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天羽時貞復活の過程
瞬間・・・全ての時が止まったかのような感覚に襲われる。
白いシーツの上・・・穏やかな・・・本当に穏やかな表情を浮かべた天羽がまるで眠っているかのように横たわっている。
一体、誰が信じられると言うのか・・・この瞳が永久に開かれなくなったなどと・・・
「・・・時貞・・・くん・・・？」
思わず拓は小さく、声を掛けた。
信じられない・・・否、信じたくない。
昨日、あんなにも嬉しそうにステージの上でギターを弾いていた天羽の姿が瞳にまだ焼き付いている。
貰ったギターはちゃんと家に大切に置いてあるというのに。
そうして、気付く。
昨夜の、急激な不吉な現象の数々を・・・。
あれらは、この事を意味していたのだろうか？
『拓・・・ちゃん。』
甘く抜けるような独特なイントネーションを持つ天羽の呼び方が、拓の記憶に蘇る。
いつも怖くて、近寄り難くて・・・でも、いつか理解りあえると思っていた。
色々な事を話せれば・・・きっと『友達』なれる・・・と。
なのに・・・もう、それは夢となってしまったのだ。
「嘘・・・だよね・・・時貞くん・・・だって・・・ボク・・・みんなに紹介しようって思って・・・きっと・・・みんなと『友達』に・・・って・・・まだ・・・何にも話してないのに・・・時貞君のこと・・・何にも知らない・・・のに・・・」
小さな・・・本当に掠れて消えてしまいそうな言葉が、拓の口元から零れ落ちる。
耐え切れなくなった涙が、粒を作って溢れ出す。
こんな風に誰かを失う事の悲しみを、拓は初めて知った。
そうして・・・それが、こんなにも胸を引き裂きそうに悲しい事だという事も・・・。
「時貞くんっ！」
悲痛な悲鳴のような叫びを発して、拓は泣き崩れた。
拓の哀しみの込められた言葉の意味に、真里は気付いていた。
天羽と拓の関係を教えて貰おうと、拓の家に遊びに行った時に、この凶報を知り・・・愕然とする拓をとても一人では行かせられなくてついてきたのだが・・・。
本当に眠っているように見える天羽の姿はより一層悲しみを募らせる結果となっていた。
崩れ落ちる拓の姿に、真里は過去の自分の姿をダブらせて・・・心を痛めた。
「・・・拓・・・ちゃん・・・」
そっと声をかけて、近付く。
拓は天羽のベットに顔を伏せたまま、肩を震わせていた。
悲痛が真里の全身に広がって行く。
人の死は悲しい・・・真里は天羽の事は良く知らないが・・・こんなにも拓を悲しませるのは許せなかった。
「―――拓・・・ちゃん。」
柔らかな声で手を差し出して・・・俯せるように天羽にしがみ付いていた拓の上半身を持ち上げる。
「・・ふっ・・・うぅ・・」
泣きじゃくる拓の顔は涙でクシャクシャだった。
そんな拓を自分の方に引き寄せて、真里はそっと慰めるかのように拓の髪に指を差し込んだ。
「拓ちゃん・・・。」
「・・・マー坊・・・く・・ん・・・」
真里の言葉に、声をとぎらせながら・・・拓が答える。
顔を寄せて、拓の涙を口付けで拭って行く。
慟哭に包まれている拓には、それがどんなに危ない行為なのかも認識するだけの余裕など残っていなかった。
ただ優しい真里の態度が、拓の悲しみを気遣ってのものだと思っていただけで・・・。
「辛い・・・よね・・・。」
「マー坊くーん・・・」
慰めの言葉を発する真里に、拓はきつく眉を寄せて差し出された真里の腕の中にしがみ付いた。
「拓・・ちゃん・・・の気持ち・・理解るよ・・・オレも・・・」
静かに語るように言う真里の言葉に、拓はハッとしたように目を開いた。
そうして・・・思い出す。
真里もまた族同士の争いの時に事故で、尊敬していた『誠』さんを失っていたという事を。
真里に『スピードの向こう側』を魅せた『彼の人』は、誰の手も届かない疾風になってしまったのだ。
「・・・駆け抜けて逝く者は・・・いつだって勝手な者たちだから・・・。後に残された奴らが・・・どんなに悲しむのかも知らないで・・・『伝説』なんて祭り上げられたって・・・本当に格好良い『死』なんてあるわけねぇのに・・・」
俯いた真里の、言葉の一つ一つが重く拓の心に響く。
同じだった。
大事な人を失ったのは、真里も拓も・・・。
「・・・マー坊・・・くん・・・」
涙で霞んだ瞳のままで、拓はゆっくりと顔を上げる。
辛くて辛くて・・・どうにかなってしまいそうだった。
いつの間に、天羽の存在がこんなにも深く大きく、拓の中に棲みついていたというのか・・・？
「忘れさせて上げる・・・。」
「えっ？！」
突然の真里の言葉に、拓が聞き返そうとした時には・・・すでに拓は真里の強襲に掴まっていた。
今までのシリアスは何処へやら・・・？！
あっという間に、覆い被さってきた真里に唇を奪われてしまった。
流石に、『スピードの向こう側』を探し続けているだけの事はあり、その疾風迅雷な素早さに、拓が抵抗できる筈もなかった。
「・・・？！！！☆」
余りのショックで涙も止まり・・・全身を包んでいた悲しみさえも吹き飛んでしまう。
確かにその瞬間、拓は慟哭から解放されていた。
「・・・あっ・・・」
甘い声が上がった。
真里の腕の中に封じ込められて・・・どうする事もできない状態で、拓は始まってしまった真里の愛撫に掴まっていた。
「・・やぁっ・・・マー坊・・くん・・・だ・・・駄目だよ・・・なんで・・こんな・・・んっ！」
泣きながら、拓は真里に哀願する。
どうして真里がこんな事をするのか、全く理解らなかったので・・・ただ狼狽する事しかできない。
その間にも、真里の指先は拓のシャツの裾から忍び込んで・・・拓の素肌を愛撫している。
その指先が、突起に触れた瞬間、拓は一瞬、息を詰めた。
「あんっ！」
信じられない程甘ったるい、鼻に掛かった喘ぎが零れ、拓はカアァッと全身を染め上げた。
「言った・・だろ・・・忘れさせてあげる・・って・・・♪」
拓の言葉を甘噛みしながら、言い聞かせるように真里は囁いた。
「で・・もっ・・・あっ！」
口ではどんなに拒絶したところで、真里の行為を止められる力は拓にはなかった。
横たわっている天羽の目の前で、真里に弄ばれている・・・その恥辱が拓の意識を更に朦朧とさせていく。
「・・時貞くんっ・・・」
思わず天羽に救いを求めてしまう。
「・・・駄目だよ・・・拓ちゃん・・・もう忘れなきゃ・・・」
自分の事は棚に上げ切って、自分の都合の良いように言う真里も相当な者だと思うが・・・。
肩から脱がせて行きながら・・・首筋から項まで舌で這う。
ゾクゾクとする奇妙な感覚と恥ずかしさで、拓は顔から火を噴くかと思った。
勿論、行為に没頭している真里と、翻弄されている拓には、その部屋の中の空気がどんどん険悪なものと化しているのに気付く筈もない。
「・・・やあぁっ！『時貞』くんっ！！」
嬌声の混じった悲鳴のまま、拓がもう一度、天羽の名を呼んだ時・・・突然ムクリッと天羽が起き上がった。
一瞬、全ての時間が止まる。
その余りにも非常識な現状に、拓は真っ白となった。
チッ・・・。
復活した天羽と睨み合ったまま、真里が舌打ちした。
「『上等』じゃん・・・オマエ・・・」
低く、脅しをかけるように、復活した天羽が額にピキマークをつけたまま喋る。
「・・ナン・・・だよ・・折角良いトコだったのに・・・『拓』ちゃんはオレが『守』っから、オマエはそのまんま『死』んじゃってればぁ・・・・！」
背後に稲妻を背負った真里が、にぃーっこりと嘲笑う。
「・・・ふうぅぅうん・・・？オマエなんかにオレの大事な『兄弟』を『渡』せ、ないね・・・あんまりフザケた事、言ってっと、“殺”す、よ？！」
こちらはフラストレーションの背後も激しく、全身に怒りを漂わせていたりして・・・。
そうして、拓を挟んで・・・またしても最初の時のように戦いが始まってしまう。
あの時も、『武丸』が飛び込んでこなかったら、死闘を演じていた二人である。
「・・・ハァ・・・（汗）」
喜びと悲しみの入り混じった感情の為に、留め止めも無く流れ落ちる涙をそのままに、拓はがっくりと肩を落として、湧き上がる頭痛に額に手を当てた。
天羽が生き返った事は嬉しいのだが・・・素直に喜べない現状に、自分の未来がとっても怖くなってしまった拓であった。
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