(このＳＳはキリリク31777hitの清琉様に捧げます。リクエストの『居酒屋で酔っ払った拓ちゃんを、お姫様だっこでお持ち帰りする緋咲』ですw（←リクが細かい（＾＾；））いつも大変お世話になってる清琉様のリクエストだったので、これでもかっ！って言う位に砂糖を吐きながら頑張りました！最初は、爆音の連中と飲んでる所にザキが来るっていうのも考えてみたんですが・・・どうしても無理でしたorz（来ないよ・・・ゼッタイｗ）それ以外の男キャラは、お持ち帰り自体が出来なさそう（←死闘が始まりそう（ToT））だったので、敢えて最強女子キャラでｗｗｗ―――同時にUPしたイメージイラストと一緒に、喜んで貰えたら嬉しいです♪あ、この話はSEXYシリーズの二人ですからねー（＾ー＾）ｙ〜）

　KISS

　
春先のまだ冷たい風が、夜の街中を通り過ぎていく。
暖かい喫茶店の店内から、外に出た途端、吹き抜けた風に思わず身を竦ませる。
通り過ぎたバイクに一瞬だけ意識を捕らわれてしまったのは、聞き覚えのある排気音だったからかもしれない。
それでも、乗っていた人物が、想像した者と違っていたので、零れ落ちるのは溜め息。
チラリと腕時計で時間を確認すると、約束の時間まであと３０分も無くて・・・。
「―――じゃあ、僕・・・こっちだから・・・」
さりげなく別れの言葉を告げて・・・こっそりと帰ろうとした襟首を後ろから掴まれる。
「えぇーー？！まだ良いじゃん！」
「そうよぅ、こっからが楽しい時間の始まりなのに。」
「そうそう、逃がさないわよぉ、拓ちゃん。」
女狐三匹。
揃いも揃って美女だから、周りから見れば羨ましがられる光景かもしれないけれど・・・今の拓にとっては悲劇以外のなんでもなくて・・・。
「・・・い・・・いや・・・その・・・もう十分お話しましたよ・・・ね？」
困ったように半泣きで懇願しても、離して貰える筈もなく。
「えー、知りたいのは、近況報告じゃなくて。」
「うんうん。拓ちゃんの恋バナだし。」
「うりゃ、きっちりお姉さんに教えなさい！」
「―――え・・・いや・・・恋話なんて・・・な・・・な・・・ない・・・し・・・」
襟首を掴まれたまま、プシューと真っ赤になったのが何よりの証拠だと拓は気付いてなくて・・・彼女等は綺麗に彩られた唇を持ち上げる。
最初に、その事に気付いたのは、久須美萌子だった。
可愛い後輩の拓にちょっかいを出そうとして、襟元にうっすらと残る痣を見つけたのだ。
指摘した途端に、真っ赤になって虫に刺されたなどど、ありきたりな嘘を付いたので、ピンときて・・・。
思いつくままに知り合いの女子連中に聞いてみても、拓と寝たという話は返ってこなくて。
ならば、相手は拓の周りにいる男連中の内の誰かなのだろう。
身近にある『ボーイズ・ラブ』―――かも？
こんな美味しい話を逃す手はないと、同じ嗜好の鰐淵清美に持ちかけて。
たまたま、その時に傍にいた那森倫子も引きずり込んだ。
かくして―――街中で捉まってしまった拓は、卒業間近で暇を持て余していた萌子や・・・面白い事大好きな年上のお姉さん達に囲まれてしまったのだった。

「ふむ・・・。これは、酒が要るわね。」
「拓ちゃん、結構強情だしねぇ。」
「―――早くしないと、邪魔しに来る奴等が一杯いそう。」
「まぁ、あんま五月蝿かったら【夜叉神】動かすよ。」
「須王呼んだら、そのまま拓ちゃん掻っ攫いそうだしなぁ・・・。」
「来栖もそうでしょ？」
「あはぁ・・・大珠を呼んで拓ちゃん護って貰わなきゃ。」
ズルズルと引き摺られながら、前を行く三人の話に、拓の頭の中はパニックを起こしていた。
“・・・ひいいいぃぃっ！！―――な・・な・・何の話なんですかぁ？！横浜で全面戦争でも起こす気ですかぁ？！・・・帰らせてくださいーーーっっ！”
余りの恐怖に、声も出せなくなっている拓は、そのまま引きずられて居酒屋に連れ込まれた。
これがクラブやバーならば、目立たないかもしれないが・・・ただでさえ奇妙な組み合わせなのだから、美女三人に連れられた拓は非常に目立っていた。
ただでさえ小柄な身体の所為で、年よりも下に見られる拓なのだ。
幾らなんでも居酒屋に入って咎められない筈も無いし、更に言うならば、清美は保険医とはいえ、学校の関係者なのだが・・・。
「あー、あたしビール！生中で。」
「こっちは、いつもの日本酒。宜しく。」
「―――チューハイ。」
慣れた様子で次々と注文する三人に、拓は唖然とするしかない。
「「「拓ちゃんも、飲むよね！」」」
三人同時にハモられて、完全に逃げられない事が、理解ってしまって・・・拓は思わず天上を見上げてしまった。
約束の時間まで、あと２０分。
今更断るのも非常に気まずいが、仕方ない。
相手が相手なだけに、許して貰うしかないのだ。
「・・・はぁ。もう、付き合いますから、僕はジュースにして下さいね。」
そう告げて、立ち上がる。
「拓ちゃん？」
隣に座っていた萌子の視線が、逃げるなと言っている気がして、拓は苦笑した。
「あの・・・これから友達と会う約束してたんですけど・・・しょうがないから断って・・・って・・・な・・・何ですか？」
拓が説明しようと思った途端に、三人の目がチャシャ猫のように細められる。
「―――友達ぃ？」
「ふふふ・・・ここに呼んじゃえば良いじゃん。」
「そうそう。紹介してよぉ。」
クスクスと微笑う三人に、拓は思わずたじろぐ。
一瞬この三人と、拓が約束した相手とが対面してる構図を想像してしまった拓は、ザッと蒼褪めた。
自分だけならまだしも、女性には手を出せない彼が、どれだけ大変な目に合わされるかが、容易に想像出来てしまったからだ。
「・・だ・・・だ・・・ダメですからっっ！！」
真っ青なまま狼狽して、拓は携帯を掴んでトイレに駆け込んだ。

注文した酒やお通しが運ばれてくる。
だが、トイレに駆け込んだ拓が戻ってくる様子は未だにない。
「あれー？逃げられちゃたぁ？」
「でも、鞄。」
清美の言葉に、倫子が椅子に置かれていた拓の鞄を指差す。
「・・・ちょっと、見てこよっ！」
萌子が席を立ち上がる。
相手が気になったのは本当だが、あんまり拓を困らせて嫌われたくもないのだ。
可愛いお気に入りに、ちょっかいかけている相手が気になって仕方がないから、知りたかっただけで。
「・・・拓ちゃん・・・まだぁ？」
トイレの前の壁際で立っていた拓の後ろ姿に声を掛けると、途端にビクッとその背中が揺れた。
慌てて腕を持ち上げて顔をゴシゴシ擦っている様子に、萌子の眉が中央に寄った。
「あ・・・ごめんなさい。今、行きますから。」
「・・・何かあった？」
振り返った拓の顔はいつもの困ったような笑みだったが、その目尻がちょっとだけ赤くなっている事に気付いて、声を落とす。
「いえ・・・。何にも・・・。」
微笑っていう拓の声は、告げられた台詞を裏切るように少し掠れていて。
「相手、怒らせちゃった？」
「あ、違います。僕の説明が上手くなくて・・・それで・・・もう良いって、携帯切られちゃって・・・。」
しょぼんとする拓に、萌子の中で罪悪感が湧き上がる。
「ごめんね。」
「ううん・・・萌子さんの所為じゃないです。あの・・・席に戻りましょうか。」
「・・・もうっ！拓ちゃんの良さが理解らない相手なんて、友達止めちゃいなよ。」
小さく首を横に振って、呟いた拓に、萌子はつい感情が昂ぶってしまう。
「拓ちゃん、優し過ぎるから・・・アタシ、凄く心配してるんだよ？！」
つい本音が出てしまった萌子に、拓は一瞬驚いた表情をしてから―――破顔した。
「―――凄く、嬉しいです。」
零れた言葉と共に、その柔らかな表情に、萌子はキュン死にしそうになった。
「と・・と・・・兎に角、今夜はトコトン付き合って貰うんだからっ！」
顔を赤くして言い募る萌子に、拓は困ったように微笑った。

席に戻ると、既に清美と倫子は先に始めていた。
「おかえりー♪」
「お先に。」
豪快に中ジョッキを掲げる清美の横で、倫子はグラスを傾けている。
「さ、拓ちゃんも。」
「えっと・・・これ、ジュースですよね？―――っていうか・・・萌子さんも倫子さんも未成年なんじゃ・・・」
日本酒のぐい飲みを持ち上げた萌子に、自分の席に用意されていたオレンジジュースのコップを持ち上げた拓ががっくりと肩を落として問い掛ける。
「えー？夏生んトコで騒ぐ時は、酒入ってんじゃないの？」
「今時、高校生なら大丈夫だって？」
「―――ウチは、じいさん達と一緒にチュー坊の時から、飲んでるから平気よ。」
「「「じゃ、乾杯！」」」
末恐ろしい台詞を吐く三人に、拓はタジタジになってしまうが、声を揃えて言われてしまったので、拓も取り敢えず自分のコップに口を付けた。
甘いオレンジの香りが、口の中に広がって・・・丁度喉が渇いていた拓は、一気にグラスの半分まで飲み干した。
「お、良い飲みっぷり♪」
「結構、強いのに。」
清美と倫子の言葉に、妙な違和感を感じて拓はキョトンと首を傾げる。
「強いって・・・？」
「まぁまぁ、拓ちゃん！それより、聴きたい事があるんだけど・・・」
会話を遮るように、萌子が話題を繰り出す。
疑問は消えなかったが、獲物を捕まえた肉食獣のような萌子の笑みに、拓は思わず身構える。
「な・・な・・何ですか？」
恐る恐る聞き返す。
「もう、隠さないで良いから！・・・ぶっちゃけ、誰が相手なの？」
にーっこりと嗤う萌子の目線に捕らわれて、拓はピキーンと固まった。
どうやら、本気で萌子は拓の秘密を暴こうとしているらしい。
「あ・・あ・・・相手って？・・・な・・何の・・・事ですか？」
そーっと刺激しないように目線を明後日の方向へ向けて、惚け様とするが、強者揃いの女狐達には効かなかった。
清美はニヤニヤ笑っているし、倫子はクスクス笑い・・・萌子に至っては、口端を持ち上げた女王様のようだ。
完全にバレている状態に、拓は更に喉がカラカラになった気がした。
思わず、残っていたコップの中身を飲み干す。
喉を通り過ぎる瞬間のオレンジ以外の味に、漸く拓はそれが何なのかを認識した。
「―――これ？！・・・お酒なんじゃっ？！」
気付くと同時に、全身に熱が駆け巡って・・・意識がぼうっとしてしまう。
「・・・僕・・・お酒・・・ダメ・・・って・・・・・・」
「―――拓ちゃんっ？！」
グラッと傾いた身体を、萌子が支えるが、そのまま拓はカクンと意識を失ってしまった。
「うわー・・・」
「お酒に弱いのって本当だったんだぁ。」
額に手を当てて、困った顔をする清美と、驚いた顔する倫子が、顔を見合わせる。
「・・・どうする？誰か呼ぶ？」
「春樹に車でこさせる？」
そうして、同じように萌子に尋ねた。
一瞬、考え込んでから・・・拓を抱えたまま、萌子は卓上に視線を向けた。
「ううん。さっき、拓ちゃん泣かせたヤツに、責任とって貰う。」
きっぱりとそう言うと、萌子は携帯電話を持ち上げた。

３０分もしない内に、現れた人物は、萌子たちに取っては、余りにも想定外の者だった。
「そうか・・・。だから、言わなかったんじゃなくて・・・言えなかったのかぁ。」
困ったように眉を寄せて、萌子は拓の柔らかな髪を掬った。
店の中に入ってきた男は、その姿に気付くと他に目もくれずに真っ直ぐに萌子たちの場所までやってきた。
「・・・来たぞ。そいつを寄越せ。」
「あぁ？！寄越せじゃなくて、下さいってお願いでしょ？」
ぶっきらぼうに告げる相手に、萌子は腕の中に抱えていた拓を渡さない。
「・・・くっ！！」
握り拳を造りながらも、必死に感情を抑えている様子に、ちょっとだけ心も晴れる。
「可哀想、拓ちゃん。ちゃんと電話したのに、怒らせちゃったって泣いて・・・。でも、優しいから、絶対私たちを責めたりしないのよ。」
真っ赤な唇を持ち上げて、萌子は寂し気な笑みを浮かべる。
「―――可愛くて大切なアタシの拓ちゃんを、奪っていくんなら、泣かせないでよっ！！」
キッと眉を吊り上げて、相手を射殺しそうな目線で萌子ははっきりと告げる。
「この子に何かあったら、【夜叉神】総動員して、アンタを標的にしてやるから。」
萌子の本気の睨みを真っ向から受け止めた相手は、次の瞬間口端を持ち上げて嗤った。
「―――やってみろ。」
低い声は、物凄い覇気が込められていて、傍にいた清美の方が先に理解した。
「萌子ォ・・・アンタ、それやったら、拓ちゃんに泣かれるわよ。理解ってんでしょ？」
「そうそう、だから拓ちゃんも言わなかったんだって。まぁ、相手がこいつって言うのも、びっくりだけどねぇ・・・」
倫子も困ったように、微笑う。
寄りによって、大珠と因縁が深い相手だとは思いもしなかった。
「だって、清美さぁん・・・」
「―――良いじゃない。ちゃんと相手も理解ったんだし。アンタが、一番の気掛かりだったのはそこなんでしょ？」
グスッとしながらも、清美に諭されて萌子は漸く拓を手放した。
「・・・来なかったら、絶対拓ちゃんを渡さないって思ってたけど、ちゃんと来たから返す。―――拓ちゃんが約束護れなかったの、ホントにアタシたちの所為なんだ。・・・ごめん。」
「・・・んで、こいつは何で意識を失ってんだ？」
渡された拓を見て、相手は呆れたように口を開いた。
「お酒。」
「オレンジカクテル飲ませたら、一杯で撃沈。」
清美と倫子が、綺麗に笑う。
「もう３０分以上経つけど、意識戻んないねぇ。」
「大丈夫よ。あんなもんじゃ、急性アルコール中毒にはならないわよ。」
「拓ちゃーん？王子様が迎えに来たよぉ。」
「―――あははっ、倫子？あんた、それマジ？」
「えぇ？だって、この前拓ちゃんが意識失った時、大珠はちゃんと・・・こう、お姫様抱っこで運んでくれたよ？」
「へぇ？それ、初耳。そう言えば、真里も保健室にそーゆー風に抱えて来たの見た事あるわ、学校で。」
すっかり、酒の入った女二人の話題は、意識がある時の拓にはとても聞かせられないような事ばかりで。
ついでに言うならば、目の前の相手にも聞かせない方が良い内容なのでは・・・というものだった。
「うん。だから、拓ちゃん本当にみんなの大事な【存在（おひめさま）】だから、少しでも悲しませたら、大変だよ？」
拓を抱えたまま腕を震わせている相手に、萌子はにーっこりと笑ってそう断言した。
苦虫を噛み潰したような相手の表情に、気付かないフリをして、手を振る。
黙ったまま、相手は拓を抱えて上げた。
清美と倫子の台詞に触発されたのかは理解らなかったが、その姿は確かにお姫様抱っこで・・・。
しかし、何の照れもなく、堂々と店内を突っ切って歩いて行く後ろ姿に、萌子はちょっとだけ見直した。
その真っ直ぐに伸びた背中になら、拓を預けても大丈夫かな・・・と思ってしまったから。
拓を抱え上げた動作が、思った以上に壊れ物を扱うように慎重なものだった事にも気付いてしまった。
言葉や覆う空気はナイフの様に冷たいが、拓の存在を手に入れた瞬間、その空気が和らいだ事も・・・。
だから、認めるのしかないのかもしれない。
拓が幸せなら・・・泣かないで居られるのなら。
萌子の心の中にぽっかりと穴が開いてしまったように、とても寂しかったけど。

拓を抱え上げたまま、店を出た緋咲は、バイクを止めてある店の裏手の駐車場へと向かった。
既に時刻は１０時を回っているので、街灯も少なく辺りは薄暗い。
歩きながら、緋咲は大きく息を吐き出した。
白い吐息が、街灯の明かりに照らされて、空気に溶け込んでいく。

要領の得ない言い訳で、約束を反故にされたと思ったら、１５分もしない内にまた携帯が掛かってきて。
地元に帰ろうとした所で、Uターンする羽目になった。
電話に出たら、拓以外の声だったというのに、まず驚いて。
『迎えに来なかったら、二度と会わせない』
―――と、聞いた事もない女の声で脅されて・・・。
何があったのかと慌てて駆けつけてみれば、当の拓は意識がないままに美女三人に囲まれていたのだ。
女相手に手荒な真似も出来ずにいたら、色々と釘を刺されて、しかも嫌な事ばかり耳に聞かされた。
あそこでブチ切れなかったのは、相手が本当に拓を大事に思っている事を理解ったから。
向けられた目線の強さは、並みの女じゃ決して持たない程、強いものだった。
あの場所に居た三人とも、相当の修羅場を潜ってきた連中なのだと気付いた。
そんな相手にも、拓は大事にされているのだ。
「・・・ほんと、手前ェは・・・油断も隙もねぇな。」
緋咲が見かけた事のある拓は、いつも違う女が傍にいる。
男といい、女といい―――拓の交友関係は、緋咲が想像もつかない程広くて、何度も驚かされる。
この腕の中に存在している事自体、本当は幻なのではないかと疑ってしまう程。

「・・・ん・・・」
身体が揺れている感覚の所為か、緋咲の腕の中でぼんやりと拓が覚醒した。
「―――あれ？・・・緋咲くん・・・？」
「あぁ。」
「どうして・・・？」
まだ意識がはっきりとしないのか、赤い顔のまま拓はふんわりと笑う。
珍しいとも言える笑顔に、緋咲の足が止まる。
「―――拓？」
声を掛けた途端、腕が動いて、緋咲の前髪に触れた。
「ふふ・・・綺麗。」
街灯に透かしてうっとりと見てるその表情に、緋咲の意識は捕らわれた。
「・・・この酔っ払いが。」
誘われるように口付けてしまった緋咲が、ほんの少し頬を赤くして目線を逸らす。
そんな緋咲に向かって拓は綺麗な笑みを浮かべた。
「―――緋咲くん・・・大好き・・・。」
真っ赤な顔で照れたように小さく告げる拓に、緋咲は思いっきり脱力した。
秘かに口端を持ち上げて、目を細める。
「どうせなら・・・【素面（シラフ）】の時に言ってくれ。」
顔を近付けて、拓にだけ聞こえるように甘く囁くと、緋咲は請うようにその唇を摘み取った。
そうして、深く・・・重なり合う口唇。
素直な拓も、緋咲の首に両手を回してそれを受け入れた。

「あーあ、今夜はやけ酒よー！！」
「ふふ・・・ほんと、意外過ぎて、驚いたわ。」
お銚子を傾けて、ぐいぐい飲み干していく萌子に、清美は苦笑する。
「でも、拓ちゃん・・・大丈夫かなぁ？脅されて、なんて事ない？」
倫子の言葉に、萌子は口を尖らせた。
「そん時は、アタシがタイマンでもなんでもするんだからっ！！―――かかってこーいっっ！！」
グッと拳を持ち上げる萌子に、清美はやれやれと溜め息を零す。
そうして、携帯電話を持ち上げた。
「―――春樹？あんたのお姫様が、暴れそうよ。早く迎えに来てちょうだい。場所？何時もの居酒屋よ。そう、公園通りの。」
横浜一と言われている【夜叉神】の総長を、幾ら姉だからといってアッシー君に使えるのは、清美だけだろう。
「あーあ、アタシも大珠と会いたくなっちゃったぁ・・・。」
倫子が、携帯メールを打ち始めた。
「処でさぁ・・・目が覚めたら、拓ちゃん、どんな顔するんだろうね。」
「ふふふ―――真っ赤な顔で、あの大きな瞳をもっと見開くんじゃない？」
「そんな可愛い拓ちゃん見て、我慢できるヤツなんか絶対いないよねー♪」
それぞれの迎えが来るまでの間、女子会の話の話題はやっぱり拓の事だった。

「くしゅんっ！」
「―――大丈夫か？」
ベッドの中で、素肌で抱き合ったまま・・・クシャミをした拓に、緋咲が声を掛ける。
「うん。・・・どっかで、噂されてるのかも・・・。」
まだ赤い顔をしたまま、苦笑しながら言う拓を、緋咲は更に腕の中に引き込んだ。
「・・・緋咲く・・・んっ・・・」
問うよりも早く、口付けが降りてくる。
唇から頬・・・顎から首筋へと。
「―――お前は、俺のものだ。」
肩口に顔を埋めた緋咲が、耳元で告げた言葉に、拓の心臓が跳ね上がる。
恥ずかしい事を、本当に何の臆面もなく言葉に出来るのは羨ましいと拓は思う。
しかも、普段はとてもそんな態度を取らないだけに、口にした瞬間に、拓の全てを支配してしまう。
ドキドキと鼓動が鳴り響いて、どうにかなってしまいそうな位恥ずかしいけど―――とても嬉しい。
真っ赤になって拓は声にならない『想い』を、頷く事で認めた。
互いに分け合う温もり―――と重なり合う『絆』。
おおっぴらに人に言えるような関係ではないけれど・・・それでも、この気持ちは嘘偽りのない【真実（おもい）】だから。
緋咲の腕の中で、全てを預けて、拓は啼いた。

不安が全くない訳ではないけれど・・・互いに信じられるから、【情熱（ぬくもり）】を交わしていて。
―――傍にいられる関係は、とても幸せなのだ・・・と。
何時か、ちゃんと皆に言える日が来れば良い―――そう、拓は思った。