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（このＳＳは「俺たち同好会」の東良樹さまに捧げた物です。大珠フアンの彼女の為に書いた最初で最後？！の受けっぽい大珠かも・・・。拓ちゃんが、出てくるのはドリーマーが書いたものだから（苦笑）原作でも、大珠って天羽に傾倒してたし・・・ね（ＴＴ；））
世界中の誰よりきっと
それは、強烈なインスピレーション。
自分の存在自体を、揺さぶり起こすような、激しい"叫び"。
―――途切れる事のない『旋律』が、内に秘められた"祈り"を吐き出して・・・意識の中に零れ落ちていくのは―――ナンダ？！
壊れた映像・・・ノイズだらけの世界の中に、酷く鮮明に響く・・・それは、"祈り"。
それが、何に対するものなのかも、理解などできはしなくて・・・。
だが、強く引きつけられる。
強く強く・・・意識を取り込んで逝く。
"音色"が、洪水となって全身を満たした瞬間・・・身体の奥底に眠っていた何かが、呼び起こされる。
それは、『共鳴』を伴って、全身を痺れさせるのだ。
ヘドロの海の中でもがいて・・・助けを求める罪人に、叩きつけられる贖罪。
引き寄せて引き寄せて・・・不意に突き落とされるような"感覚"。
生はんかな"ドラッグ"よりも、タチの悪い『快楽』を呼び起こす危険な"音"。
予感も何もなく、不意打ちのように飛び込んできたそれに、気付いた時には"魂"すらも飲み込まれていた。
熱に浮かされた夢遊病者のように、町中を彷徨っていた時に、耳を捕らえた―――それ。
捕らわれて、虜まれて・・・。
気付いた時には、求めていた。
それは、激しい"渇望"となって・・・ステージの上の存在を求める。
銀の髪に、褐色の肌・・・この街に相応しい『存在』。
ブルースのように魂に響き・・・ゴスペルのように、聖厳な重みは・・・だが、"祈り"と共に"怒り"すらも秘められているようで・・・。
それが、酷くアンバランスで、胸が苦しくなる。
身体の中で暴れまわる"ポイズン"が、浄化される事に怯えて、全身を震わせる。
戦慄・・・それとも・・・奮え？
背中に刻み込まれた"知恵"の力を持ってしても、それを理解する事など不可能だろう・・・。
無限の広がりを誇る"宇宙"の統べてを知る事など、誰にもできはしないのだ。
それができるとしたら・・・それは・・・。
―――それは・・・。
深い深い瞑想から、ぽっかりと意識を浮上させる。
ずっと頭の中を駆けめぐっていた"音色"は、今は聞こえなくなっている。
「気がついたかよ？」
かけられた声によって、漸く意識を取り戻した大珠は、そこが何処なのかを思い出した。
「・・・夢、見てた。」
ポツリと呟いて、ムクリと起き上がる。
「―――夢？嫌なヤツか？」
尋ねてきた相手に、一瞬口を開きかけるが・・・やがてそれを閉じるとそのまま首を横に振る。
「もう・・・忘れた。」
首を横に振った後で、笑った大珠の瞳から、涙が零れ落ちる。
「大珠？」
「何でもネー・・・ダイジョーブだから・・・。」
驚く相手の視線から逃れるように拳でそれを拭うと、大珠はゆっくりと立ち上がった。
「何処、行くんだ？」
「・・・横浜。」
ドアを出る時に掛けられた質問に、大珠は振り返る事もなくそう答えていた。
横浜ベイブリッジ・・・。
真夜中もとうに過ぎ・・・ライトアップの時間も終わって久しい時間帯は車の通りもなく、静かな空間が広がっていた。
吹きすさぶ風が、髪を浚う。
愛車のＲＤ４００を止めると、大珠は単車から降りた。
教えて貰った時は、信じられなくて・・・今も、こうしてそれを目の前にしても納得などできはしない。
いくつも置かれた花束は、そこで事故が起こったという事で・・・。
誰が置いたのか理解らない、カサブランカの花が揺れていた。
その白い花弁が、"彼の者"を呼び起こす。
全く正反対の印象でありながら、それは妙に似合っている気がした。
たった一度だけ、絡み合った視線の先にあった・・・あの"緋"い瞳に、射抜かれた時から、"魂"はずっと奪い取られていたのかもしれない。
ずっと、探していた。
"魂"を取り戻す為に、横須賀中を捜し回って・・・。
だが、"彼の者"は『横浜』で、逝ってしまったのだ。
大珠の"魂"を掴んだままで・・・。
瞳を閉じると鮮明に蘇る"フレーズ"。
ギターの旋律が、ベイブリッチを渡る風の音をかき消してしまう。
深く激しく・・・なのにしっとりとして全身を捕らえて離さない−−−"音色"。
両手で、自分の身体を掻き抱くかのようにして、大珠はその場に崩れ落ちる。
―――ずっと、求めていた。
それは、大珠がずっと望んでいた答えを、持っていたのかもしれない。
暗闇の中に差し込む一条の光のように、救いをもたらしてくれたかもしれない・・・"輝き"だったのだ。
・・・もう、ない。
それは、何処にも"存在"しないのだ。
たった一度の逢瀬だけで・・・大珠の"心"を手に入れた−龍神−は、独りで天へと還ってしまった。
「ずるいなぁ・・・お前・・・」
零れ落ちる涙は、何故だろう？
これは、何の為の涙なのか？
銀の髪に褐色の肌・・・"朱金"い眼差しの『龍神』。
浮かび上がるシルエットは、いつも大珠の意識を捕らえて離さない。
たった一度しか、出会う事のなかった相手。
たった一度だけ、絡まった視線。
どんな声で喋るのか・・・どんな考えを持っていたのか・・・それすらも、もう・・・。
永遠に、"知る"事はないのだ。
風が大珠の涙を吹き飛ばす。
それでも、それが止まる事はない。
ずっと、焦がれていた。
求めて求めて・・・気が狂う程の"渇望"を感じたら・・・それはもう"恋い"かもしれない。
苦しくて切なくて・・・逃げたのは弱さだったけれど。
"クスリ"によって感覚をマヒさせなければ、気が狂ってしまう程、焦がれていたのだ。
あの"音色"を紡ぐ事のできる―――存在に。
何を"祈"っていたのだろうか？
何に"怒"りをぶつけていたのだろうか？
"宇宙"を彷彿させる程の技術と心を持ちながら・・・彼は満たされない何かを、ずっと求めているようだった。
その姿が、自分と重なって・・・大珠は"共鳴"したのだ。
彼は、それを見つけられたのだろうか？
まだ、"答え"を見つけられない大珠は、彼にそれを尋ねてみたかった。
もう一度出会う事ができたら・・・。
それは、もう儚い夢と消えてしまったけれども・・・。
あの"旋律"をもう一度聴く事ができたら・・・"魂"を取り戻す事ができたら・・・"答え"が理解る気がしてならないのに。
手の届かない場所へと、旅立ってしまった相手。
大珠には、どうする事もできなくて・・・。
ただ、零れ落ちる涙が、切なくて・・・。
ボロボロになってしまった自分の身体を抱き締める。
きつく・・・きつく。
苦しくて切なくて・・・。
零れ落ちる涙は、一体誰のものなのか？
それすらも、理解らない程長い間・・・大珠はその場に身じろぎもせずにうずくまっていた。
やがて、辺りが薄靄から・・・明け方の紫の世界へと移っていく。
徐々に明るくなっていく場所で、大珠は漸く身体を起こした。
そうして、目の前に広がる景色に目を見開く。
静かな空間の中で、海の中から蘇るように眩しい光が広がって・・・太陽が昇り始めるその瞬間。
息が詰まる程の、感動と喜びが、大珠の全身を貫く。
眼前に広がる雄大で、神々しい風景に、カラッポだった"身体"に何かが満たされていく気がした。
遠くから、バイクの音が聞こえる。
耳に響くその音は、大珠の意識を揺さぶる。
低い重低音なエンジン音は、それが誰なのかを大珠に教えてくれた。
"彼の者"が残した愛車は、誰よりも彼が愛した者の手に渡ったのだ。
「・・・あれ？」
大珠の存在に気付いた相手が、バイクを止めて近づいてくる。
「―――大珠・・・クン？」
そっと掛けられた問い掛けに、大珠はゆっくりと振り返った。
・・・満面に微笑を浮かべた表情で―――。
ずっと探していた・・・ずっと求めていた。
それは、果てし無い程の"切望"。
孤独な"魂"を揺さぶる・・・『旋律』。
何を"祈"っていたのか・・・。
何を"怒"っていたのか・・・。
それすらも、もう理解らないけれど。
もしも・・・もしも願いが叶うというのならば・・・もう一度。
いつか、何処かで巡り会える事を"祈"ろう。
―――夢見るように生きていきながら・・・。
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