（これも東さんに捧げたＳＳでした（苦笑）いや、読んでみたいといったのは彼女の方だった筈？！書こうと思えばノーマルだって書けるんですが・・・それ以上に拓ちゃんの話が書きたいので、自分から書こうとは思わないです。武ヒナのギャグだから、書けた気がするし・・・多分（＞＜；））

想像デート　　　　　　　　　　　
　
　
　その瞬間、喫茶店"キャロル"のマスターである辰は、思わず自分の頬をギュウゥゥゥッッ！！と抓っていた。
　手加減なしの痛みに、涙が出てきてしまうが、それは別に痛みの所為だけではないようであった。
　「わ・・・若・・・」
　掠れた呟きが、辰の口元から零れ落ちる。
　「―――何だよ、タツっつぁん、何泣いてやがんだ？」
　カランとドアを開けて、いつものように入ってきた武丸が、カウンターの中で自分の頬を抓りながら、涙を浮かべている辰を見て怪訝そうな視線を向けた。
　実際、その場の雰囲気は異様な程の緊張感に包まれていたのだが当の本人には、全く興味のない事らしい。
　だが、周りで凍りついたように固まっている『魍魎』のメンバーたちにしてみれば、それは驚愕に値する大事件であった。
　「たっ・・・たっ・・・」
　呆然としている『魍魎』ナンバー２の久保島など、驚き過ぎて声も出やしない。
　特攻隊長のエージに至っては、余りの事に真っ白な塩の柱と化していた。
　全ての原因は、周りの緊張した雰囲気が自分の所為だなどど少しも思っていない様子で、"泣く児も黙る・死人も裸足で逃げ出す"程の恐怖を与えるという武丸の存在感をものともせずに、笑顔でその右腕にベターッとひっついている女の子にあった。
　しかも、何が怖いかって・・・武丸が、そんな行為を許しているのは、幾ら女とはいえ初めての事だったのだ。
　「コンニチハー♪"ヒナ"子でーすっ☆」
　「わっ・・・若ーーーーッッ！！」
　周りの異様な雰囲気をものともせずに、その女の子が笑顔でそう告げた途端、辰はとうとう耐えきれなくてまるで洪水のように涙を流し始めたのであった。
　　
　
　「若が生まれてから１７年間……辰は若にお仕えしてきましたが……今日のこの日程嬉しい事はありませんでした……。つっ……遂に、若にも彼女が……ぅ……」
　いつもの定位置のソファーに座った武丸の隣に、雛子もチョコンと座っている。
そんな二人の前で、辰は目頭をハンカチで抑えながら、まだ涙を零していたりする。
　「武丸ぅ？！」
　突然の展開に、よく理解らない雛子が困ったように武丸に救いを求めると、武丸は普段からは想像もつかないような柔らかな眼差しを返した。
　こんな武丸を、天敵とも言える『爆音小僧』の"頭"の−マー坊−こと鮎川真里が見たら、思わず世を儚んで、寝込んでしまうかもしれない。
　実際、武丸を崇拝している『魍魎』の者たちですら、納得できなかったのだから・・・
　だが、納得いかなくて信じられなくて・・・抗議しようとした『魍魎』のメンバー達は、武丸が何かを言うよりも早く、泣きながら動いた辰によって全員店の外に追い出されてしまったのである。
　「気にするな・・・"ヒナ"・・・」
　更に、普段ではとても聞けないような口調に、ますます辰の気分は天にも昇る気持ちであった。
　県会議員である武丸の父親に、武丸の世話を頼まれてから早幾歳・・・本当に、こんな日がくるとはまるで夢を見ているようだ・・・と辰は感じた。
　そうして、ようやく男泣きでぐっしょりと濡れてしまったハンカチを絞った。
　「ハッ！スミマセン・・若・・・。折角、若が彼女を連れてきて下さったというのに、お茶すら出しませんで・・・」
　恐縮したように言う辰の言葉に、煙草をくわえた武丸は雛子を見た。
　「何が良い？」
　「あたし、チョコレートパフェがイイ♪」
　「かしこまりました。若はいつもので宜しいですね。」
　にっこり笑顔で明るく答えた雛子に、頷いて辰はカウンターに戻っていく。
　隣でクッと笑みを零した武丸に気付いた雛子がプーッと頬を膨らませた。
　「いま、"子供"だと思ったでしょ・・・・」
　そういう表情をするのもそうだとは思ったが、武丸は肯定も否定もしなかった。
　ただ、大きな手で雛子の柔らかな髪をクシャッと撫でてやると、途端に、雛子は膨れっ面を止めて笑顔に戻った。
　釣られて、武丸の表情も和む。
　そんな二人の様子を、店の中に入る事ができなくて地団駄を踏んでいた『魍魎』の皆さんが、ガラス越しに覗き見てしまいパニックに陥っていた。
　『ああぁぁーーー、武丸が壊れていくぅ・・・・』
　『武丸うぅぅぅ（>へ<）』
　店の前は営業妨害も甚だしい、阿鼻叫喚の地獄絵図と化しているようであった。
　「お待たせしました。」
　トレイに、チョコレートパフェとブランデーティを乗せた辰が、それらを二人の前に置いていく。
　「いただきまーす♪」
　「ところで、若・・・。雛子様とは、どちらで？」
　にっこりと笑ってチョコレート・パフェをつつき始めた雛子は、髪を茶に染めている処以外は、"レデース"に見られる迫力が破片も見えなくて、まるで普通の女の子のようなので、二人がどうして知り合ったのかが不思議で、辰は思わずそれを尋ねていた。
　途端に、雛子はガチャンと持っていたスプーンを落として武丸を見つめてしまう。
　「若・・・？」
　「ハナクソ・・・だよ。」
　疑問符に返ってきた答えが、また謎掛けのようだったので、辰はますます困惑した顔となってしまう。
　一口飲んだティーカップを置いた武丸は、微妙な微笑を浮かべている。
　「俺の事をハナクソ呼ばわりした女は、"ヒナ"だけだ。オモシレェだろ。」
　何かとんでもない事を聞いてしまったような気もしたが・・・武丸が自分からそんな事を言える程、雛子の事を気に入っている事は事実らしい。
　それでも・・・何かが違うと、思わずにはいられない・・・。
　―――やっぱり、育て方を間違えたかもしれない・・・・
　そうして、誰にも言えない呟きを、心の底に沈めて、辰はただ武丸の言葉に頷いたのであった。
　
　
　
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