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（この話は、下部野あいだ様に捧げた物です。拓ちゃん争奪戦で、マー坊が勝つ話が良いと仰ったので、頑張ってみました。そのままマー坊が逃げ切れるかどうかは謎ですが・・・（苦笑））
連れてっちゃうよ♪
冬の晴れた日は、とても寒くなると言った人は誰だっただろう。
乾いた北風が、乾燥した空気を更に冷やすからだとか、太陽の光りが弱くなって日照時間が短くなるからだとか・・・昔、学校の先生に理科の時間に教わった事があったような気がする。
今はその冬なのだ。
おまけに、天気はすこぶるよくて・・・なのに・・・なのに、この蒸し暑さと言ったら、何と表現すれば良いのか・・・・理由は、理解っていた。
それ等を視界から、消したくて上を向いた途端に、目に映った高い空に・・・つい、過去に逃避していただけで、現実が、変化する訳はなかった。
そうして、現実逃避をしていた浅川拓は、またしても現実に引き戻されるのである。
真冬のど真ん中で、蒸し暑いと感じてしまうような壮絶なバトルを繰り広げようとしている者達によって・・・。
「―――拓ちゃん・・・今日は、何して遊ぼーか♪」
「・・・時貞くん。」
銀色の髪と褐色の肌をした−天羽時貞−が、"緋"色の瞳を輝かせる。
彼は、全てに絶望していた時に、拓と出会って・・・暗闇の中の一条の光りに救われたように、正に生まれ変わったのだった。
「あぁ、何、言ってんだヨ！拓ちゃんは、オレ等と一緒に、ツーリングに行くっつってんべ！！」
「おうよ！その為に、食料だってちゃんと調達してきたんだからよォ・・・オレ等・・・♪」
「ヒロシちゃん・・・キヨシくん・・・」
お揃いのドカジャンを着込んだ二人が、揃って声を上げる。
因みにトレードマークのグラサンに、背中の刺繍が『風神』の方が、拓の幼馴染みの沢渡ヒロシであり、『雷神』が稲楽キヨシである。
二人とも、回りの者全てが『上等』状態なのであるが、唯一拓に対してだけは、『親友』として己の状態を鼓舞しようと毎週誘いに来るのである。
「横須賀にきたら、いろんなトコ案内してやるよ。」
「大珠くん・・・。」
横須賀の新チーム『美麗』の"頭"で、初めて会った時は、ただの"薬物中毒"者だった一色大珠が、すっかり"クスリ"の抜けた状態の表情で、拓に告げる。
身体中に彫った刺青を見ても、拓が嫌わなかった所か、逆に助けた時から、すっかり懐かれてしまったようだ。
「―――ンな、小せェトコじゃなくて、ウチにこい。不自由はさせねェからよ。」
「うーんと可愛がってあげる☆」
「えぇ・・と・・その・・・どうして・・・？・」
止めが、この二人である。湘南の最大の族である『聖龍連』の"會長"の八尋渉と、"親衛隊長"の千冬慎。
どうして拓の家を知っているのかという疑問もあるが、何よりも、＜何しにきたんだろう？＞という感情の方が強くて、拓はただ冷や汗を流す事しかできなかった。
こんな一癖も二癖もある連中に囲まれているのだから、蒸し暑いのも、当然である。
拓としては、皆で仲良くして頂きたいと思うのだが・・・遺憾せん、相手が悪かった。
勿論、回りを囲まれてしまっている拓に、逃げ場はなく・・・その答えを待っている連中の視線に晒されて、泣きたい程である。
「あの・・その・・・だから・・・・」
拓の眉がどんどん下がって中央に寄っていく。
視線も段々と俯き加減となってしまうのも仕方のない事かもしれない。
誰を選んだとしても、この場が修羅場になるのは間違いようのない状態なのであるから。
―――困った顔で、半泣きの表情を浮かべる。
ヴォルルル・・・ヴォンッ！！
独特な"改造"くった音が、辺りに響いて・・・拓はハッとしたように顔を上げた。
「・・・秀人・・・くん・・・？」
そうして、その視界の中に映った人物に、大きく瞳を見開いた。
「・・・何だよ、拓。随分と取り込み中みてェじゃねぇか。−−ん？」
真打ち登場！・・・と言った風情で現れた人物に、拓の表情が喜びに包まれる。
その人こそ、拓がずっと憧れ続けている−鳴神秀人−だったのだ。
「こいよ。"朝比奈峠"走りに行くぜ。」
その姿が、瞳に映った瞬間から、拓の意識は流れてしまうのだ。
―――秀人に向かって。
『刷り込み現象』と呼ばれる症状に、拓はすっかりと洗脳されてしまっている為に。
拓にとって、初めての相手である秀人は、どうしても忘れられない存在となってしまっているのだった。
全ての事において、最優先にしてしまうぐらいに・・・。
「うんっ！」
明るく良い子のお返事を返す拓の表情は、その場の他の連中に取って初めて見るものであった。
それだけで、突然現れた男が、拓にとってとても重要な相手だという事が理解できる。
だが、それを理解するのと、納得するのでは、天と地程の差があった。
しかも、その場にいた連中は、皆諦めが悪い者達ばかりだったりして・・・。
「"上等"じゃん！」
「後から来て、何言ってやがんだよっ！」
「拓ちゃんは渡さねーよ！？」
「俺ら相手に"闘"るんかよ、てめェ・・・！！」
サッと表情を険悪な物へと変化させた途端に、凶悪と呼べる程のガン付けを投げつけた。
「束になってかかってこいよ！おらっ！」
対する秀人も、流石に『横浜最強』のカンバンを背負っているチームの"頭"なだけあって強気である。
そうして、その場が今にも至上最悪のバトルへと突入しようとした時であった。
どうしよう（>△<）・・・とオロオロしていた拓の身体が、フワリと持ち上がったのである。
＜え？！＞
「拓ちゃんは、貰ったぁ♪」
底抜けに明るい声が、響き渡った次の瞬間には、拓はその腕の中に抱えられる状態となっていた。
片手で拓を軽々と抱えたままで、もう片方の手で、ハンドル操作を巧みに操りながら、にこやかな笑顔を崩さない、拓とそう背格好の変わらない人物は・・・その見せ掛けとは正反対な性格をしていた。
「まっまっ・・・マー坊・・・くん・・・・」
自分の状態を悟った拓が、情けない声を上げる。
ここまで来て、やはりいつものパターンなのだと、拓はがっくりと肩を落としてうなだれた。
「じゃー、いこーか♪大好きな、拓ちゃん☆」
チュッと音を立てて、拓の頬にキスすると、まるで大きなぬいぐるみを抱えているような状態のまま、マー坊こと、−鮎川真里−は、単車を発進させた。
目指すは"スピードの向こう側"である。
「うわーん（TT）秀人くーーーん！！」
あっという間の出来事に、どうする事もできないまま、またしても拓は自分の意思とは無関係な"不運"と踊ってしまったようだった。
「オレねぇ、拓ちゃんの"王子"様になるから、ちゃんと迎えに来たんだよォ！だから、ずーっと、一緒にいよーね、拓ちゃん♪」
にーっこりと天使のような微笑みで告げられたとて、拓にとってみれば、それは地獄への招待状に他ならない。
何が楽しくて、こんなに男にばっかり持ててしまうのか甚だ疑問な拓なのであるが。
―――とことんまで、自分を知らない少年であった。
「チクショー！今日は、あいつかよ・・・」
「全く、毎回毎回・・・・」
「それより、何で人数まで増えてくんだよ？！」
「・・・そりゃ、拓ちゃんが、スゲェからに決まってんだろっ！」
「・・・拓・・・♪」
「絶対に、奪い取って、連れてくぞ！拓・・・」
それぞれが、自分の主張のような単車に飛び乗って、後を追いかける。
毎度、こんな状態で結局一日が過ぎてしまうのだ。
"―――次回こそ、出し抜いてやるからな！"
それは、全員の願い。
拓に・・・拓の"性質"に惹かれた者なら、誰もが持ってしまう"感情"。
「あっ・・・あの・・・マー坊くーん！？」
「拓ちゃん、"可愛い"ーッ！！(>▽<)」
両手で拓をギュッと抱きしめる真里に遠慮はない。
何処までも我が道を行く、『爆音小僧七代目』は初対面で拓をデートに誘った時から、ずっと"強者"であった。
ＥＮＤ♪
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