(このＳＳは１１１１ＨＩＴのひそかさまに捧げます。キリ番リクエストの「眠れぬ想い」の続編なので（苦笑）このＳＳのマー坊は結構鬼畜なので、それが嫌な御方は絶対に読んではいけません。―――と、言っても所詮ドリーマーの書くモノなので、どの辺が鬼畜なのかと叱咤されそうですが・・・最後のフォローをしちゃう辺り、鬼畜とは程遠いかもしれません（笑）―――それではっ！！（脱兎））

眠れない夜


暑い夜だった。
そして―――熱い吐息。


湘南から戻ってきた二人は、そのまま真里の家に着ていた。
もう待てない・・・と言った真里に、頷いたのは拓。
玄関で、立ち止まった拓に、真里は不思議そうに振り返る。
「・・・拓ちゃん？」
「―――あの・・・濡れて・・・」
確かに、二人とも全身びしょ濡れである。
「あー、そうか。じゃあ、こっち来て。」
靴を脱いだ真里は、同じように靴を脱いだ拓を手招きした。
「あ・・・お邪魔します・・・。」
小さく声を出すと、拓は真里に引っ張られるように、風呂場に入った。
「一緒に、入ろ♪」
明るく言われて、拓は絶句する。
だが、そんな拓の気もしらないで、真里はさっさと服を脱ぎ捨てると、今度は拓の服に手を掛けてきた。
「え？！あ・・・ぼ・・・ぼく・・・自分で・・・！！」
慌てて拓が自分で脱ごうとした時には、既に上半身は脱がされた後だった。
その素早さに、またしても拓は愕然とした。
「男同士なんだから、恥ずかしがる事ないじゃん。」
笑いながら言う真里に、拓は真っ赤になる。
「―――うん。」
だから、小さな声で応えると、ズボンと下着も脱ぎ捨てた。
濡れていた衣服を脱ぎ捨てると、何だか解放されたような気がした。
真里は、自分の服と拓の服を抱え込むと、洗面台の傍にあった洗濯機に放り込んだ。
「え？あ・・・ぼくの服・・・？」
「俺の貸してあげるよ。さっ、入っちゃお。」
明るく真里にそう言われて、拓はもう今夜は帰れない事を悟ってしまった。


シャーッと、流れるお湯の温かさに、身体が随分と冷えていた事を始めてしった。
確かに蒸し熱いとはいえ、夜の海で散々ずぶ濡れで遊んだ後で、濡れたままバイクに乗って走って来たのである。
体温が奪われていても仕方ない。
「あったかーい。」
思わず漏れた拓の声に、真里は笑った。
同じように太陽を浴びているはずなのに、拓の肌は真里よりも焼けていない。
白いという訳ではないが、薄っすらと色が付いた肌が徐々に熱を帯びていく様は、目を奪われた。
だから、拓に気付かれないように苦笑する。
何で、こんなにも惹かれてしまうのか・・・と。
ボデイソープを泡立てながら、真里は自分が最後まで理性を保っていられるか自信が無くなっていた。
「洗ってあげるよ。」
引き寄せて、小さく呟く。
「あっ・・・僕・・・自分であら・・・んっ！！」
驚いた拓の唇を奪う。
言葉を封じ込めると、真里はゆっくりと拓の身体に手を這わせた。
流石に、女とは違う肌。
弾力も滑らかさもないけれど・・・。
感じる個所に指を当てると、確かに反応が返ってくる。
それが、嬉しくて。
―――止まらない。


「・・・ンッ・・・ハァ・・・ッ！・・・んっ・・・」
ビクビクと全身を麻痺させている拓は、抵抗もできないままに、真里の指に翻弄されていた。
唇を外した事すら気付いていないように、白い泡塗れのまま全身を桜色に染め上げいた。
「・・・拓・・・ちゃん・・・」
後ろから抱き締める格好で、真里は拓の全身を愛撫していく。
綺麗な項に、唇を落として・・・付けられる所有印。
「・・やぁ・・・っ・・・も・・・僕・・・」
余りの快感に、自然と溢れてくる涙。
ぽろぽろと泣いている拓の表情が少し胸に痛んだが、真里は愛撫を止めなかった。
もっと、全身で知って欲しかったから。
感じて・・・欲しくて・・・。
「―――気持ち良い？・・・たく・・・」
耳朶を甘噛みしながら、真里はうっとりと囁いた。
腕の中で、自分の指の動きによって全身を震わせる拓が、狂おしいほどに愛しい。
憧れていた誠を失ってから、こんなに誰かに執着した事は無かった。


もう、二度とないと思っていた。
なのに、知り合ってしまったのだ―――拓と。
追悼集会で、『スピードの向こう側』を見て、バイクごと飛んだ真里を、身体を張って拓が引き止めてくれた時からずっと。
真里は、拓が好きだった。
―――好きになっていた。
失う事が怖くて・・・失いたくなくて・・・。
ずっと、一緒にいられれば―――。
そう、"想"っていた筈なのに。
拓は気付いていない。
周りの自分に向けられる特殊な『感情』に。
いつか誰かに奪われるかもしれない・・・。
そう識った時に、真里は拓を欲しいのだと気付いた。
だから・・・好きだと告白した。
気付いて欲しかった。
認めて欲しかった。
―――この切ない"想い"。


ビクリと、拓の全身が大きく跳ねる。
真里の指が、拓の奥まった個所に潜り込んだからだ。
泡の力を借りて抵抗無く挿入された指は、ゆっくりと拓の内壁を擦り始める。
同時に勃っていた拓自身にも愛撫を加える。
その頃には、拓の声も堪え切れずに、甘く耳に届く喘ぎへと変わっていた。
「・・・マー・・・ぼう・・・くんっ・・・ふぅっう・・・あぁ・・・もう・・・僕・・・おかし・・・あん・・ん・・・」
快感に全身を支配されている拓は、大粒の涙を零しながら、真里に懇願する。
拓の限界を悟った真里は、素早く指を抜き取ると、硬くなった自身を押し当てた。
「・・・ひっ・・くぁ・・・いっ・・・ああぁ―――っっ！！」
徐々に押し込んだ自身が、最初の抵抗を超えると、後は一気に中に入り込んだ。
拓の悲鳴と共に、きつく締め付けられて、真里は思わず息を呑んだ。
想像以上の締め付けだった。
今まで、腕の中で蕩けそうだった拓の四肢が、緊張で張り詰めているのを感じて、その痛みも理解った。
それでも、止まらない。
―――渇望が、収まらない。
好きで好きで・・・恋焦がれて。
やっと、手にいれた―――『想い人』。
「・・拓ちゃん・・・拓ちゃん・・・拓・・・」
何度も何度もその名を呼んで、確かめて。
腕の中に存在する事を感じさせて・・・もっと・・・もっと。
一方的な真里の感情は、爆発した。


不意に、頬に何かが当たる。
目を開けた真里は、自分の頬を辿っているのが拓の指だと漸く気付いた。
どうして・・・？拓の苦しげな視線が絡む。
指先を伝うのは、シャワーの水ではない水滴で・・・。
霞む視界は、何故なのか・・・？
困ったように、拓は微笑した。
それは、変わらない笑顔だった。
動くと痛むのか、眉が顰められる。
「・・・拓・・・ちゃん・・・？」
のろのろとした動作で真里の傍に寄ってくる。
その足を伝う―――赤い色。
途端に真里は、自分が取り返しのつかない事をしてしまったのだと認識した。
抑えきれなかった・・・"想い"。
凄く欲しかったものを手に入れた途端に壊してしまったような、喪失感が全身を襲う。
「・・マー坊・・く・・ん・・・ボク・・・。」
酷くしゃがれた声が響くのと同時に、拓の身体がゆっくりと倒れこんだ。
驚いた真里が抱き上げた時には、拓の意識は既に無かった。


拓が目を開けた時、そこにいたのは真里ではなかった。
「・・・なつ・・お・・さ・・ん？」
びっくりして起き上がろうとして、全身に走った激痛に硬直する。
「―――動かなくて良い。まだ、寝てろ。」
乱れた布団を直しながら、夏生は静かに言った。
何だかその様子が、酷く怒っているようだったので拓は自分が何かしでかしたのではないかと不安になってしまった。
「何か、欲しい物はあるか？水とか・・・」
「あの・・・マー坊くん・・・は？」
だが、その口調は優しかったので、拓は疑問を口にした。
途端に、眉を寄せた夏生に、言葉尻は小さくなってしまう。
「あのバカは、隣の部屋だ。―――呼ぶか？」
言われて、意識を失う前の事を思い出して、拓は顔を赤くした。
夏生の口ぶりから、バレているのは間違いなかった。
「夜中に突然飛び込んできて、オマエが死んじまうと泣き叫ぶから・・・慌てて来て見れば・・・。」
フルフルと拳を震わせる夏生の顔すら、恥ずかしくて見れない。
「―――すみませ・・ん・・・。」
布団を被って、小さく謝る事以外は・・・。
そんな拓の様子に、夏生は小さく息を吐いた。
考えていたよりは、拓の精神的ダメージは無かったのだと理解って。
「・・・ムリヤリだったのか？」
夏生の言葉に、少したってから・・・拓は小さく頭を横に振った。
それだけで、溜め息が零れる。
やれやれ・・・と思いながら、夏生はポケットから煙草を取り出して、火を付けた。
「なら、大丈夫だな。」
そう呟くと、立ち上がって部屋を出て行った。


「―――拓ちゃんっ！！」
入れ替わるようにして、真里が飛び込んでくる。
「大丈夫？！俺・・・ホント・・・バカだから・・・。」
普段とは全然違う口調で言う真里に、拓は顔を上げられない。
「・・・嫌われても、仕方ない・・・から・・・。」
掠れる声に、堪えられなくて、拓は真っ赤な顔のまま布団から顔を出した。
「・・・マー坊くん？」
ポタポタと涙を流す真里の左の頬が、青く腫れていた。
焦って起き上がろうとして、また痛みに襲われた拓だったが、何とか身体を起こす事ができた。
慌てて支えた真里は、真っ直ぐに拓の言葉を待っていた。
それは、恐らく真里にとってとても辛い言葉。
悪戯を見付かって酷く怒られたような表情の真里に、拓はゆっくりと真里の腫れている頬を擦った。
「―――これ、夏生さん？」
「うん・・・。」
「痛く・・・ない？」
もの凄く腫れているのである。
拳一発でこれだけの威力を真里に与えられる者もそうはいないだろう。
「でも、左手だったから・・・。右だったら、今頃ここにいられないし・・・。」
真里の言葉に、拓は青くなる。
「・・・ごめん・・・。」
突然謝る拓に、真里の方が目を見開く。
「そんな！！拓ちゃんは悪くないっ！俺が・・・俺が、無理矢理・・・」
悲痛な顔で言う真里に、拓は少しだけ苦笑した。
そうして、泣きそうな顔をする。
「・・・マー坊くんなら・・・良いって・・・言ったよ・・・」
潤む綺麗な眼差しでそう言われて、真里は言葉を失った。
言語中枢が破壊されたような衝撃。
一方的な"想い"だと、思っていた。
―――思い込んでいた。
許してくれるとは・・・。
許されるとは・・・。
ポタポタと、また真里の目から涙が溢れる。
「マー坊・・・くん・・・？」
答える代わりに、真里は拓を抱き締めた。
胸が張り裂けそうだった。
嬉しくて、切なくて・・・愛しくて。


「拓ちゃん・・・拓ちゃん・・・たく・・・」
肩に顔を埋めて・・・呟くのはその名だけ。
全身を駆け巡る激情の嵐が、満たされて静まっていく。
「・・・マー坊・・・くん・・・。」
くすぐったい響き。
腕の中に確かに存在する―――拓。


ゆっくりと、唇が重なる。
―――吐息が、切なかった・・・。


　　終わり。　　　　　／　　　戻る