても信じられなくて―――だが、拓らしいと言えば、それだけで納得できるような気もする。
「た・・拓・・ちゃん・・・」
ずっとにこにことしていたのに、目の前でいきなり拓の目が座り込んで居住まいを糺しているのを見てしまい、ヒロシが恐る恐る声を掛ける。
｢―――のめーーーーっっ！！」
ガバッと両腕を揚げて、拓はヒロシを襲撃した。
そうして体勢を崩して、慌てて支えたヒロシの腕の中に飛び込んでくる。
これが他の奴ならば、即座に“上等！！”が始まってしまいのだが、相手が拓だとどうしても強気に出られないヒロシはどうする事もできずに硬直した。
「・・・クスクスクス・・・」
ヒロシの腕の中で、拓はまた幸せそうに微笑っている。
更に、スリスリと子猫のように擦り寄られては、もうヒロシの感情は爆発寸前である。
「―――た・・・『拓』ちゃんっ（汗）！！」
たとえどれ程飲んだとしても、赤くならない筈のヒロシの頬にカァァッと朱が入る。
落ちかけたサングラスの奥に、困った瞳が覗く。
「あーーっ！ずっけぇぞ、ヒロシッ？！」
相棒の、らしくない様子に、笑みを浮かべながらキヨシが近付く。
じゃれている拓の頭に手をやりながら、ヒロシに向かってそう告げた。
「俺の“せ”じゃねーべよっ！」
「じゃあ、代わってやるよっ！」
「てめーの馬鹿力で拓ちゃん掴むんじゃねーよ！？」
拓を奪おうとするキヨシの手を遮るようにしながらヒロシはその状態をキープし続けた。
「こうなったら、ここらできっちり“ケリ”つけ・・っぞっ！！」
「おうよっ！・・・じゃあ、拓ちゃんにきーてみんべっ！！」
まるで食い物の取り合いをしているような調子で、二人は同時に拓を見つめる。
「・・・んぁ？」
半分程意識を飛ばしていた拓は、間の抜けた声を出す。
「こーゆう無意識の時が一番本音がでるんだぜ。」
ニッと笑って、キヨシがそう言った。
「た・・“拓”ちゃんっ！」
最初の“ダチ”の面子があるヒロシは、少しうわずった声で呼びかけた。
「なぁーにぃ・・・？」
とろんとした瞳で見つめてくる拓に、一瞬ドキリとしながらもヒロシは腹を決めた。
「拓ちゃんの一番の“マブ”って“誰”よっ！」
精一杯言い聞かせるように尋ねるが、端から見れば脅しているようにも見えた。
だが、酔いが神経まで回ってしまった拓には、その迫力は伝わらなかったようである。
「ンーーー？・・・」
何かを考えるように小首を傾げた後、拓はキッと眉を吊り上げた。
何かまずい事でも言ってしまったのか？・・・とヒロシは拓を覗き込む。
「ヒ・・・」
拓の唇がゆっくりと動いて形作られ、発せられた最初の音に、ヒロシが顔を輝かせる。
「・・・緋咲ぃぃーーっ！！」
「・・・なにいぃぃっっ？！」
続けられた拓の思いもしなかった台詞に、一瞬の後に驚愕の声が上がる。
「“上等”だあぁぁっ！」
驚きの声の後に、また拓が叫んで・・・やっと二人は全身の力を抜いた。
―――正確には抜けてしまったと言った方が真実かも知れないが・・・。
「“たぁく”・・・ちゃーーん・・・」
「そうじゃねぇよぉ・・・だから、好きな奴だよ。」
がっくりと肩を落として恨めしそうにぼやくキヨシを尻目に懲りないヒロシが問い掛ける。
「好きいぃ？」
片方の眉を持ち上げて、訝しげに聞き返す拓に、ヒロシは大きく頷く。
途端に、赤い拓の顔が更にボッと紅潮した。
そうして、チロリと上目使いにヒロシを見つめる。
無意識の仕種なのだろうが、思わず“抱き締めてぇ！”と欲情してしまいそうである・・・。
「・・・好き・・・」
今度は小さく問う拓に、ヒロシはブンブンと首を縦に大振りした。
隣ではキヨシも聞き耳を立てている。
「・・・ヒ・・・」
今度こそ本当だ！とヒロシは確信した。
自分の名が拓の唇から零れ落ちるその響きを、堪能しようと耳を欹てる。
「―――・・・“秀人”・・・くん♪（ぽっ。）」
―――その瞬間、ピキーンと空気が凍り付き・・・ガラガラと音を立てて崩れ落ちていった・・・。
「ヒ・・・『ヒロシ』ちゃん・・・？『キヨシ』・・・くん・・？どうして、ボクの身体に一杯・・痣がついてる・・の？ボク・・・“ナニ”かしちゃった・・・？」
―――翌日。
昨夜の記憶がまったく失われていた拓は、何故こんなにも身体が痛むのかがとっても不思議であったが・・・どんなに尋ねても、『風神・雷神』説明する事はなかった―――――。
終わり♪（本気でこんなオチで良いのか！？） ／ 戻る |