Sweet's Bearst





２月１４日

世間一般で云う所のバレンタイン・デー。

多分、誰よりもこの日を一番喜んでいるのは、甘い物が大好きな“彼”。

きっと、山の様に貰ったチョコの山を見て、今頃、狂喜乱舞してるんだろうな・・・そう、拓は思った。

チラリと見た棚の上には、綺麗にラッピングされた小さな包み。

毎日毎日、拓からのが欲しいと強請られてしまえば、用意しない訳にはいかない。

勿論、手作りなんて出来ないから・・・買うしかないのだけれど。

可愛い女の子が夢見るような顔で一杯のお店で、男である自分が買うのは物凄く勇気が必要だったけれど。

はぁ・・・と、拓の口から零れ落ちるのは、深い溜め息。

もっと高くて美味しくて綺麗で素敵なチョコを、ちゃんと女の子から貰えるのに、どうして自分なんかのを欲しがるのかが未だに理解らない。

しかも、高校の時から、それは毎年変わらない。

＜そりゃ・・・ひ・・・秘密とはいえ・・・こ・・・恋人同士なんだけど・・・＞

こっそり心の中で思って、赤面する。

卒業後に一緒に同居してたら、友達連中には隠し通せてないかもしれないが。

それでも、隠さなければならない事情。

それは・・・。

『本日のゲストは、最近ユニットを組んだアイドルグループ【Sweet　Boys】の皆さんです。』
リビングのテレビから流れる音楽番組の映像。
椅子に座って、ぼんやりと眺める。
『こんばんはー』
画面には、物凄く立ち姿が目を惹く、三人組のアイドルが映っている。
その内の一人に視線が止まる。
水色とピンクとオレンジと、それぞれのカラーを基調とした揃いの衣装を着込んだ中で、左端の・・・一番背が高い癖に、オレンジの衣装の綺麗な顔をしたのは、拓の同居人で。
『―――マサトでーす！オレねぇ、甘いお菓子大好き♪今日は、バレンタイン・デーだから、最高の一日だね！』
結構大きい身体なのに、ニッコリと笑うと綺麗な顔が一瞬で可愛く変わる。
途端に、質問していた司会者の女性が顔を赤らめていた。
簡単な自己紹介の後、曲が始まる。
流れてきたのは、来週発売予定の彼等のデビュー曲だ。
予約特典のポスター目当てで、発売前から凄い話題になっている。
歌うのって難しいなぁって言いながら、結構真剣に家でも歌の練習をしていたので、すっかり耳に馴染んでしまった旋律が、綺麗にハモった声音に重なっていく。
「・・・へぇ。こんな風になるんだ。」
拓は、ちょっと驚いて眼を見開いた。
画面の中では、アイドルと言う事で、揃った動きのダンスも付けられていた。
振りに合わせて、長めの衣装の裾が舞って、目を惹き付ける。
その辺の衣装のあしらい方は、流石にモデルから転向しただけのユニットだけの事はある。
立ち位置とか、姿勢とか、決めポーズまで、きっちりと動きを併せて画面に華やかさを齎していた。
流石に今、一番話題のアイドルグループというだけの事はあった。
『【Sweet　Boys】の皆さん、ありがとうございました。』
司会者の言葉で、次の演奏者に変わる。
それを確認して、拓はテレビのスイッチを切った。
時計を確認したら、そろそろ午後８時を指していた。
テーブルの上には、すっかり冷めてしまった夕食。
今朝、早く帰ってくるから一緒に食べようと言われたから、拓が一生懸命に作った物。
だけど、７時前に掛かってきた電話は、仕事が入ってしまったので遅くなるという連絡で・・・。
先に食べててと言われても・・・一人で食べる食事は美味しくない。
どうせ、遅くなっても食べてこないだろうから、待っていようと思ったのだが、流石にちょっとお腹が空いてくる。
から揚げだけ一つ摘んで口に入れると、拓は寝室に向かった。

ベッドの上にゴロリと横になって、ボードの上に置いてあるお菓子に手を伸ばす。
あんまり食べると食事が入らないから、ミルク味のキャンディで我慢する。
口に含んで、重なっていた雑誌を手に取る。
表紙を飾っていたのは【Sweet　Boys】で・・・お洒落な女性向けのファッション誌だった。
特集を組んでいたから、つい手に取ってしまった。
パラリとページを捲ると、直ぐににこやかに笑っている姿が目に入る。
オレンジで統一された見開きのページは、マサトのインタビューで埋め尽くされていた。
普段外でどんな事を言っているのかが、気になって・・・でも、立ち読みするには余りにも恥ずかしかったので、他の男性向けのファッション雑誌と一緒にこっそり買ってしまった物。
記事には、色々な事が書いてあった。
でも、マサトのどの答えも、女の子の好きそうな柔らかくて甘い言葉で綴られていて。
記事を書いた編集さんの最後の感想の、「大きくて凄く綺麗なのに、可愛いわんこと喋っているみたいでしたｗ」―――には、苦笑が零れた。
衣装を着こなして黙ってポーズを決めている時は、物凄く色気を発するのに・・・口を開いた途端に変わるギャップは、本当に魅力的に映るのだろう。
―――過去を知っている者たちにとってみれば、天変地異の前触れのような出来事でしかないけれど。

真里がモデルになったのは、一昨年の街中でのスカウトが発端だった。
高校一年の時は、拓と余り変わらず二人で女の子と同じような背丈だったのだが、高校２年の夏から真里は見る見る内に伸びて、あっという間に１５ｃｍ位差が付いてしまった。
その後も順調にスクスク伸びて、今では仲間内でも１・２を争そう高さになっている。
そんな高校３年の秋・・・そろそろ進路を考えなくてはならない時期に、真里は声を掛けられたのだった。
周りの友達は皆して、似合わないとか、無理だろうとか口々に止めたんだけど。
『うーーん・・・でも俺、卒業後何しようかまだ決めて無かったんだよねぇ。今までに名刺くれたのは俺の【力】を欲しがるような人たちばっかりだし・・・そろそろ、母さんも楽にさせてあげたいし・・・お金が手に入るんなら、取り合えずやってみようかなぁ。駄目なら、また別に探せば良いしね。』
何時もの調子でニッコリ笑って、事務所に出掛けてあっさり業界に入った真里は、余程水が合ったのか、凄まじい勢いで台頭して・・・卒業時にはモデルの“マサト”として結構有名になってしまった。
そんな真里が、唯一願った望み。
それは、拓との同居だった。
只でさえ、仕事で会える時間が減ったので―――卒業と同時に離れるのは耐えられない・・・と。
最初は、思いっきりお断りした拓だったのだが、見た目に反して獣のような真里に捕まって・・・。
―――結局、今に至っている。

唇を舐められる感触に、意識が覚醒する。
「・・・ん？」
「・・・あ、起きちゃった？」
寝返りを打とうとした途端に、甘い声が降ってきて、一瞬で眠気が吹っ飛んだ。
「・・・えっ？」
目の前には、綺麗な笑顔を浮かべた夢で見ていた人物で・・・すっかり戦闘体勢に入っている。
つまり、寝ていた拓の上に覆い被さっていたのだ。
「やっぱ、キスしちゃったから起きちゃったかぁ。もうちょっと、寝顔楽しめば良かったなぁ。」
明るい声で恥ずかしい事を言う相手を、拓は凝視する。
「―――あれ？・・・僕・・・いつの間にか寝てた・・・？」
「うん、可愛かった。キスも凄く甘かった。」
「・・・そんな筈、ないから。それより・・・ご飯は？」
「―――まだ・・・だけど・・・」
「じゃあ、温めなきゃ・・・！」
起き上がろうとしたら、抑えつけられてしまう。
そのまま抱き締められて、拓は焦った。
「ちょっ・・・マー坊くんっ！」
「うーーん、もうちょっとぉ。」
「・・・んんっ・・・・」
甘く強請る様に言って、真里は顔を寄せると・・・そのまま拓の唇を摘み取る。
徐々に深くなる口付けに、感覚を持っていかれそうになり・・・必死に拓は服を掴んで抵抗した。
グゥゥ。
拓の代弁を、お腹がしてくれた。
見事なタイミングで鳴ったお腹の音に、物凄く恥ずかしかったが・・・それでも、真里の口付けは離れた。
「・・・ご・・・ゴメ・・・そっか・・・拓ちゃんも・・・食べてな・・・ハハハッ・・・」
小さく震えていた肩先が、大きくなって・・・終には爆笑に変わる。
「・・・だから、温めるからって・・・」
真っ赤になって起き上がった拓は、まだ腹を抱えて笑っている真里を寝室に置き去りにして、キッチンに向かった。
途中のリビングで時計を確認したら、時刻は午後11時近かった。
温められる料理は、ラップをかけてレンジに突っ込んで。
冷蔵庫の中から、サラダと飲み物を取り出す。
手際よく準備を整えたと同時に、チーンという音が鳴る。
レンジから温まったオカズを取り出して並べると、食事の用意は完成した。
「あ、からあげ美味そー♪」
「―――あぁ、摘み食いしなくても、直ぐにご飯よそうから・・・もう、戴きますしてから！」
「えぇー、拓ちゃん、母さんみたいだよぉ！」
それでも、ご飯をよそって渡すと、キチンと両手を合わせて戴きますと言っている真里に、拓は苦笑する。
二人で食べる食事は、やっぱり楽しくて・・・温め直した物でも美味しく感じられた。

真里が、一日の出来事をパソコンのニュースやテレビで見ている間に、拓は片付けを済ませてしまう。
リビングの隅には、幾つもの見なれない紙袋。
入りきらない包装紙やリボンを見ると、どうやら貰ったチョコレートらしい。
―――幾つ、貰ったんだろう・・・？
高校に在学中から、真里が甘い物が大好きというのは知れ渡っていたので、あの頃も既に抱えきれない程貰って喜んでいたけれど。
既に、幾つかは食べている筈だし。
甘い物が大好きな真里が、家まで我慢できる筈もないのだ。
同じ男としては、羨ましいとしか・・・拓には言えないのだが。
棚の上に、視線を向ける。
そこには拓が用意したチョコが置いてある―――筈だった。
「あれ？」
視線を向けた拓は、そこにある筈の物が消えていたので、驚いた。
下に落ちてしまったのかと、目線を動かすが、それらしい物が落ちている様子もない。
「・・・探してるのって・・・これぇ？」
ビクッとして振り返ると、拓の用意したチョコを包装紙のまま口に咥えた真里が、居た。
「―――マー坊・・・くん・・・」
流石に甘い物には嗅覚が、犬並みなだけの事はある。
「ねぇねぇ、これって俺のでしょ？―――拓ちゃんから、俺への・・・チョコ？」
蕩けそうな甘い笑顔で聞かれて、拓は耳まで赤くなった。
「・・・食べて良い？」
キラキラした瞳で更に追い詰められる。
「・・・ぅん・・・。」
物凄く恥ずかしいのを知っているのに、毎年毎年同じ事を繰り返す真里に、拓は俯いて小さく答える事しか出来なくて。
嬉しそうにリボンを外して、ラッピングを外していく。
中から出てきたチョコレートは、それぞれ三色の味の小さなハート型をしていた。
ミルクとホワイトとストロベリー。
拓自身もちょっと美味しそうと思ったから、それを選んでしまった。
どうせ、自分も食べる事になるのなら、少しでも美味しい方が良いと思って。
「―――拓ちゃんも、食べる？」
「・・・うん。」
聞かれたから、小さく答える。
嬉しそうに告げる真里の真意が何を指しているのか、既に毎年されているので、今更理解らない訳が無い。
イチゴのチョコを咥えたまま近付いてくる真里に、拓は目を閉じた。
重なる口唇の瞬間に口の中に入ったチョコは、潜り込んできた真里の舌に溶かされて、口の中に甘く広がった。
「・・・ん・・・」
「・・・ふっ・・・んん・・」
息苦しくて、甘くて・・・頭の芯まで蕩けそうで。
思わず逃れようとした途端に、片手で頭を抑えられて固定されてしまう。
更に深く入り込んでくる舌に、全てを囚われて・・・蹂躙されて。
拓の膝から力が抜ける。
縋り付かなければ、そのまま崩れ落ちてしまいそうな―――ディープ・キス。
漸く解放された時には、飲み込みきれずに口端から零れ落ちた、チョコが混じった涎液によって、拓の顎や首は汚れていた。
そこを、真里の唇が辿っていく。
「・・・ちょっ・・・」
素肌を舐められる感覚に、ゾクリと背筋に電流が走る。
「汚れちゃったから、一緒にお風呂入ろうねぇ。」
ニコリと笑う真里に、拓は本当に全身を赤くして・・・目線を逸らしたまま小さく頷いた。

外国製のユニットバスは、拓だけならば大きいのだが、流石に真里と二人で入ると窮屈だ。
お気に入りの甘い香りのミルクバスを泡だらけにして、その中に重なるように温まっている。
「・・・ん・・・やだっ・・・」
時折、悪戯するように真里の指先が拓の素肌を滑っていく。
その都度、甘い声が響いてしまい拓は慌てて声を抑える。
「駄目だよ・・・もっと、甘い声を聞かせてよ、拓ちゃん。」
耳元で囁く真里の声の方が、ずっと甘く響く声音なのに・・・うっとりと拓で遊ぶ真里は上機嫌で抱き締めている。
何度も口付けられて、どんどん体温も上昇していく。
「・・・もう・・・上せちゃう・・・よぉ・・・」
ボウッとした顔で、拓は潤んだ瞳で真里に訴える。
「―――しょうがないなぁ・・・。でも、まだまだ、夜はこれからだしね。一杯、啼かせてあげるね。」
フワッと浮かんだ真里の微笑が、見惚れてしまう程色っぽくて・・・その瞬間、拓は喰われる事を覚悟した。

違う意味で、温まりすぎてしまった身体を、漸くの思いで拭いて・・・寝室に行くと、先に出ていた真里が、ベッドの上で新しいチョコを食べていた。
「・・・また、食べてるの？」
「これは、特別。」
ちょっと呆れて拓が言うと、真里は少しだけ苦笑した。
「―――特別？」
「そ、俺から、拓ちゃんへ。」
口に咥えながら言われれば、拓は受け入れるしかなくて。
先程と同じようにキスされて・・・口内に含まされたチョコは、蕩けた途端に、ドロリとした独特の濃い味を齎した。
「・・・ん・・？！」
それが、アルコールを含んだ物だと拓が気付いた時には、既に液体は喉を通り過ぎていて・・・。
思わず、バッと口を抑えて・・・逃げる。
「・・・い・・・今のっって？！」
「へへっ、【特注】の、ブランデー入りチョコ。」
ニッと笑う真里の表情に、拓はザッと青褪めた。
アルコールに弱い体質の拓は、簡単に酔っ払ってしまう。
酔っ払った自分が、物凄く乱れる事を知ってから、なるべく口にしないように気をつけていたのに・・・真里の貌は、完全に確信犯のそれだった。
つまり、それだけ真里は本気―――。
「折角の恋人同士の甘い夜なんだから、目一杯楽しもうよ♪」
グイッと腕を引かれて、あっという間に腕の中に包み込まれてしまう。
「・・・あ・・・あの・・でも・・・」
「あんま恥ずかしがってばっかりだと・・・もう一個食べさせちゃうよ。」
只でさえ、頬が紅潮してきているのに、更にアルコールが入ったら、どうなってしまうのか全く理解らない。
「ま、俺は、恥らう拓ちゃんも可愛くて大好きだけど・・・ね。」
チュっと音を立てて、赤くなった頬にキスされて・・・拓は困ったように目を伏せた。
よく見てみれば、箱には空になった箇所が４つ程あって。
―――つまり、同じ物を真里は既に３つも口にしているのだ。
「・・・あっ・・・何？！」
「ラッピング。」
箱を気にしていたら、嬉しそうな表情を浮かべた真里に、赤いリボンで拓は両手を縛られてしまった。
「・・・外して・・・っ！」
「―――ダーメ。だって、背中に疵付けたら駄目だって、言われちゃったから。俺は、嬉しいんだけど・・・仕事上、駄目なんだって。」
動かない手に、ちょっと怖くなって懇願するが、明るい声が返ってきた。
笑顔の裏に、鋭い牙が見え隠れしているようで・・・拓の心臓が早鐘のように鳴り響く。
「マー坊・・・くん！」
何をされるのか理解らない状態が不安で、拓の目じりに涙が浮かぶ。
それを優しくキスで拭い取ると、真里は本当にうっとりした表情で拓をベッドに押し倒した。
拓の肩から、羽織っていただけのバスタオルが落ちて、シーツに広がる。
「うん。気にならなくなるぐらい、一杯愛してあげるから。ちゃんと、俺を全部感じて、ね。」
上に乗って拓をベッドに押さえ込んだまま、真里は着ていたガウンを脱ぎ捨てた。
ペロリと舌なめずりする様に下唇を舐める表情は、獲物を捕まえた肉食獣のように獰猛で美しいものだった。

「・・・あぁぁぁ・・・！」
うつ伏せになったまま、高く腰だけを持ち上げられて、奥まった場所まで暴かれて・・・全てを真里に見られている羞恥に、拓は綺麗に全身を染め上げて・・・与えられる快楽に甘い悲鳴を上げた。
「・・・いやっ・・・マー坊くん・・・そこ・・・、いやぁっ・・・」
両手首を縛られているので、いつもの様にシーツを握って感覚から逃れることも出来なくて・・・ただ顔を押し付けた枕を涙や涎液で濡らすことしか出来ない。
身の内で蠢く真里の舌や、差し込まれた何本もの指が、信じられないほど強烈な快楽を拓の身体に齎して―――。
なのに、【達（イ）】く事が出来ないじれったさが、拓の神経をも犯していく。
「・・・ぅんっ？でも・・・拓ちゃんのココ凄い気持ち良さそう・・・ハハッ、俺の指そんなに美味しい？―――ちゃんと・・・チョコの味、する・・・？」
口端に付いたチョコを、ペロリと舌で舐めとって、甘く告げる響きにさえ、肌があわ立つ。
怖いぐらい神経が昂ぶっていて、真里が与えるほんの少しの愛撫でさえ全身が痙攣する程の快感が走り抜けていく。
もどかしい感覚は、既に知っているから。
望めば、真里がもっと熱くて激しい快楽を与えてくれると言う事を。
馴らされて、抱かれる事を覚えてしまった拓の身体が、身悶える。
「―――なん・・・で・・・？」
それでも、この熱さは余りにも甘くて苦しくて・・・泣きながら拓は朦朧としながら失えない意識で、呟く。
それが、最後の・・・物凄い細くなってしまった・・・拓の理性。
辛うじて残っていたそれすらも、真里はあっさりと奪い取った。
「ひぃあぁ・・・！」
「・・・はぁっ・・・拓ちゃんのここも、今日は凄く甘い・・・。」
クスクスと笑っている真里の指には、散々弄んだ箇所の拓の体温と真里の舌で溶けたチョコレートがべったりとついていて・・・それを擦りつけた拓自身を舌で舐めながら、真里はゾクリとする程、綺麗な表情を浮かべている。
齎される感触に、ゾクゾクと全身を震わせて拓は乱れた。
もう、自分がどうなっているのかさえ、理解らなくなる。
あっという間に、舌技で熱を奪われた。
漸く解放されてぐったりしている拓を満足気に見下ろしながら、真里は箱に残っていたチョコを無造作に掴んで口に入れた。
「・・・ん・・・っ・・・ゴホッ！」
歯で噛んで、中の液体を口に含むと拓に口移しで流し込む。
只でさえ甘い悲鳴で啼かせられて、傷付いている喉に液体が絡んで拓が咽る。
熱で潤んだ拓の瞳が、真里を咎めるが・・・真里は構わずにその甘い口唇を堪能した。
幾ら責められても、拓の身体はもう真里の思うが侭だ。
熱く熟れた果実のように柔らかく・・・甘いお菓子の様に蕩けている。
何を、欲しがっているのかも・・・手に取るように理解る。
恐ろしく扇情的な表情を浮かべる拓に満足しながら、真里はその甘い快楽に溺れるのだ。
最愛の恋人は、どんなお菓子よりも甘くて・・・【甘美な存在】。
「・・・ぁあああぁっっ！！」
耳に届く甘い嬌声が、何よりも素敵なBGM.
壊してしまわないように慎重に・・・でも、絶対逃がさない。
甘い鎖で掴まえて・・・牙で、爪で・・・自分の存在を刻み付けて。
貪るのだ―――全部、残らず・・・最後まで。
他の誰にも、この世の中で一番甘い存在を渡さない為に。
「―――拓ちゃん・・・ずっと、一緒に・・・」
抱き締めた拓の内に、何度も楔を打ち込んで、真里はうっとりと囁く。
【特注】なチョコに含まれていた媚薬の所為で、拓の身体は本当に素直に快感だけを追いかけていて、真里を楽しませてくれる。
「・・・ぅん・・・気持ち良い？・・・あぁ・・・拓ちゃんのナカ・・・すごっ・・・」
誘われるままに、真里が激しい動きを加えると・・・綺麗に反り返った肢体が、啼きながら縋り付いてくる。
両手を縛られたまま・・・必死に首を振って・・・拓の湿り気の混じった艶のある黒髪が真里の動きに合わせて空を舞う。
「・・・ひっ・・・ぃ・・・あ、あ、あ、・・・あぅ・・・ぅあ、あ、・・・」
もう、拓の赤い唇から零れる喘ぎは言葉にならなくて・・・旨く繋げない呼吸の合間に、苦しげに吐息が紡ぎ出されるだけの状態で。
それでも深く内奥を抉って、悦い場所を擦ると、只でさえ狭くて熱い箇所が・・・絞り込むように真里を誘う。
「・・・っ・・・そんな悦んだら・・・俺も、我慢できない、、、っっ！！」
息を詰めて、想い塊を拓の内壁に叩きつけるように真里が吐き出すと、ビクンと全身を硬直させて、拓も真里の腕の中で昇り詰めた。
「はぁ・・・」
そのままの状態で、真里は拓をきつく抱き締めたまま息を整える。
まだまだ今夜は、手離す気はない。
明日は、本当に久しぶりのオフ日なのだ。
一晩中、拓と愛し合うために・・・甘い時間を共有する為に、真里はずっとこの日を指折り数えて過ごしてきたのだから。
本当にぐったりとしている拓は、もう意識も朦朧としていて・・・きっと自分がどうなっているのか理解できない。
それでも、拓の内部で休んだ真里の熱が復活すると、潤んだ瞳が請うように、細められる。
そんな拓を見て、真里は酷く満足したように―――嗤った。

甘く溺れる時間が過ぎていく。
ともすれば、狂気のような夜が―――。
真里の言う、楽しい時間はその後、夜が明けるまで続けられた。
何度も繋がって、甘い身体を貪って・・・腕の中で拓が完全に意識を失ってしまうまで。

―――来月も、３倍返ししてあげる・・・ね♪
甘いお菓子が大好きな獣は、そう夢見るように囁くと、満足した美しい表情で眠りについた。