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奇跡の夜
クリスマスには、雪が降っている方がロマンチックで良いなんて言われるけれど、ここ最近の天気は快晴が一週間程続いていた。
ホワイトクリスマスなんて、夢のまた夢のような状態のなか、無駄な努力を試みている者が一人いた。
その者の名は、天羽セロニアス時貞。
何故、彼がクリスマスに雪を降らせたいのかと言うと、それは先日に、テレビで放映していた古い映画の所為だった。
愛し合っていながら、身分違いの為に引き離された恋人同士が、すれ違いや困難を乗り越えて、漸く再会する事ができたのが、粉雪の舞うクリスマス・イブだったのだ。
まるで、寒さなんてどこ吹く風と言ったような二人きりの世界を繰り広げている恋人同士の抱擁を見て、自分も同じ事をしたくなってしまったのだ。
相手は勿論、彼が心の底から愛しているたった一人の“存在”。
ずっと、側に居ようと誓った相手。
ずっと、側に居てくれると約束してくれた『拓』。
粉雪の舞う特別な日に、小さくて柔らかなその身体を両腕の中に抱きしめて、ギュッとしたらどんなに“幸福”になれるだろうか？
想像しただけで、顔が緩んでしまいそうだが、如何せん肝心の雪が降らなければ、想像は想像のままで現実になってはくれないのだ。
どうすれば、雪を降らせる事が出来るのだろうか？
時貞はこの三日程、ずっとその事ばかりを考えていたのだった。
「うーーーーん・・・」
ボウッと、何かを考え込んでいるような時貞の様子に、家事をしていた拓は首を傾げた。
この三日程、何だか様子がおかしいのだが、何を考えているのか全く理解らない時貞に、拓はただただ？を浮かべるばかりである。
下手に問いただして、墓穴を掘るのも嫌なので、黙っているのだが・・・。
最初は、具合でも悪いのかと思ったのだが、夜の事を考えるとそうでもないらしい。
毎夜毎夜、勘弁してほしいと思う程、拓にとっては大変なのだ。
できる事なら、そっちの方で、少しは具合が悪くなってほしいと思ってしまう程・・・。
学生の本分である試験も終わり、何とか無事に冬休みを迎える事ができたのだが・・・何だか、学校に居る時の方が心が休まるかもしれないと思ってしまう拓であった。
身構える間もなく、ベットに押し倒されたら、もうお終いなのだ。
後は、拓がどんなに抵抗しても、“暖簾に腕押し”“糠にクギ”状態で、結局時貞の思うままになってしまう。
それでも、息苦しくて辛くて、意識が飛んでしまいそうな状態の時に耳許で囁かれるハスキーボイスは、反則だと思う。
切なげな“想”いの込められた愛の囁きは・・・理不尽な行為すら、正当化してしまうのだから・・・。
昨夜の声を思い出しそうになってしまい、拓はカッと全身を真っ赤に染め上げた後、慌てて意識を逸らした。
耳にこびりついて消えない囁き。
それが、拓を捕らえて離さなくなってしまわないように・・・拓はキュッと唇を噛んだ。
「・・・時貞くん？」
意識を切り換えようと、拓は時貞に声をかけたが、考えに没頭している時貞には届いていないようだ。
やれやれと言う風に肩を落とすと、拓は付けていたエプロンを外してリビングを後にした。
そのまま、厨房に向かった拓は、年末に向けて大掃除をしていた執事の檜原を見つけた。
「檜原さん。」
「これは、拓さま？何用でございますか？」
邪魔をしないように声を掛けたが、やっぱり執事は礼儀正しく動作を止めて拓を伺い見てくる。
それにちょっと困ったような表情を浮かべてから、拓は用件を告げる。
「あっ、邪魔して御免なさい。あの、僕ちょっと買い物に出掛けたいんですけど、時貞くんが何か考え事してるみたいで・・・」
少し口ごもる拓に、檜原は納得したように頷いた。
「あのお方は昔から考え始めると自分の世界に閉じこもってしまう性格をなさっておりますから。」
「あの・・・それで、すぐに戻ってくるし・・・メモも一応残したんで・・・」
「畏まりました。もしも時貞様がお尋ねになりましたら、お答え致しましょう。」
「有り難うございます。それじゃ、行ってきます。」
檜原の言葉に、漸くホッとした拓は、にっこりと笑ってその場を後にした。
外出の支度をして、拓が門まで行くと、拓に気付いたアービィとルーファスが尻尾を振りながら近づいてきた。
下手をすると拓よりも大きな二頭のボルゾイ犬は、最初こそとても怖かったが、時貞と同じように拓も認めてくれたようだった。
「アービィ、ルーファス・・・ちょっと出掛けてくるね。」
スリッと懐いてくる二頭の頭を交互に撫でてから、拓はゆっくりと門を押し開いた。
学校に行く時以外で、一人で出掛けるのは本当に久しぶりな事だった。
正確には、時貞と一緒に暮らすようになってから初めてだと言っても間違いではなかった。
最初は、学校すら行けなくなるのではないかと思っていたが、その辺は何とか譲歩してくれたのだ。
その変わり、それ以外の時間は時貞の側に居ると約束したのだが・・・。
敢えて、今日は一人で外出したのだ。
そう、拓にとっても時貞が考え事に没頭して拓を顧みない今日が最後のチャンスだったのだ。
最初の日は、直ぐに元に戻るだろうと思って、行動できなくて、昨日は何だか約束が気になって・・・。
でも、三日がたって・・・拓はずっと考えていた事を行動に移したのだった。
時貞が一緒にいては、できない事だったから。
ポケットの中には、ずっと溜めていた・・・自分で働いて溜めたお金を持って。
目指すは、元町。
先日、通りすがりに見つけた“物”。
きっと、似合うと思うから。
その瞬間を想像して、拓は本の少しだけ微笑った。
幸せそうに・・・。
年末の元町は、クリスマス色に彩られていた。
道行く人々はアベックばかりで、ショーウィンドウに飾られた品物を眺めたり、買ったりしているようだった。
今夜の事を考えて、きっと皆過ごしているのだろうか？
聖なる夜・・・クリスマス・イブ。
本当なら、拓だって可愛い女の子と一緒に過ごす日を夢見た事だってあった。
今となっては、それも淡い夢の彼方へと消え去ってしまったが・・・。
何しろ、拓の相手は時貞なのだ。
しかも、取り返しがつかない事に、結婚式まで上げてしまったのだ。
同居生活も半年以上たってしまって・・・。
全く、人生何処で転げ落ちてしまったのか・・・・
運命なんて、本当に理解らないものだ。
時貞が、死んでしまったと思った時は、本当に哀しくて・・・辛くて苦しくて・・・。
生き返ってくれた時は、嬉しくて。
そんな感情は、確かに拓も持っていた、大切な友達だから・・・。
だけど、時貞の“想”いは、そこで止まらなかった。
“何処までも何処までも一緒に行こう・・・”
それは、時貞の敬愛している詩人『宮沢賢治』の話の“銀河鉄道の夜”に出てくる台詞。
まさか、それが時貞のプロポーズだったなんて、一体、誰が理解るというのか(-_-;)
まるで狐に包まれたかのような拓が、まだ常識にしがみついている間に、時貞はあっと言う間にそれらを蹴っ飛ばしてしまったのだった。
プロポーズからたった三日で、結婚式・・・。
その後、迎えに来てくれた皆を振り切るように時貞に抱えられて、拓は“悪魔の鉄槌”に乗せられて、そのまま新婚旅行に連れだされたのだ。
その後、拓は二度と元の生活に戻れない状態となってしまったのだった。
良く、考えると理不尽この上ない境遇でしかないのだが・・・それでも、誠心誠意を込めた時貞の願いを、拓は拒む事ができなかった。
自分を求める時貞の“想”いを振り払えなかった。
だから、今も一緒に暮らしている。
取り合えず、“夫婦”として・・・・ 最初は、戸惑いと後悔と・・・怖さでだけで三ヵ月がたってしまった。
そうして、半年・・・９か月・・・。
一緒にいる時間が増えて・・・時貞の事も少しずつ理解るようになって・・・。
困る事も沢山・・・戸惑う事も一杯・・・。
それでも、回される腕の温もりが、段々嫌じゃなくなってきている。
元々、一端諦めると、慣れるのも早いのだ。
だからこそ、あの“乱校”でも過ごせるのだから。
そうして、気付いた事。
それは、時貞にいろんな物を貰ったり、してもらったりしているのに、拓からした事がなかった事に。
そんな事を考えながら、学校から帰る為に歩いていて見つけたそれは、拓の意識を強く引きつけたのだった。
真っ白であったかそうな毛糸のマフラー。
女の子じゃないから、手編みなんてできないけれど、寒がりな時貞にプレゼントしようと思って。
値段を確認して、ちょっと迷ったけれど、誕生日とクリスマス分のプレゼントという事で、決めたのだった。
それが、今日の外出の理由。
時貞と一緒に、時貞に渡すプレゼントを買う訳にもいかないので、拓もまたここ二・三日迷っていたのだった。
「すみませーん・・・」
目的のお店に辿り着いて、ショーウィンドウを覗き込むと、先日に見かけたマフラーが無くなっていたので、店の中に入った拓は、そのまま店員さんに声を掛けた。
「はいっ！いらっしゃいませ。」
明るい感じのお姉さんと言った風な店員は、元気よく応対してくれた。
「あの・・・飾ってあった白いマフラーありますか？」
途端に恥ずかしくなった拓が、少し口こもるように問いかけると、途端にその店員は顔を曇らせた。
「あぁ・・・あれ？今年の流行りモノだから、あっと言う間に売り切れちゃって、問屋も置いてないのよ。さっきも、飾ってあったのでも良いって言うから、売っちゃったばかりだし・・・」
「・・・そうですか・・・」
すまなさそうに告げる店員に、拓はがっくりと肩を落とす。
折角、ここまできたのに、無駄足だったのだ。
かと言って、あのマフラー以上の品物など、拓には見当もつかなかった。
「どうしよ・・・」
困った顔で立ち尽くす拓に、見かねた店員が、他の店員へと何かを尋ねていた。
「ウチにはもうないけど、同じ物なら“関内”か“中華街”・・・ちょっと歩くけど、“桜木町”の方でも売ってるかもしれないわよ。同じ問屋から降ろしてる筈だから、お店の名前書いてあげるわね。」
戻ってきた店員の言葉に、拓は笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。」
「良いのよ。見つかると良いわね。」
ペコリと頭を下げた拓に、メモをくれる。
その言葉に勇気付けられて、拓は教えて貰ったお店へと向かった。
その頃、時貞はまだ考えの中に没頭していた。
“うーーーん・・・雪の降る『音色』なんて知らないし・・・魔法とか使えれば、早いんだけど・・・”
そうして、思い浮かべるのは、やはりテレビで見た事のあるシーンである。
“魔法使い”が右手に魔法書を持って左手を上げて呪文を唱えると、雨が降ったり風が吹いたり雷が落ちたり吹雪になったり・・・。
あの呪文が理解れば・・・簡単な事なのに。
ずっと考えているのに、中々良い考えが浮かばない時貞は段々苛ついてきてしまう。
こういう時は、拓ちゃんの“存在”を確かめて・・・。
そうして、ずっと雪を降らせる方法ばかり考えていた時貞の意識に拓が蘇る。
途端に、意識を取り戻した時貞は、身を投げ出すようにしていたソファーからスクッと立ち上がった。
「拓ちゃん？」
その“存在”を確かめる為に、声を発するが返事が返ってくる事はなくて・・・。
「―――拓ちゃんっっ！！」
カッと瞳を真紅に染め上げると、時貞はリビングを飛び出した。
残されたソファーの側には、拓の残したメモが握り締められた状態で転がっていた。
『 時貞くんへ・・・ 何回も声を掛けたけど、気付いてくれないので黙って行きます。少しだけ出掛けてきます。すぐに戻ってくるから心配しないで下さい。
拓 』
屋敷を飛び出した時貞は、そのままガレージに行き、愛車に飛び乗った。
キック一発で、爆発的な加速を齎す圧縮されたエンジンも、時貞の望みどおりに動いた。
時貞の行動に気付いた檜原が、何かを言うよりも速く、時貞の乗ったバイクは横浜の町中へと発射した。
結局、教えて貰った店を全部回って、漸く一番遠い所で目的のマフラーを見つけた時には、既に時刻は夕刻も遠に過ぎた後だった。
「うわぁ・・・すっかり遅くなっちゃったなぁ・・・時貞くん、きっと怒ってるよォ・・・・」
日が落ちて、冷たい木枯らしが吹く中を、拓は買ったマフラーを大事に抱えたまま足早に歩いていた。
こんなに遠くまで来るのなら、バイクで来れば良かったと思いながら足を動かす。
折角買ったマフラーも、今日渡せなかったら、何の意味もないのだ。
少しでも近道しようと、角を曲がった途端に、拓は自分が“不運”に捕まってしまった事に気付いた。
「よぉ？」
「こんなトコで会うなんてなぁ・・・」
前から歩いてきた者たちの、獲物を見つけたかのような表情に、拓は危険を察知した。
ここは、“乱校”内ではないのだ。
なのに、どうして敵と出会ってしまうのか。
「今日は、鮎川とかとは一緒じゃないのか？」
「たった一人で良い度胸じゃんかヨ？」
嘲るような口調にも、拓は無視して通り過ぎようとしたが、結局捕まってしまう。
「シカトしてんじゃねぇヨッ！！」
突き飛ばされて、袋を落としそうになってしまい、慌ててきつく抱きしめる。
「あぁ？何だ？」
「鮎川の腰巾着が、やるってぇのか？」
「武丸がいなくても、“ヤ”る時はやんだぜ！」
次々と威圧してくる者たちは、全員『魍魎』のメンバーだった。
拓がいつも一緒に行動している真里や夏生とかとは、天敵とまでなっている者たちである。
一瞬、キッと睨むように見据えた後で、だが腕の中の袋を奪われてしまう。
「返せっ！」
慌てて取り返そうとするが、届かない。
別の者にはがい締めにされて、拓は悔しさの余り唇を噛みしめた。
「なんだぁ？そんなに“大事”なモノなのか？」
ヒラヒラと翳す相手を、拓はキッと見つめる。
「へっ！こんなものっ！！」
「止めろっ！！」
ベシッと地面に叩きつけられて、その上を踏みにじられた。
拓の口から、悲鳴のような叫びが上がった。
折角見つけてきたのに、時貞にプレゼントする物なのに・・・護れない事が悔しくて哀しくて・・・。
「何だよこいつ・・・泣いてやがるぜ・・・」
「ボロボロにして、真里のトコに持ってったらどんな面しやがるか・・・」
「面白ェ、試してみよーぜ・・・」
そうして、身動きの取れない拓に向かって、リンチを加えようとしていた者たちは、一瞬の内に通りすぎた風に、強烈な一撃を食らっていた。
「・・・っ！誰だっ！！」
無様に倒れながらも、必死に起き上がった者は、そこに地獄の悪鬼を思い浮かべたかもしれない。
尤も、それも刹那の事で、次の瞬間には意識すら留めておく事も不可能になった。
疾風のように現れたその者は、一分も掛からずに、その場を血の海と化した。
それほど、手加減など全く考えていない、容赦のない攻撃だった。
倒れている者たちが、ピクリともしなくなってから、漸くその者は呆然としていた拓の側まで近づいた。
ペタリと座り込んでいた拓を腕を掴んで立たせると、そのまま落ちていた袋を拾おうとする。
「触らないでっ！」
ハッと気付いた拓は、思わずそう叫んでしまった。
「・・・拓ちゃん？」
傷付いたような“緋”い瞳に見つめられて、拓は溢れだす涙を止める事が出来なかった。
「駄目だ・・・時貞くんが拾っちゃ・・・だって・・・それは・・・」
涙に霞む視界に写るそれは、踏みにじられて汚れてしまっていた。
一応袋の中に入っているので、マフラーそのものは無事だったかもしれないが、それでも汚されてしまった気がしたのだ。
時貞にプレゼントしようと思っていた“気持ち”そのものが・・・。
「踏まれちゃったから・・・だから・・もう・・・。」
ボロボロと泣きながら言う拓に、時貞は無言のままその袋を持ち上げた。
「時貞くんっ！！」
「拓ちゃんがいらないんなら、オレが貰う。」
悲鳴のように告げる拓に、時貞は怒ったようにそう告げた。
「拓ちゃんが、買った物だろ？オレに黙って出掛けたって事は、内緒で他の奴に・・・そんな事っ！！」
そうして、時貞は乱暴とも言えるきつい動作で拓を抱きしめた。
「拓ちゃんが、買った物だけど・・・誰にも渡さないっ！全部・・・全部、オレの物だっ！！他の奴に何か、何も渡さないっ！！」
叫ぶようにそう告げると、時貞は奪うように拓に口付けた。
そのまま貪るような激しいキス。
息も出来ない程きつく抱きしめられて、全てを奪われそうなキスをされながら、拓は胸に沸き上がってくる“感情”を抑えきれなかった。
だから、その“感情”のままに、拓は初めて自分から時貞に腕を回した。
「・・・拓ちゃん？」
「・・・なんだ・・・」
「えっ？」
「だから・・・時貞くんの為に・・買ったんだ・・・」
泣きじゃくりながら告げる拓の言葉に、時貞は一瞬息を止めた。
「驚かせようと思って・・・だから、一人で買いたくて・・・いろんなトコ一杯探して・・・やっと見つけたのに・・・」
そこまで告げて、またポロポロと涙が零れてしまう。
そんな拓の涙を、時貞は愛しい“想”いで口付けで拭っていく。
「・・・護れなくって・・・ゴメンネ・・・汚れちゃって・・・折角のプレゼントなのに・・・」
ギュッと抱きついてくる拓が、何よりも愛しくて。
時貞は、その前髪にそっとキスを落とした。
「・・・言葉が見つからないぐらい・・・嬉しいよ・・・拓ちゃん。」
“幸福”なんて言葉では言い尽くせない程、時貞は満たされていた。
「あの・・・お誕生日・・・おめでとう・・・えっと・・・ハッピーバースディ・時貞くん。それから・・・メリークリスマス・・・」
ふんわりと微笑した拓に、甘いとろけそうなキスを贈って、そのまま両腕の中に包み込む。
汚れてしまった袋の中でも、マフラーは真っ白なままだったので、ほんの少しだけ拓は心が慰められた。
「きっと、時貞くんに似合うと思ってたんだ・・・」
両手で、少し屈んでくれた時貞の首に、拓はマフラーをかけてやった。
「とても、暖かいよ・・・拓ちゃん。」
腕の中の拓に感謝のキスを雨を降らす。
雪なんか降ってなくても、全然関係なくラブラブな状態な事に、時貞は全く気付いていないようであるが・・・。
「・・・あれ？」
上を向いていた拓が、瞳を見開く。
「拓ちゃん？」
そのまま掌を広げて何かを受け止めるような仕種をする拓に、時貞は不思議そうな表情となった。
「・・・雪？」
「えっ？」
ポツリと呟いた拓に釣られるように、空を見上げた時貞は、次の瞬間、同じように瞳を開いた。
「・・・『奇跡』だ・・・」
「時貞くん？」
「オレ、ずっとイブに雪を降らせたくて・・・」
信じられないという風に告げる時貞に、拓は少しだけ嬉しそうに笑った。
「じゃあ、これはきっと神様からの時貞くんへのプレゼントだね・・・」
「・・・うん。」
そうして、ずっと望んでいた想像を、現実にする為に時貞は行動した。
『もう、オレに内緒で出掛けたら駄目だよ・・・』
『・・・うん・・・』
粉雪の舞い落ちる中、ギュッと抱きしめた拓は、やっぱり小さくて柔らかくて・・・。
降り積もる雪のように、互いの“愛”が重なっていく事を感じる二人だった。
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