（この話・・・実は９年前のクリスマスに出したコピー本なんです（ＴＴ）
すっかり出した事を忘れてた・・・ゲフ（喀血）
今回、違うジャンルの本を探してたら見つかったんで、ＵＰしちゃいました（＾＾；）
しかし・・・そうか・・・天羽以外で書いてたんですね―――ザキでもクリスマスネタ（乾笑）
しかも、よりによって甘々だよ（砂吐）さらにこれ出した時の後記ではもっとリリカルな話も考えてたようで・・・。
―――余程体調悪かったんだなぁ・・・と。（爆）今更ながらですが・・・読んで貰えると嬉しいですｖｖｖ）

Ｂａｒｂａｒｉａｎ．
 
 
きらびやかなイルミネーションが街並みを飾っていく。
今年もあと一週間程で終わると言うこの時期、最後の足掻きのような行事が残っていた。
"クリスマス"
日本人というのは、面白い人種で、都合の良いことに対しては、限りなく寛容な立場を取るのだ。
宗教関係になるとそっぽを向くくせに、お祭り騒ぎには参加するという・・・不思議な人種であった。
尤も、クリスチャンの迎える"クリスマス"とは、全く形式が違うと言えば、そうかもしれないが・・・。
 
 
 
クリスマスソングとも言える"ジングルベル"が鳴り響く中を、愛車のチェリーピンクの『FX』で疾走していく。
一番目立つのは。靡いている紫の髪である。
いつもは立てているその髪を、今日は下ろして後ろで軽くゴムで止めていたりする。
白のストライプ線の入った黒のスーツの上にブラックコートで身を固めたその姿は、とても族の"頭"を張っているようには見えない。
だが、彼はれっきとした横須賀一のチームである『麓沙亜鵺』の１１代目の"頭"なのである。
そんな彼が、今走っているここは彼の棲む街ではない。
神奈川の中心と言っても過言ではない・・・人種の坩堝とまで呼ばれている『横浜』。
横浜港が開港してから今年で何年になるのかは忘れたが・・・とにかく、横須賀よりは発展している街である。
そんな場所を何故彼が走っているのかと言えば・・・この街に彼の一番大事な"者"が住んでいるからである。
今も、その者に逢いに行く為に、彼は愛車を走らせている。
横須賀から横浜というのは、結構距離もあるのだが・・・彼にとっては全く苦にならないらしい。
ほぼ毎日と言っても良いほど、逢いに来るのだから、その"想い"も半端ではないのかもしれない。
初めて出合った時は、最悪の状態で・・・。
それが、"想い"に変わっていったのは何時からだっただろうか・・・？
それを"恋"だと自覚したのは・・・？
知らず知らずの内に、惹かれていたのだ・・・その自然な飾らない"存在"に。
最初は見ているだけでイライラした。
だけど、その姿が見えないと、もっとイライラするようになって・・・。
その姿が、他人の側に居ると胸が苦しくて。
他人に笑い掛けている姿は、胸が引き裂かれそうな程―――痛い。
自分の身体がどうにかなってしまったんじゃないかと思うほど、まともじゃなくて。
その"存在"を腕の中に感じている瞬間だけ、心が安らぐなんて・・・冗談じゃない。
笑っちゃう程、単純な事。
なのに・・・気付くまで、随分と遠回りをしてしまった気もする。
苛立ちが先行して・・・酷い事もしてしまった程。
完全に嫌われて・・・二度と会えなくなるのなら、それもまた"運命"―――と、自棄になった時期もあったけど・・・。
彼の行動の全てを許して、許容してくれた"存在"を、もう二度と手放す事なんか出来なくなっていた。
離れているだけで、心に隙間が出来る。
身体の寒さではなく、精神の"孤独"。
温もりを与えてくれるたった一つの"存在"だから・・・一刻も早くこの腕の中に包み込んで、離したくない。
そんな事を、真顔で伝えたならば・・・一体どんな顔をするのだろうか？
ガラじゃないけれど・・・それでも、いつも"想い"は激しいまでに彼を捉えて離さない。
気狂いのように渇望するこの"想い"が、相手の重荷にならない事をただ祈るしか無い程・・・歯止めが効かないのだ。
それでも、笑って受け止めるだろうか？
少し困ったような、いつもの笑みで。
いつもいつも不安だらけで・・・『真実』なんて見つけられないけど・・・。
傍に居ないと・・・その"存在"を感じていないと―――この"想い"が、胸を引き裂くだろう。
それこそが『真実』。
だから・・・早く。
一刻も早く。
この胸にお前を抱き留めよう。
抱き締めて・・・口付けて・・・。
そうしたならば、お前は怒るだろうか？
 
 
 
約束の時間よりも十五分早く・・・待ち合わせの場所に走ってきた拓は、そこに既に立っていた人物に、少しだけ困った笑みを浮かべる。
今日こそ、自分の方が早く着ただろうと思っているのに、いつもいつも相手の方が先に着ているのだ。
しかも本人はいつの隠しているのだが、足元に散っているタバコの本数からして、大分前からその場に居ただろう事が伺えて、何とも言えなくなってしまう。
「随分・・・待った？」
「いや・・・そうでもない。」
拓の問い掛けに、穏やかな微笑が戻ってくる。
だから、拓も笑う。
困ったように・・・。
そうして、今日は何処に行くのかを問いかけようとした拓は、次の瞬間、自分の身体が包まれている事に気付いた。
紫の髪が、サラリと零れて・・・顔の中央を横一線で付いている傷跡が近付いたのを見た途端に、唇を奪われていた。
「・・・んっ・・・」
驚きに身じろぐ拓の抵抗を封じ込めて・・・抱き締める腕に力を込めたまま、口付けを深くしていく。
抵抗する力が失われて・・・身体を預けてくるようになるまで、それは続けられた。
「・・・信じらん無い・・・」
漸く唇が解放されて・・・大きく深呼吸をした後で、拓はがっくりと肩を落としてそう呟いた。
そんな拓の様子に、彼は限りなくＳＥＸＹな微笑を浮かべる。
彼独特の―――会心の笑み。
そんな顔をされてしまえば、それ以上拓に何かを言える筈もない。
「・・・行くぞ。」
だから、彼が愛車に跨って、拓を呼んだ時に、拓はおとなしくその後ろに乗った。
そうして、彼の背中にギュッと掴まる。
喩え、何処に連れて行かれようとも・・・彼の行く所なら、何処でも構わない。
彼と一緒なら・・・。
強くて厳しくて・・・恐ろしくて―――なのに酷く優しい。
・・・そんな彼を知ってしまったから。
 
二人を乗せた『FX』はまた喧騒の町中へと走り出した。
 
 
 
中華街で夕食を取った後で、二人は"港の見える丘公園"へとやってきた。
バイクを入り口に止めると、そのまま二人で歩き出す。
展望台から港の方を見ると、クリスマスの所為か、いつもよりも煌びやかなイルミネーションが、灯っていた。
港に入ってくる船までも、色々な色のライトで着飾っているようだ。
特に今夜は特別な―――夜。
特別で大切な時だから・・・だから、拓は今ここにいるのだ。
それを後悔などしない。
傍らに立つ彼を見上げて、拓は微笑う。
様々な事が遭って・・・その度に泣いたり怒ったり・・・笑ったり・・・。
そうして、こんな関係になった。
それが正しい事じゃないって理解っていても・・・それでも譲れない"想い"があるのなら―――もう少しこの関係に浸っていたいから。
拓の笑みをどう受け止めたのか、彼はそんな拓をそっと広げたコートの中に包み込む。
暖かな温もりに包まれて、拓は頬を染める。
恥かしくて、どうにかなってしまいそうだが・・・でもこの温もりを手放したくはない。
コートで包まれたまま、きゅっと抱き込まれて・・・拓はそのまま身を任せる。
委ねるように身を預けたままで、視線を空に向けると、漆黒の闇の中に光り輝く満月が映った。
 
 
地上の光りに負けない程の輝きを放つ、綺麗で清廉な光り。
月の光りが強すぎて、他の星々が見えない程。
ホワイトクリスマスなんて、何処吹く風の晴天と言うべきか。
尤も、雪など降っていたら、寒くてこんな場所にいられる筈もないけれど・・・。
街並みの喧騒もここまでは聞こえない。
ジングルベルも響かない。
シンッ・・・とした空間。
たった二人だけの・・・静かな"場所"。
カーン・・・カーン・・・カーン。
何処か遠くから、協会のチャペルの音が聞こえてくる。
クリスチャンじゃないけれど・・・こんな静粛な時間が持てるのなら・・・大切な人と過ごせるのなら・・・"クリスマス"もあった方が良い。
「―――拓。」
甘いテノールの響き。
それだけで、胸が切なくなる。
視線を上げて・・・相手を見つめる。
絡み合った視線の中に、お互いしか見えなくなる。
触れ合ったのは―――唇。
どちらからのものかは・・・理解らない。
持て余してしまいそうな程の感情を、口付けによって昇華させて・・・。
『好き』・・・じゃない？
『愛』・・・かもしれない。
この"想い"をどんな言葉で表現すれば良いのかなんて―――理解らない。
理解など・・・したくもない。
胸の中にこの"存在"があれば良い。
傍にいて・・・抱き締めてくれれば良い。
それだけで、理解るから。
言葉でなく・・・もっともっと深い感情を・・・触れ合う事で、理解る事が出来る筈だから―――。
"愛してる"・・・なんてガラじゃない。
ガラじゃないのに・・・油断してると口から飛び出してしまいそうで。
口にした瞬間に、どんな表情を浮かべるだろうか・・・と、考える誘惑に負けてしまいそうで。
「―――拓・・・。」
だから、囁くように・・・この"想い"を伝えよう。
聞こえないように―――聞き取れないように。
まだ気付いて欲しくない"想い"だから。
少し瞳を見開いた拓は、ゆっくりと微笑を浮かべる。
まるで、花が開花するかのように・・・ゆっくりと艶やかに。
瞳を奪われる程の、その笑みに、誘われるようにもう一度口付ける。
至福の時間―――幸福な『刻』。
永遠に浸っていたいと思っている"時"程、終わりの来るのは呆気ないものだ。
特に、拓の周りで、拓を狙っている奴等の半端じゃない"想い"込みは・・・彼が拓を手に入れてからも、ますます激しいものとなっていた。
 
 
「今日は・・・三時間半かよ・・・」
チラリと腕時計を見やって、拓と出会ってからの時間を計算した彼は、その思っていたよりも短かった時間に、泣きたくなった。
流石に、特別な日なので、相手も気合が入っているのだろう。
それにしても・・・と思う。
―――いい加減に、諦めろ―――と。
尤も、それで納得するような連中であれば・・・こんなに苦労はしないのだが・・・。
不意に現れたその人物は、突き刺しそうな程きつい眼差しで彼を睨んだ。
その"紅"い瞳で。
銀の髪に褐色の肌・・・が、月明かりの中に浮かび上がる。
「・・・殺したくなるような・・・月だよ・・・ヒザキ・・・」
「セロニアス・・・」
腕の中の"存在"をギュッと抱き締めて、彼は相手の名を呟く。
少しでも躊躇すれば、あっと言う間に、奪われてしまうだろう事が簡単に予測できたから。
「・・・時貞クン・・・」
彼の腕の中で、拓は小さな声で出現者の名を呼んだ。
天羽―セロニアス―時貞。
何カ国の血が混じっているのか理解らない母親と、日本人の父親との間に生まれた混血児。
異国の地に生まれ・・・暴動によって、両親共に目の前で惨殺されるという悲劇を経て、日本に来た為に非常に厄介な性格をしていた。
一端心を開くと、それに対する執着も半端ではないのだ。
そうして、現在・・・時貞のベクトルは、全て拓に向かっていると言っても過言ではなかった。
「今夜"天羽の館"へ招待しようと思って・・・呼びにきたよ・・・拓ちゃん。」
にっこりと微笑を浮かべて天羽が告げた台詞に、戦慄が走る。
絶対にろくな事が起こらないだろう事が、ヒシヒシと感じられて・・・拓は泣きそうな顔を浮かべた。
プルプルと首を横に振る拓に、天羽は酷く傷付いたような表情を浮かべた。
そうして、悲しみを湛えた"紅"い瞳を拓に向ける。
「・・・"オネガイ"しても駄目かい？―――今日は・・・オレの・・・生まれた日だから・・・拓ちゃんと過ごしたいんだ・・・」
一言一言"想い"を吐き出すように口にする天羽に、拓は胸が締め付けられる感じがした。
「あっ・・・ボク・・・」
そうして・・・辛そうな瞳を彼に向ける。
その瞳を見た時に、彼の苛立ちは最高まで高まった。
「―――好きにしろ・・・。」
言い捨てて、クルリと背を向ける。
コートの中の温もりが失われた拓は、一瞬泣き出しそうな表情を浮かべる。
彼は彼でまた、拓が天羽を選ぶだろうと踏んでいた。
天羽の台詞は、見事に拓の弱点を突いていたのだ。
他人に対して、酷く優しい拓は、天羽が弱さを見せた事に対して、強く感情を動かされていた。
それを天羽が狙っていたとも知らずに。
尤も、知っていたとしても・・・拓なら、嫌とは言わないだろう。
それが、理解っているだけに―――彼にとっては酷く歯痒いのだ。
それが、拓の良さだと理解っているだけに。
せめて拓が、吹っ切れるように自分が消えようとした彼は、拓がコートを握っている事に気付いて不可思議な顔付きとなった。
「・・・拓？」
「・・・も・・・こ・・・」
「・・・あ？」
問い掛けに返って来た声が小さくて、聞き取れなくて彼はもう一度ぶっきらぼうに問う。
「―――緋咲クンも・・・行こ・・・」
真っ赤な顔でそう告げた拓の台詞に、彼の瞳が見開く。
「・・・"拓"ちゃんっ？！」
同じように驚いたような天羽の声も上がる。
「だって・・・"トモダチ"だって・・・時貞クン言ってた。折角の誕生日なら、皆に祝ってほしいじゃない・・・？だから・・・緋咲クンも・・・ヒロシちゃんやキヨシくんも呼んで・・・皆で時貞クンのお祝いをしてあげようよ・・・。」
ジーッと見つめてくる拓に、深い意味はない。
だが、天羽の"想い"を知っている彼にとっては、これ以上可笑しい事などなかった。
「―――って、言ってっけどよォ・・・テメェはどうなんだよ・・・セロニアスゥ・・・」
ククッと笑って言うと、天羽はブスッと膨れていた。
「仕方ないなぁ・・・"拓"ちゃんがそう言うんなら・・・他のヤツがいても"イ"―よ。」
銀の髪に手を突っ込んで、頭を掻きながらそう告げる天羽を見てから、拓は彼を振り返る。
「ゴメンね・・・緋咲クン・・・でも―――ありがと・・・」
「・・・あぁ。」
極上の笑顔でそう言われて、彼は照れ隠しにぽりっと鼻先を掻いた。
「あっ・・・でも、ボク・・・何もプレゼント用意して無いや・・・。時貞クン・・・何か欲しいものある？」
ニコニコと問い掛ける拓に悪気はない。
全く無い筈である。
だが、ここまで鈍感だと笑い話にもならない。
「・・・欲しいもの？何でも良いの？」
だから、真面目な顔で天羽が尋ねても、拓は少し困ったように笑うだけ。
「"世界全て"なんて、無理な事は言わないでネ・・・」
「オレは、"拓"ちゃんの『愛』が欲しい。」
天羽に常識は通じない。
自分の感情に酷く素直な彼は、"想い"を隠す事をしないのだ。
「え？"」
ゲシッ！！
そのまま、拓を腕に抱き締めようとした天羽の行動を察知した彼が、それを阻む。
「・・・フザケんなよ・・・テメーーー！！」
「―――何時だって、本気さ。」
バチバチと火花が飛び散って・・・今にもファイトが始まりそうな勢いである。
それでも、この組み合わせなら、まだ神経が休まるのだ。
少なくとも―――"トモダチ"だから。
だから、これ以外の組み合わせなんて、どうなってしまうのか全く理解らないので、考えたくも無かった。
尤も、考えなくても済むかどうかは全く別の問題であるが・・・。
 
 
 
クリスマス・イブも更けていく。
この調子だと・・・当分はここにいなくてはならないかもしれない。
その間に、他の者に見つからない事を祈りながら・・・。
たまにはこんな夜があっても、そう悪い事じゃない気がした。
二人っきりで過ごす夜なんて、夢のまた夢―――なんて事は言わない。
本当に二人っきりで、過ごしたいのなら・・・『横浜』ではなくて、彼の街である『横須賀』に行けば良いのだ。
だが、彼はこの街を選ぶ。
そこが拓の"存在"すべき場所であるかのように。
尤も、場所を変えたとしても、他の連中が諦めるとは思えないけれども・・・。
 
 
メリークリスマス・・・メリークリスマス・・・。
せめて今夜・・・聖なる夜に祈りを捧げている人の元に・・・幸せが訪れるように願おう。
 
 
　　　終わり。（イメージsong：『Barbarian』by:吉川晃司）  ／　 戻る