（エピローグ）
 

『必ず戻ってくるから・・・』
『うん・・・待ってるね―――』
それは、春の宵の出来事―――。
別離ではなく、再度出逢う為の“別れ”。
哀しくないのは、未来が約束されているから。
必ずまた逢えると確信できるから・・・。
 
 
だから、拓は待っていようと思った。
時貞は必ず戻ると言ったのだ。
それは、そう長い時間ではない筈だから―――――――。
 
 
拓にまた日常が戻る。
夏になって、あの夜の出来事が夢だったのかと少しだけ心配し始めた頃。
届けられた一枚の絵葉書。
 
「―――逢いたい―――」
 
ステンドグラスの天使の絵の中に書かれた、一行。
そのたった一言に込められた“想”い。
差出人を見なくても、それが時貞からの物だという事は、直ぐに理解った。
絆は繋がっている。
エアメールだったので、返事を出す事はしなかったけれど・・・待っていようと更に強く思った。
 
 
そうして瞬く間に季節は過ぎ去って・・・。
秋が終わり、冬がやってきた。
時貞と初めて出会った季節が―――。
 
 
リーンリーン・・・。
突然鳴った電話の音に、拓は慌てて受話器を取った。
「もしもし・・・」
『―――拓ちゃん・・・？』
相手が誰だか理解した拓は、ドキッとした。
『今・・・出てこられるかな・・・』
「うん。」
『じゃあ・・・あの場所で・・・』
「分かった・・・すぐ、行くから・・・」
短い会話を交わして、受話器を下ろす。
逸る動悸を抑えながら、拓は身支度を整えてから家を飛び出した。
 
 
初めて時貞と出会った場所。
そうして、再び巡り逢えた場所で、『約束』は果たされる。
 
 
葉がすっかり落ちてしまった街路樹の下に、時貞は立っていた。
その姿は余りにも自然で、今にも街並みに溶け込んでしまいそうに見えた。
拓に気付いた時貞もまた、ゆっくりと手を上げて応える。
 
 
どちらからともなく近づいた二人は、互いに笑みを浮かべた。
言いたい事は山のようにある。
聞きたい事も・・・。
それでも、最初に告げる言葉は決まっていた。
 
 
「―――ただいま、拓ちゃん。」
「おかえりなさい。」
 
 
　　――――ここから、また二人で過ごす時を始めよう。
  
 

　　　　　　　終わり。　　　　／　　　　　戻る