月明かりの夜

　―――それは、月の綺麗な夜だった。

天空に輝く満月は、静かな空間を穏やかに照らし出し・・・その中を歩く二人の姿を写し出す。
背の高い少年と・・・その肩口程までしかない少年。
別に何をする訳でもなく、少し前を歩く少年の後ろをただ付いて行く事しか出来ない小さな少年は、伺うような表情を浮かべている。
困惑がありありと取れる―――それ。
前を歩く背の高い少年は、異国の血が混じっているようで、肌は浅黒く・・・髪は鈍い銀色の光を月光に弾いている。
ふとすれば、そこだけ別世界のような空間が出現する。
それでも、他人を寄せ付けないような背中が、後ろを付いてゆく少年の事を待っている。

「・・・拓ちゃん・・・。」

ゆっくりと歩いていた背の高い少年が、急にクルリと振り返ったので、どうしようかと悩んでいた小さな少年はビクッとしてしまった。
だが、驚きは一瞬後に更に深くなるのだ。
突然に差し出された腕が・・・その指先が、抵抗を許さない動作で、小さな少年の右手を捉えた。

「―――時貞・・・くん？」

驚愕したように瞳を見開く少年に、珍しいともとれる微笑を浮かべる。

「・・・誰も見てない・・・から・・・」

ねだるようにそう告げると、そのまま手を繋いだまま、また歩き出す。
どうする事もできなくて・・・それでも恥ずかしくて顔を染めたまま、小さな少年はほんの少しだけ困った顔で微笑った。
不器用な程の『想い』が、何だかとてもくすぐったくて。

満月の夜に、こんな風に二人で散歩をするのも悪くない。
―――ただ、そんな気がした。

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