恋をした。
それは到底、世間一般に認められるものではなかったけれど・・・。
それでも、君に対する想いは紛れもなく、恋だった。
抑えきれない恋情を吐き出して、玉砕覚悟で激情のままに告白して。
今思えば、若かったとしか言えないような行動は、思い出す度に赤面してしまいそうな記憶だけれど・・・。
それでも、その結果が今に繋がっているのだから、やはり何事も行動を起こさなければ始まらないのだ。
ただ想いを秘めて悶々としていても仕方ないから。
―――出会ってから３年の歳月は、二人の間に確かな絆を作るには充分過ぎる時間だった。
「ただいまーっ！」
ピンポーンと言うチャイムの後で、出迎えるよりも先に、にこやかな笑顔のまま鍵を使って入ってきた真里の姿に、拓も笑顔を浮かべる。
「おかえり。マー坊くん。」
帰ってきた早々、ギューッと自分を抱き締める真里に懐かれたまま、拓は労うように言葉を発した。
「うん！俺、今日も頑張って働いてきたよ。褒めて褒めて。」
「はい、はい。ご苦労様。」
もっとという風に強請る真里に、困ったように笑いながら、拓はチュッと頬に軽くキスする。
途端に、喜色満面な表情になった真里が、蕩けそうな笑みを浮かべて更にギュッと拓を抱き締めた。
「ちょっ・・・マー坊くん？！もう、勘弁してぇ・・・」
そのまま髪先や顔中にキスの雨を降らす真里に、クスクス笑いながら、拓は真里の腕の中で身を捩る。
真里のキスを止めようと差し出された指先にまでも、真里は唇をくっ付けた。
「ダーメ。もうちょっと、拓ちゃんを堪能する。」
口端を持ち上げて、真里は笑いながらキスをする。
じゃれ合うような攻防は、後１０分ぐらい続きそうだった。
最初に好きになったのは、真里の方だった。
ずっと誰よりも憧れていた者を、手の届かない場所へと奪われてしまった時から、また誰かをこんなにも好きになれるなんて想像もしていなかった。
拓との初めての出会いは、互いの素性も理解らない路上で。
出会った瞬間に、全身を電流が駆け抜けたかのように衝撃が走った事を真里は覚えている。
今思えば、あれは正しく一目惚れだったのかもしれない。
少しでも近付きたくて、友達になろうと言って、一緒に遊ぼうと遊園地に誘った。
その後、停学明けの学校で再会して・・・運命だと思った。
それでも、まだ信じられなくて。
躊躇してたら、決定的な出来事が起きてしまい・・・拓の心が別の者に惹かれている状態に陥ってしまった。
そうして、胸の中に湧き上がった嫌な感情に、漸く自分に素直になれた。
拓が強く心を引かれた相手もまた、真里が尊敬していた彼の者と同じように事故で逝ってしまったから。
泣き崩れる拓を、見守る様に傍で支えて・・・忘れなくても構わないから傍に居たいと告白したのは一月後の春先で。
一方的だとばかり思っていた真里の想いに、拓は暫く戸惑っていたけれど・・・それでも、真里を認めて想いを受け止めてくれた。
それは、一昨年前の初夏の出来事。
真っ赤になったまま自分の腕の中で大人しく抱かれていた拓に、真里は初めてキスした。
そうして、周りの連中にバカップルと呼ばれる程、楽しかった残りの高校生活。
卒業と同時に終わってしまうのは悲しいから、同居する事を提案して・・・真里はそのまま社会人になって、拓は専門学生で。
―――今に至る。
「えっと・・・マー坊、くん？」
「俺ねぇ、明日はお休みなんだ。」
「土曜だもんね。でも・・・週末は買い物に行こうって。」
「―――買い物？そう言えば、行きたいって言ってたよね。」
「・・・言葉とやってる事が合ってない・・・んだけど・・・」
ベッドの上、二人の会話は何処まで行っても噛み合わなくて平行線を辿る。
困ったように真里を見る拓に軽くキスしながら、真里は嬉々として拓のパジャマのボタンを外していく。
真里にとってみれば、花の金曜日なのだ。
日曜の夜から今日まで、お預け状態でもあったのだから、真里が我慢なんかできる筈も無い。
それでも、拓の身体に掛かる負担を考えて、平日はキスだけで我慢してくれる真里に強く言えない拓は、諦めたように息を吐いて全身の力を抜いた。
「・・・拓ちゃん？」
「もう・・・。荷物持ちは、全部マー坊くんだよ・・・？」
真里の問い掛けに、拓は真っ赤になったまま、そっぽを向いてそう呟いた。
羞恥に拓が酷く恥じらっているのだと理解している真里は、本当に嬉しそうに微笑った。
「うん！荷物持ちでも、何でもするよっ！」
拓からのお許しが出たので、真里は満面の笑みだ。
拓をベッドに抑え込むように上に跨ると、そのまま真里もパジャマの上を脱ぎ捨てた。
途端に現れる均整のとれた真里の上裸身が恥ずかしくて、拓は視線を上げられない。
服を着ている時は細身に見えるのに、適度に付いた筋肉の所為で、弱弱しい感じは全くない。
どちらかと言うと、拓の身体の方が筋肉が付いていなくて貧弱だ。
出会った時は同じぐらいの体格だったのに、高2の春ごろから成長し始めた真里は、卒業する時には仲間内で１・２を争う位大きくなってしまっていた。
時貞を失って悲しんでいた拓を守りたいと思ったら、自然と身体が成長したんだよ・・・とまで真里に告げられて、拓が余りの羞恥に逃げ出したくなったのも事実だった。
だから、抱き合う行為自体も本当は、拓にとっては裸足で逃げたくなるもので。
いつも途中から訳が分からなくなるから、ただ真里にしがみ付いて・・・熱を解放して。
既に拓よりも余程、拓の身体の構造を全部理解っているような真里の指に、翻弄されて高められて追いつめられて―――。
「・・・ふっ・・・」
顎が上がって、抑えきれない吐息が拓の唇から零れ落ちてしまう。
重なっていた唇は、今は離れて・・・真里の唇はそのまま拓の身体の感じる部分を愛撫しながら時折赤い刻印を身体中に散らして、素肌を滑り落ちていく。
「・・・ここ、そんなに、気持ち、良い・・？」
「―――っ・・・ん・・・！！」
指で弄っていた反対の胸の果実をペロリと舐めると、産毛を擽る様に息を吹きかけて真里が問い掛ける。
それだけで、感覚に敏感になっている拓の身体が真里の腕の中でビクリッと麻痺する。
鼻に掛かる甘い喘ぎが、衝撃に一瞬詰まる。
そのまま口に含んで、舌で転がしたり押し潰すとそれはあっという間に固く充血した。
「そこ、ばっかり・・・も、やだぁ・・・」
拓の指先が胸の上にある真里の頭を外そうと、髪に指が添えられる。
「ぅん？・・・もっと、強い刺激の方が良い？」
「ひ・・・あぁっ！！」
ピチャリと舐めていた個所を、真里がキュッと甘噛みすると、その指が縋るように真里の髪に絡まった。
強い刺激に背筋を逸らせた拓の背に腕を回すと、真里は器用に拓のパジャマのズボンを下着ごと脱がせてしまった。
途端に、それまでも散々顔を赤くしていた拓が、恥ずかしそうに顔を枕に埋めてしまう。
そんな拓を満足そうに見やってから、真里の与える快楽に、まだ触れてもいないのに半勃ちしている拓自身にも、刺激を与える為に指を絡めて扱く。
「・・・っぅ・・・んっ！」
枕に顔を押し付けて、必死に耐える拓の姿は、真里にとってみれば頂けない。
「駄目だよ、拓ちゃん・・・。」
「・・・ぁ！」
「しがみ付く相手は、枕じゃなくて・・・俺。」
「だって・・・ふぁぁ・・・やっ！・・・そんな激しく、動かしたら、、、あ、や、、、もうっ！」
枕を取り上げて、にっこり笑った真里が指先の動きを変化させた。
拓の弱い所を的確に付いてくる真里の手管に、拓が堪え切れる筈も無くて。
「―――で・・・出ちゃ・・・うっ！！！」
覆い被さってキスしてくる真里に夢中でしがみ付きながら、拓は追い立てられるように快感の階を駆け上った。
いつもよりも性急に開放を促したので、息が継げなかった拓が荒く肩で呼吸を整える。
触れていた胸の奥の鼓動が、激しく鳴っているのを感じながら、真里は拓が吐き出した熱で濡れた指先を口元に持って行ってペロリと舐めた。
途端に、気付いた拓の頬がかあぁぁと紅潮している。
恥ずかしがる拓の表情は、真里の欲望を強く刺激する一方なのだが、何度抱いてもそれは変わらない。
尤も、そんな表情が見れるのも拓の意識が残っている間だけだから、少しでも楽しみたい真里が口に出して指摘する事も無い。
却って、見せ付けるように目の前で舌を使ってベロリと舐めとった。
覆い被さる格好で抱き締めている真里の目の前に、拓の柔らかそうな耳があったので、そこにチュッと口付ける。
「・・・んっ！・・・や・・・」
途端に、びくぅと腕の中の身体が硬直して、中に入っている真里を締め付けた。
「ふはっ！・・・今、拓ちゃんのナカ、締まったね・・・。そろそろ、動いても良い？」
「あ・・耳・・・だ・・・だめ・・・あぁ・・・」
甘く耳たぶを甘噛みしながら問い掛けると、ビクビクしながら拓が上擦った声を上げた。
同時に、真里を包み込む内壁もビクビクと痙攣して、快感を促してくる。
「・・・拓、ちゃん、ここ弱いもん、ね・・・ハッ・・・すごっ・・・中、気持ち良・・・い・・・！」
「・・・あ、あ、あ、・・・んぅ・・・っ・・・マー坊、くん・・・マー・・・坊、くん・・・」
重なる様に密着しながら、拓の細い腰を掴んで真里が動き出すと、拓の唇から噛み締められなかった甘い喘ぎが上がる。
縋る様に真里の背中に回された拓の指先が、そこに爪を立てた。
「―――っ、っ・・・拓、ちゃん・・・」
感じ過ぎてしまっている拓が、救いを求めてしがみ付いている事に、満たされながら、真里は尚も拓の良い場所を探して快楽を引き出していく。
「・・・んん・・・やっ・・・はっ、、、んっ・・・あ・・・あぁ・・・」
何度も突き入れて、真里が拓の体内をグチャグチャに掻き回すと、真っ赤になった拓の頬を涙が毀れ落ちていく。
最初の頃こそ、痛みの所為だったが、今では堪えきれない生理的な物だと理解しているから、真里の動きは止まらない。
―――止められない。
「拓ちゃん、気持ち良い・・・？ね、・・・俺は、凄く・・・気持ち、良いよ・・・拓ちゃんの中、狭く、・・・て、熱くて・・・ビクビク、してる・・・感じて、る？」
うっとりした恍惚の表情で、拓の細腰に猛りを打ち付けながら、満足したようにペロリと拓の頬を流れる涙を舌で拭った。
途端に、舌に感じる甘くて痺れるような感覚。
拓の唇からは、真里の動きに合わせて甘く掠れる喘ぎが漏れるだけだ。
最初の硬さが嘘のように、馴染んだ拓の内壁は真里を受け入れて蕩けそうに絡み付いていた。
女の身体とは違うから、柔らかく包み込んで、搾り取られるような感覚ではないけれど・・・それでも、受け入れられているのだと理解るだけで、滾る。
先に限界を迎えたのは拓の方だった。
「―――あっ、そこ、、、ダメっ・・・マー坊、くんっ・・・あぁっ―――！！」
挿入角度を変えて、内壁を擦る様に最奥まで突き上げた真里の動きに、頭を振ってイヤイヤをした拓の身体がガクガクと麻痺したように震えて、唇から甘い悲鳴が上がった。
「・・・っ、・・・・んっ・・・くっ！！」
同時に、中で思いっきり締め付けられた真里が一瞬動きを止め、次の瞬間緩んだ内に耐え切れなくて真里もまた自身の欲望を解放してしまった。
「・・・あ、あ、あ、・・・」
呆然とした拓の唇から、小さな響きが零れ落ちる。
何かに耐えるように身体を縮こませて、ギュッと目を瞑った拓に、真里は肩で息をしながら何度も口付ける。
「―――拓ちゃん・・・、拓・・・たく・・・」
「・・・は・・・ぁ・・・」
詰めていた息を吐き出した拓が、ぐったりとシーツに身を預けた。
下半身はまだ繋がったままなので、その姿は酷く扇情的だった。
ぼうっと空中に視線を漂わせていた拓の、涙に潤んだ瞳がゆっくりと閉じられる。
零れ落ちた滴がシーツに染みを作った。
「・・・拓ちゃん？」
呼吸を整えながら、拓の身体のあちこちにキスしていた真里が、気付いて顔を上げたが、既に拓の意識は無かった。
「―――あー、飛ばし過ぎちゃったかぁ・・・」
真里の口から、溜め息と共に言葉が零れ落ちた。
汗で貼りついた前髪を掻き揚げながら、真里は唇を尖らせる。
「俺、まだ全然物足りないんだけどぉ・・・拓ちゃん？」
繋がったまま、軽く身体を動かしても、拓の意識は戻らない。
余程疲れているのか、くたりとした拓の身体はシーツに沈んだままでピクリともしなかった。
一瞬、このまま拓の意識が戻るまで抱き続けてしまおうかという思いも過ったが、真里はハァーと息を吐き出すと一度だけ拓の身体を静かに抱き上げて、ギュッと抱き締めた。
そうして、その心地良い体内から真里がズルリと己の欲望を引き抜いた途端に、ヌルリとした精液が一緒に溢れだしてきた。
「・・・明日は、もうちょっと頑張って、ね。」
名残惜しそうにそう呟くと、真里は拓に口付けた。
朝起きたら、身体を洗う口実で、二人でシャワーを浴びながら続きをしても良いよね？―――そんな事を考えながら、真里は拓を抱き締めて横になる。
一回り小さな拓の身体を腕の中に包み込んで、その素肌の温もりと寝息を確認しながら真里も瞳を閉じた。
やがて訪れる静寂。
部屋の中に漂うのは、甘い余韻だけ。
二人の同居生活は、「新婚か？！」―――と突っ込みたくなる位、甘い生活だった。
―――結局、翌日も一日中散々真里に愛されまくった拓が、日曜の午前中までベッドから起き上がれなくて・・・二人が買い物に行けなかったのは言うまでもない。