（このＳＳはお約束通り、アキオ×拓様へ捧げます。一応、『聖夜』の続きになっています。結局、ポッキーもＨもムリでした（敗北ＴＴ）アッちゃん難しいよ〜（涙）爆音内で一番大人で優しくて強くてカッコ良いと思うのですが・・・上手く書けません。因みに、ドリーマーのマー坊は初体験済み（女の先輩と）ですが、アッちゃんはそーゆーのを大切にしそうなんで、未体験という事で―――初々しい二人の今後はどっちだ？！）　

【ｅｓ】
　
　
薄暗い工場内でカチャカチャと金属音が響く。
壁時計は既に１1時を回っていた。
一心不乱に作業をしていた秋生は、動かしていたビスがきっちり嵌ったのを確認してから、漸く手を止めた。
「―――よし。これで、ブレーキ周りは完璧だ。」
そう呟くとゆったりと笑う。
自分でも会心の出来だ。
不意に、これを壊した時の泣きそうだった顔を思い出して苦笑する。
「・・・アイツはいっつも壊すの専門だからな・・・」
小さく零れ出る言葉。
でも其の中には何故か甘い語尾が漂う。
以前、自分がきつく言った時から、単車の調子については人一倍気遣うようになってくれたから。
壊してしまった時は本当に申し訳なさそうにするその姿が、愛しくて。
意識が捕らわれる。
こんな時、どうしようもない感情が表れてしまう。
それは、願い。
―――逢いたいと言う・・・『想い』。
零れ落ちるのは溜め息ばかりなのだが・・・。
　
　
「秋生ォ・・・客だぞ。手ェ空いてっか？」
工場の入り口から声が掛かる。
「あぁ？客ぅ？！」
兄である夏生の言葉に、訝しげに視線を向けた秋生はそのまま固まった。
夏生の後ろからおずおずと入ってきた人物は、今まで意識を奪われていた者だったから。
だから、一瞬夢だと思ったのだ。
逢いたいと思った幻が現れたのか――――と。
「こんばんは・・・。あの、ボクも・・・何かお手伝いできないかな・・・って思って・・・。明日学校休みだし・・・それで・・・」
こんな夜中にやってきた理由をしどろもどろに告げる相手に、秋生は更に瞳を丸くした。
咥えていた煙草の灰が、ポトリとコンクリの上に落ちる。
「おい、ボケッとしてんな。拓が困ってんだろ？どうすんだ？」
夏生が落ち着けというように声を掛ける。
不器用な弟を思いやっての助け舟を出した。
「あ・・・あぁ。そりゃ、構わねーけど・・・。」
ボソボソと答える。
何だか、頭に血が上って上手く言えなかった。
「―――ま、ここは冷えっから、程ほどにな。」
秋生が答えたのを確認した夏生は、ニッと口角を持ち上げてそう言うと、意味深な笑みを残して裏手の家に戻っていった。
後に残されたのは、どうして良いのか理解らずにキョトンと立ち尽くしている拓と、真っ赤になった秋生だけだ。
流石に兄弟なだけあって、感情はバレバレだ。
こっそりひっそり秋生と拓が付き合っている事も、何時の間にかバレていた。
未だに、真里にも隠し通しているというのに・・・。
　
　
「あの・・・じゃ・・・邪魔・・・だった・・・？」
困ったように聞いてくる拓に、秋生は黙ったまま手招きする。
その途端、浮かんだ柔らかな笑みが秋生の視線を惹き付ける。
困ったような照れくさそうな・・・小さな笑み。
そっと近付いた拓に、秋生は落ち着きを取り戻す為に一呼吸した。
「寒く無かったかよ？」
笑って、尋ねる。
「ううん。大丈夫。こんな時間に、ごめんね。」
「いや、俺はイーんだけどよ・・・。」
短くなってしまった煙草を、灰皿に押し付けると、秋生は作業手袋を外した。
余分な電気を使わない工場内は、それでも石油ストーブがあるからまだ温かい。
この真冬の寒空を、単車を使わずにここまで来た拓の行動が、秋生は嬉しかった。
「こんな、冷えちまって・・・」
手袋をしていない拓の指先は、秋生の想像以上に冷たかった。
両手で包み込んで、息を吹きかける。
少しでも温めるように・・・。
「あ・・・あの・・・ボ・・・ボク・・・温かい飲み物持ってきたんだ・・・だから・・・一緒に飲もう・・・？」
秋生の行為に真っ赤になった拓が、慌ててそう告げる。
「飲み物？」
驚いた秋生が何か言うよりも早く、拓は肩からかけていたカバンの中から小さな水筒を取り出した。
銀色の光を放つそれを開けて、同じように取り出した紙コップの中に中身を注いでいく。
コポコポと音を立てて、湯気と供に黒に近いこげ茶色の液体が流れていく。
同時に、甘い匂いが回りに立ち込めた。
「―――この匂い・・・ココアか？」
匂いに思い立った秋生が尋ねる。
「うん・・・ホットチョコなんだけど・・・甘い物ダメだっけ？」
そっと伺うように聞かれて、秋生は返答に困った。
余り得意でない事だけは確かなのだが・・・。
それでも、好意を無下に断れる程、飲めない物ではない。
何よりもそれが、拓がわざわざ持ってきてくれた物なら尚更だ。
「―――いや・・・マー坊程喰えって言われたらムリだけどよ・・・」
柔らかく答える秋生に、拓は本当に嬉しそうに破顔した。
そうして、拓から紙コップを受け取ると、秋生はそれに口付けた。
口一杯に広がったそれは、思っていたよりも甘くなかった。
却って、チョコの匂いが疲労感を吹き飛ばす。
暖かな飲み物は冷え切った身体すら癒すようだった。
秋生が飲んでいるのを見て、安心したように拓も口を付けている。
「・・・暖けェな。」
「うん。」
穏やかな空間が、過ぎていく。
「ゴチソーさん。」
空になった紙コップを渡すと、拓はホッと息を吐いた。
「―――拓？」
目元を薄っすらと紅く染め上げている拓の様子に、秋生が気遣うように問い掛ける。
「え？・・・あ・・・」
恥ずかしそうに目線を逸らす拓に、秋生は訝しげな表情を浮かべた。
「どうした？」
「・・・あの・・・違・・・ボク・・・嬉しくて・・・」
しどろもどろ告げる拓に、秋生は辛抱強く待つ。
他人の事に関しては人一倍強く言葉を発する拓は、自分の気持ちを表に出す時は酷く臆病だ。
だから周りの人間に振り回される事が多いが、実際はちゃんと自分の意志も持っている事を秋生は誰よりも知っているし・・・識っていたいと思っているから・・・。
「えっと・・・だから・・・どうしても今日中に秋生クンにチョコあげたくて・・・でも・・・男の自分からあげるのも変だし・・・ずっと家で悩んだんだけど・・・」
ぷしゅううううと湯気が出そうな程耳まで赤くなっている拓の言葉に、秋生は付いていけない。
チョコと言う単語と今日中という言葉が、妙に引っ掛かって・・・漸く一つの答えが見付かった。
「・・・バレンタイン・・・か？」
呆然と口にする。
途端に、ビクッと身体を縮むこませた拓は、悪戯が見付かった子供のような不安気な表情を浮かべた。
「・・・ご・・・ごめんなさい・・・」
小さく蚊のなくような声で謝られ、秋生はハーッと溜め息を付いた。
「―――ったく、そこで謝るなって！・・・ずっと、悩んでたって？」
「・・・う・・・うん・・・」
「そっか・・・。」
秋生は口元に手を当てた。
そうでもしなければ、ニヤケ顔を押えられる自信が無かったからだ。
「―――サンキュ。」
感謝の言葉を口にした途端、拓が弾かれたように大きな瞳で秋生を凝視した。
思わず、秋生も照れくさくなる。
何かこれ以上喋っていたら、とんでもない事まで口にしてしまいそうで・・・。
だから、何も言わずに行動した。
薄く開いていた柔らかな拓の唇に、キスする。
一瞬驚いた顔をした拓だったが、見開かれた瞳がゆっくりと閉じられる。
角度を変えて、ゆっくりと優しく触れた唇はほんの少しだけ震えていた。
　
　
クリスマスの夜に互いの気持ちが理解って・・・。
それでも日常の忙しさに、二人っきりになれる時間なんて数える位しかなくて。
不安じゃないといったら嘘だ。
あの夜が、神様の見せてくれた奇跡だったんじゃないかと疑えてしまう程。
―――まだ細くて頼りない『絆』だから。
　
　
「・・・あの・・・秋生・・・くん・・・」
唇を離すと、綺麗に頬を染め上げた拓が、困ったように秋生を見ていた。
今にも泣きそうな顔に、秋生は全身が奮えるのが理解った。
欲しい―――という感情が犇めき合う。
誰よりも大事だった幼馴染とは意味合いが全然違う。
どっちかを取れと言われても、選べる自信も無い。
それでも・・・。
それでも、その大事な幼馴染に渡せない程に、惹かれている相手。
大切にしたい―――『拓』。
それは、紛れも無く本当の気持ちだから・・・。
秋生は、ゆっくりと息を吐いた。
「・・・今夜、オレの部屋に泊まってくか？」
だから、問う。
その覚悟―――を。
嫌な事を無理強いしたくはない。
それでも、感情は抑え切れないのだ。
それが、間違っている行為だとしても・・・好きな相手に触れたい衝動を、誤魔化しきれる程、自分は大人ではないから。
問い掛けた秋生の視線を真っ直ぐに受け止めた拓は、その真意を悟ったようだ。
驚いたように、口元に手をやった。
それから、少し考え込む仕草をした。
「―――うん・・・。」
長い逡巡の後で、拓は小さく頷いた。
それは、肯定の意―――だ。
今度は、秋生の方が驚く番だった。
秋生は自分の感情を隠さずに告げた。
だから、拓は困った顔をすると思っていたのだ。
嫌なら帰っても良いから・・・と、告げる言葉も用意していたというのに、あっさりと了承した拓に面食らう。
「マジで―――良いのかよ？」
ゴクリと唾を飲み込む。
再確認は、自分にも踏ん切りをつける為だ。
　
　
「うん・・・。秋生クン・・・だから・・・」
―――儚げな微笑を浮かべた拓が、無性に愛しかった。
　
　
バレンタインの甘い夜は、まだまだ続きそうだった―――。
　
　
終わり。　　　　／　　　　戻る

（ここで、「え？続くんじゃないの？！」と思ったそこの貴女！これ以上甘々なＨシーンが延々と続くのを読みたいんですか？！余りにもこっ恥ずかしいもんで、ドリーマーは逃げちゃいました！３月のホワイトデーＳＳは逃げないように修行して来ますね・・・それではっ！！（脱兎））