このＳＳは、本当は屑様のリクエスト用だったのですが・・・頂いたキリリクに全く当てはまらなくなってしまったので、屋根裏にこっそり置いときます（ＴＴ）Ｈシーンは殆ど無いんですが・・・精神的にきついお話なので、アンハッピーが嫌いな御方は絶対読まれないようお願いします（切実）いつもみたいにギャグで逃げればよかったんですが・・・ＢＧＭが悪かったとしかいいようがないです（涙）

Ｌｏｖｅｄｏｌｌ
　

　
今夜も横浜に出かけようと千冬のマンションに来た八尋は、いつもの調子で合鍵を使って部屋の中に入り込んだ。
「千冬ぅ・・・行くぞ。」
黙って一人で出掛けると、自分の行動を棚に上げて、後でネチネチと嫌味を言うので、仕方なく同行するのだが・・・。
「―――千冬？」
真っ暗な部屋の中、ベットルームだけに明かりが見える。
こんな時間に寝てるとは変だな・・・？と考えたが、勝ってしったる部屋なので、ズカズカと入り込んでいく。
そうして、ベットルームのドアを開けた八尋は、その場で固まった。
―――咥えていたタバコが、ポトリと落ちる。
「・・・・・・・・・・・」
無言で目の前を凝視する。
ベットの中、真っ赤な薔薇の花びらに囲まれて、眠りついていたのは・・・。
黒髪にメイド服の少女。
うっすらとした化粧を施された少女は、まるで人形のようだった。
「―――っ！！」
言葉も無く立ち尽くしていた八尋の間の前で、ゆっくりと開かれる瞳。
ゾクッとするような潤んだ瞳が、真っ直ぐに八尋の視線を捉える。
途端に浮かんだ、信じられないほど柔らかな笑みに、心臓を貫かれたようなショックを受けた。
・ ・・ジャラリ・・・。
ベットの上に起き上がった少女の側で、金属が擦れる音がする。
よく見ると、その細い手首に鎖が嵌められて、ベットの枠に縛り付けられていた。
だが、少女は何か言いたげな表情のまま、鎖を気にすることも無く八尋に向かって手を伸ばした。
黒のレースがふんだんに使われた服は、如何にも千冬が好きそうなものだったが・・・。
八尋は酷く動揺した。
―――まさか、あの千冬がそういう趣味だったとは！！
長年、幼馴染として付き合ってきたが、初めて知った事実に眩暈が起きそうだ。
相州聖龍連盟の曾会長であり、阿修羅王の総長である八尋をここまで恐れさせられるのも、他にはいないのだが。
血みどろの異名を持つ八尋も、いつも想定外の行動を起こす千冬は、悩みの種なのである。
サドだとは思っていたが・・・監禁プレイまでするとは・・・。
これ以上立ち入ってはいけない領域な気がして、八尋は部屋を出ようとした。
だが、背後でドサッと物音がしたので、思わず振り返ってしまった。
大きな黒曜石の瞳が、真っ直ぐに見つめていた。
その瞳に吸い込まれそうな錯覚に、八尋は無理やり意識を振りほどく。
目線を逸らそうとして・・・眉間に皺がよる。
甘ったるい匂いが、鼻腔に入ってきたからだ。
「・・・あの野郎・・・阿片までやってやがんのか・・・」
八尋はその匂いが何なのか知っていた。
湘南地区で出回っている＜薬＞だ。
香にして炊くと、意識が朦朧として・・・相手を思い通りに操れるというデマまで付きまとっている性質の悪いヤクだった。
グルリと周りを見回しても、肝心の千冬の姿は何処にもなかった。
ベットの脇、煙を吐き出している香炉を叩き壊す。
ジャラ。
忌々しげに、破片を踏みつけた途端、延びてきた指先が、八尋の腕を摑んだ。
「―――？」
訝しげに八尋が振り向くと、そのまま縋りつくように、絡み付いてくる。
「俺は、テメーの主人じゃねーよ。」
吐き捨てるようにそう言って、八尋は縋る腕を振り払った。
何時までもここにいると、自分まで倒錯の世界に引きずり込まれそうで、気持ち悪かった。
ギシッとベットが軋んで、ドサッと倒れた少女の服が乱れる。
はだけた裾から伸びた黒タイツの足が、妙に意識に焼きついた。
「・・・あのバカ野郎は、何処行きやがった？」
怒りの形相のまま、視線をそこから引き剥がす。
湧き上がる欲望を無理やり押し込んで、怒気を含んだ声で低く問う。
だが、ぼんやりと視線を漂わせている少女からの返答がある筈も無く。
赤く縁取られた唇は、吐息を零すだけだった。
ほんのり色付いた頬に、黒髪が張り付いて・・・恐ろしいほどに雄の本能を掻き立てる。
ゾクリッと八尋の背筋に言いようの無い感覚が走り抜ける。
清楚でありながら妖艶という反対の色香を纏った姿は、酷く魅力的だったからだ。
「・・・愛・・・して・・・」
紅く艶やかな唇から零れ落ちた誘惑に、八尋はとうとう掴まってしまった。
　

　
　
「・・・ふぅ・・・んっ・・・・」
重なる唇の甘さに酔い痴れながら、思った以上に小柄な身体を押し倒す。
二人分の体重が掛かったスプリングが、音を立てて軋んだ。
シーツの上、乱れた赤い花弁が舞う。
―――人形が、八尋の腕の中で現実の者に戻る。
濃厚なキスの所為で、息継ぎが上手くいかないのか・・・苦しげに寄せられた眉のまま・・・。
それでも、抵抗する気配は無い。
縋りつくように背中に廻された腕が、弱々しく服を摑むだけだ。
「・・・っ・・・ん・・・」
喉を覆っていたレースを外すと、陽に焼けていない白い肌が顕になる。
そこに付いていた赤い所有印。
それが、誰がつけた物なのか理解して、一瞬躊躇するが・・・八尋の欲望は収まらなかった。
それ程までに、魅了されてしまっていたのだ。
八尋が今まで抱いてきたどんな女よりも、魅惑的な存在。
　

　
雄の本能を剥き出しにする―――。

　
　
―――カツッ！！
鋭い音が部屋の中に響く。
八尋の頭上すれすれを掠めた物が、ライトの光りを弾いて壁に突き刺さった。
「・・・誰だっ！！―――チッ。」
物凄い殺気に、思わず身体を起こした八尋は、ドアの所でメデゥーサの様に髪を逆立てている千冬を見て、眉を潜めた。
思わず、舌打ちまで出てしまう。
「・・・ヒロォ・・・オレに喧嘩売ってンの？」
低く地獄の底から這い出してくるような声が、冷ややかな目線と共に降ってくる。
「―――あぁ？」
ベットの上、乱れた姿で言い訳もないが・・・八尋は開き直った。
「気にすんな。そこで、見てろ。」
言って、続きをしようとする。
まだ、白い首筋に痕を付けただけで・・・欲望が治まる筈も無い。
「―――オンナァ・・・一人にしたテメーが悪い。」
言い切って、行為を再開しようとする。
そんな八尋に、千冬は眉を吊り上げた。
そうして、ズカズカとベットに近付いて、鎖を引っ張った。
「―――ッ！！」
ジャラリと音がして、腕を引っ張られた人形が起き上がる。
「セックスすんなら、テメーのオンナでやれよ。オレの大事な拓ちゃんに触るな。」
きっぱりと言い切った千冬を、殴ろうとした八尋はその言葉を聞いて、固まった。
「―――あぁ？」
信じられない事を聞いた気がして、思わず聞き返してしまう。
だが、千冬は取り戻した人形をうっとりとした表情で抱き締めているだけだ。
まるで壊れ物を扱うような丁寧な態度でだ。
「・・・ったく、人がちょっと買い物に行ってる間に、鍵を開けて入ってくる奴に、言い訳なんか言えねーよ。」
乱れた髪と衣服を整えながら、千冬は人形だけを見つめて微笑を浮かべた。
その表情に、ゾクリとしながらも、八尋はもう一度マジマジと千冬の腕の中にいる人形を凝視した。
そうして、その事実を確かめる為に、長い黒髪を思いっきり毟り取った。
「ヒロッ！！」
咎めるような千冬の声と同時に、それは簡単に剥がれて摑んだ八尋の手にぶら下がった。
―――瞬間、湧き上がった感情を、なんと表現すればよいのか。
八尋は言葉を失った。
　

　
確かに、黒髪の少女は―――横浜の少年だった。
爆音小僧の頭の側にいつもいる、千冬のお気に入りのチビ。
八尋の胸の傷を知っている『相手』。

　
　
「――――ッ！！―――」
叫びたい衝動が、八尋の全身を支配した。
自分は―――誰を抱こうとしていたのか。
それでも、欲望が治まらないのは何故なのか―――
言い様の無い葛藤が、身体の中の血を沸騰させる。
それは、怒りなのか。
―――それとも・・・。
　

　
バッとベットから飛び降りて、八尋は仁王立ちになる。
千冬の腕の中の拓の視線が、八尋を見つめていた。
その眼差しに、惹きこまれそうな感情を無理やり振り切って、背を向ける。
ジャラ・・・。
鎖の音だけで、手を差し伸べてられているのが理解る。
「・・・拓ちゃんは・・・オレだけのモノだよ・・・」
だが、狂気に捕らわれた千冬の言葉が、想いを断ち切った。

　
　
「―――オレが・・・愛してあげるから・・・永遠に・・・」
背後でドアが閉まる瞬間・・・八尋の耳に届いた言葉。
それが酷く耳に焼きついた―――。

　
　
―――その後、人形となった拓がどうなったのかは・・・誰も知らない。

　
　

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（書き逃げ！！・・・いやまぁ・・・この後、千冬相手にあーんな事やこーんな事を考えたりしたんですが―――書いてて辛くなっちゃったんで（T＾T）やっぱり、ハッピーエンドじゃないと最後まで書けないですね・・・はぁ・・・（溜息）あ、屑様のリクエストＳＳでは、ちゃんと甘々の八尋×拓にしますからね〜！！）