ピンポーン。
呼び鈴を鳴らしてから、ドアの鍵を開ける。
帰って来た事を知らせれば、ドアを開けた先にチョコンとした愛らしい妻が、いつも満面の笑みで出迎えてくれるからだ。
「―――おかえりなさい。」
「ただい・・・・っ！？」
変わらない柔らかい声に、靴を脱いで上がろうとした秀人は、思わず鞄を取り落とした。
そのまま、全身が硬直する。
目の前にパタパタと駆け寄ってきた拓の姿を凝視して―――。
物凄いデジャヴを感じて、貧血を起こしかけた。
「秀人くん・・・？」
そんな秀人の様子を見て、拓は不思議そうな顔をした。
「おま・・・その・・・カッコ・・・」
気を抜けば、情けない醜態を晒し出しそうな中、必死に声を出す。
「え？これ？」
そのまま、拓はクルリと一回転した。
その白い背中に一瞬目を奪われながらも、今回はちゃんとズボンを履いていた事に漸く気付いて、秀人は詰めていた息を大きく吐き出した。
壁に手を着いて、気持ちを落ち着ける。
―――あれは裸エプロンじゃない･･･裸じゃない・・・拓は理解ってない・・・などと、口中でブツブツ呟きながら。
「あ・・・あのね、最近物凄く暑いから・・・台所で料理するなら、この格好の方が良いかなぁって・・・ちゃんと下は穿いてるよ・・・」
赤くなりながらモジモジと言う拓は、自分の格好がどれだけ危ういのかなど微塵も理解していない。
確かに、下は穿いていたが・・・前から見る限りそれが全く見えないのだから・・・意味は無い。
真っ白いエプロンだけしか身に付けていない様に見えたとしても、秀人に罪は無い筈だ。
チラッとエプロンを持ち上げれば、その下にズボンは見えた。
尤も、半ズボンと言うよりは短パンに近いそれから覗いた白くて柔らかそうな足の方が、インパクトがありすぎて鼻血が出そうだったが・・・。
「た・・・拓・・・」
思わず、秀人は自分の欲望に負けそうになって・・・いや、負けても良いとさえ思った。
「あっ、レンジ・・・見なきゃっ・・・！！」
チーンと鳴った音を聞きとめた拓は、秀人の差し出そうとした腕から、見事なタイミングで逃れ・・・慌ててパタパタと台所に飛び込んでいく。
空を切った己の腕と、駆けていく白い背中を見遣って・・・秀人はがっくりと肩を落とした。

５分ほど玄関で立ち尽くして、必死に気を紛らわせてから、漸く秀人はノロノロと動き出す。
取り敢えず、先に風呂に入って疲れを取りたい―――そう思いながら秀人はキッチンの横を通り過ぎようとした。
「・・・ぅわっ？！」
ガタンッ！！
「・・・どうした？・・・ッッ！！」
大きな物音と拓の悲鳴に、慌てて秀人が近付く。
だが、目の前の光景にまたしても秀人は言葉を失ってしまった。
「―――い・・・ったぁ・・・」
どうやら、踏み台ごと倒れたらしいのだが・・・。
普段だったら直ぐにでも拓の様子を心配する筈の秀人は、全身の血が沸騰したかのような衝撃に見舞われていた。
ゴクッと、唾を飲み込む。
倒れた拍子に、作っていたらしいマヨネーズソースを被ってしまったらしい拓の姿は余りにも目の毒だった。
「あーあ・・・ベタベタするぅ・・・秀人くん？」
エプロンを摘んで困った顔で途方にくれていた拓は、固まったままだった秀人に漸く気付いて声を掛けた。
それが、引き金になってしまった。
ブチンッ――――と、秀人の欲望を抑え込んでいた理性の鎖がぶち切れた。
無言のまま、秀人は拓に近付くと、そのまま抱え挙げた。
「え？！秀人くん？・・ちょ・・・汚れちゃうよ・・・？」
驚いた拓の問い掛けに答えることもなく、秀人は大股で拓を抱えたまま風呂場に直行した。
「・・・秀人くん？・・・・ん・・・」
意図が分からなくて、更に尋ねようとした拓の唇を、秀人が奪う。
息も出来ないほどのディープキス。
「・・・んん・・・・むぅ・・・ん・・・」
逃れようとする舌を絡めて、口内を蹂躙する。
拓の全身から力が抜け切るまで、秀人は甘い拓の唇を貪った。
十分満足してから、唇を解放してやると、拓はぐったりとした様子のまま肩で息をしている。
「・・・っぁ・・・」
頬を伝って、顎を探り・・・そのまま鎖骨についていたソースをペロリと舐め取ると、拓はビクッと身体を震わせた。
それから、カアァと全身を染め上げる。
「・・・オメー・・・エロ過ぎ・・・」
拓の素肌に唇を寄せながら、秀人はくぐもった声で、そう呟いた。
「―――そん・・・あ・・・んぁ・・・」
更に頬を紅潮させた拓が、抗議しようとするが・・・拓の弱点を知り尽くしている秀人の手管に勝てる筈もなかった。
言葉は唇から零れると、同時に甘ったるい喘ぎになってしまう。
エプロンの脇から差し込んだ指先が、胸の突起を摘み上げると、更に声が高くなる。
それは風呂場のタイルに反響して、耳に心地良く響く。
秀人の欲望をどんどん煽るだけの―――『嬌声』。
硬くなった胸の果実を布ごと唇に含み、舌で転がせば、ビクビクと面白いように反応が返ってきた。
「・・・や・・・そこ・・・やぁ・・・」
フルフルと首を振って哀願する拓は、本当に驚くほど感度が良くて・・・いつもだったら余りいじめるのも可愛そうなのだが―――流石に今日は、秀人自身が止まらなかった。
散々胸を弄ってから離すと、濡れた生地が透けて・・・赤くなった果実が見える。
扇情的なその姿は、ますます秀人の欲望の炎に油を注ぐようなものだ。
抵抗も出来ずに啜り泣く拓の表情は、身に余る快感の波に翻弄されていた。
「―――拓・・・。」
零れ落ちた涙を唇で拭い、そのまま口付ける。
キスをしたまま秀人は片手で拓の腰を支えると、反対の手で下着ごとズボンを脱がせた。
「・・・んんんっ・・・！！」
胸への愛撫で半ば屹っていた拓自身に指を絡めると、そのまま扱き始めた。
直接的な刺激に、秀人の腕の中で拓の身体が反り返る。
「・・・っ・・・ふぅ・・・んぅ・・・っ・・！・あ・・・あぁ・・・・んん・・・」
無意識に首を横に振る拓の動きにキスが解けて・・・唇が離れた途端にくぐもった吐息は、甘い喘ぎに変わった。
「・・・や・・・だめ・・・ひで・・と・・・くん・・・っ・・・もう・・・ぼく・・・」
的確な愛撫で追い詰める秀人に、縋り付きながら、拓は懇願する。
そのゾクゾクするような姿態を抱き締めながら、秀人は口端を持ち上げた。
「・・・・ひっ・・・っっ・・・！」
拓の身体に残っていたソースを指先で掬うと、そのまま秀人は奥まった後孔へとそれを塗りこんだ。
ヌルリとした感触の所為で、たいした抵抗もなく秀人の指が飲み込まれる。
マヨネーズに含まれる油成分の所為だとは思うが・・・。
いつもなら、狭い肉壁に身体を硬直させる拓も、今日は難なく３本の指を受け入れた。
それでも熱くて狭い中を、秀人は目的の場所へと指を辿り着かせる。
「・・・あっ・・・ああ・・・ダメッ！！・・・そこ・・・だめぇ・・・でちゃ・・・よぉ―――っっ！！」
悲鳴のような嬌声が上がる。
拓の中・・・一番イイ場所を擦ってやると・・・拓はあっという間に昇りつめた。
秀人の首にしがみ付いて、全身をビクビクと震わせながら・・・秀人の手中に爆ぜた。

全身の力を失ってぐったりとしている拓を、タイルに横たわせると・・・エプロン一枚の姿は本当に色っぽかった。
急くように自分の服を脱ぐと、また拓を抱きしめる。
全裸よりも扇情的な姿に、ともすれば暴走してしまいそうな己を何とか抑えつつも、秀人は自身の欲望を果たす為に、動き始めた。
「・・・ん・・・？」
半分意識を手放しかけていた拓が、キスで覚醒する。
「今度は、俺の番・・・な。」
耳元で、囁くように宣言すると、秀人は愛撫を開始する。
「・・・あ・・・、んっ・・・」
一度達した後の拓の身体は、更に過敏になっている事を秀人は知っている。
快感に染まった身体は、心以上に感覚に素直になることも。
直ぐに反応を返す拓に、満足したように微笑うと、秀人はゆっくりと自身を拓の中に挿れていく。
散々指で慣らされた箇所は、先程塗りつけた滑りも手伝って、いつもよりもすんなりと秀人を受け入れた。
「・・・あ・・・秀人・・・く・・・んぅ・・・」
狭くて熱い中に包まれて、散々我慢してきた秀人の欲望は一気に解放される。
「―――たく・・・。」
刀身を包み込む鞘のように、ぴったりと嵌る肉壁が、満たされる充実感を齎す。
「・・・あっ・・・っっ・・・！！」
足を抱えて更に密着すると、衝撃に拓の身体がずり上がろうとする。
その身体を抑え込んで、秀人は挿入を繰り返す。
ギリギリまで引き抜いて、一気に征服する。
何度も何度も繰り返しながら・・・動きは激しいものへと。
高みに向かって動きながら、秀人は拓の中を蹂躙する。
先端が、拓の中の一番感じる部分に当たるように、角度を変えては犯していく。
拓の口からは、もう言葉にならない『音』だけが溢れだしていた。
全身を綺麗に染め上げて、身悶える拓の姿態を視界に映しながら・・・秀人も欲望に全身を預けていく。
縋り付くように捕まれた腕に、爪が立てられて・・・拓の苦しさが偲ばれた。
それでも、感情が収まらない。

奥に・・・更に・・・深く。
「ああぁっっ！！」
「・・・っっ！！」
大きく反り返った腰をきつく抱き寄せて・・・秀人は拓の最奥へと想いを吐き出した。

―――翌日。
グチャグチャになったエプロンの代わりに、またしても新しいエプロンを購入する秀人の姿が目撃されていた。