（この作品はＨＰ開設お祝いとして翠月さまに捧げさせて頂きました。千冬×拓―――他のサイトさまで見たことなかったので、好きなんですと仰って下さった時は凄く嬉しかったですｖま、ウチの千冬さんて、八尋よりも性格激しいんですけどね・・・（Ｔ▽Ｔ））　

春爛漫。
　
　
穏やかな春の風。
暖かな日差し。
　
日向ぼっこをするには最良の気候である。
　
　
―――空気は凍り付いていたが・・・。
　
　
「あーーーん♪」
にっこりと綺麗な笑顔で、目の前に差し出された物に、拓は一瞬固まった。
フォークに刺されているのは美味しそうな卵焼き。
―――勿論、嫌いではない。
問題は・・・。
隣で仁王立ちしている人物にあった。
　
　
「・・・あの・・・その・・・」
冷汗をたらたら零しながら、拓はどうやって断ろうかと思案するのだが・・・モデル並みの容姿の相手は、性格も"極上"だった。
「―――八尋ォ・・・邪魔するなら、帰れよ。」
綺麗なお姉さんと呼べそうな麗しの容貌からは想像もつかない台詞が、真っ赤な唇から発せられる。
「千冬・・・テメェが一緒に帰るンならな。」
仁王立ちしている八尋が、凄みを効かせて、静かに言った。
「―――ヤダ。」
即答である。
どうすれば良いのか、拓の方が困ってしまう。
周りを見回しても、公園を行き来するカップルは、酷く遠回りに歩いて行くばかりで・・・。
その上、視線はしっかり集まっているのだから・・・居心地の悪さは計り知れなかった。
　
　
春、うらら・・・。
いつものように電光石火で攫われて・・・。
花見をしながら、お弁当を食べようと、ハートマーク付きの台詞で言われてから―――早一時間。
そろそろ、この状態でいるのも限界かもしれない。
　
　
「ボク・・・自分で・・・その、食べたら帰って・・・」
半泣きでそう告げると、拓は綺麗に飾り付けられたお弁当箱を手に取った。
そうして、ハートマークの上に自分の名前が載っている、どうみても愛妻弁当のようなそれを、覚悟を決めて食べ始めた。
「・・・美味しい？」
ニコニコと笑顔で聞いてくる千冬に、拓はこくこくと頷いた。
味は勿論申し分ない。
作ったのが、目の前の人物であると知らなければ、これ以上美味しい物もないだろう。
だが・・・だが、である。
何が楽しくて、男同士でこんな真昼間から、お花見をしなければならないのか。
まぁ、夜にするのもそれはそれで、身の危険を感じてしまうのだが・・・。
　
　
仁王立ちしている八尋は、それこそ怒りのオーラを全身に纏っていて、近付くのも恐ろしい状態だ。
相変わらず、千冬に振り回されていると言っても過言ではない。
『嫌なら、一緒に来るな。』
そう、千冬はいつも口にする。
だがそのお陰で、後で迷惑を被るのは間違いないのだ。
以前、湘南に拓を攫って来た時も、横浜の連中が集団で取り戻しに来て、散々な目にあった記憶も新しい。
思い出して、八尋はまた苦虫を噛み潰したような顔をした。
途端に、拓の小さな身体がビクッとして、気付いた千冬の睨みを受けた。
　
　
「・・・ご馳走さまでした・・・。」
空になった弁当箱の蓋を閉じて、拓は頭を下げる。
そんな拓の様子に、千冬は麗しの笑顔を向けた。
そうして、スッと拓に近付くと、その頬にキスした。
「―――！！―――」
びっくりした拓が、慌てて離れると、千冬はぺロっと舌を出した。
その上にご飯粒。
「あ・・・っ・・・。」
瞬間で、拓の顔は真っ赤になる。
「・・・可愛い！！」
ぎゅっと、千冬が抱き締めた。
　
　
ぽかぽか陽気と、目の前の腐抜けた光景に八尋は眩暈を覚えた。
ブルブル震える拳で、千冬を思いっきり殴りたい衝動に駆られたが、寸止めした。
余りにも馬鹿馬鹿しくて。
　
　
クルリと踵を返すと、八尋はズカズカと歩いて単車まで戻って、煙草を咥えた。
横浜の連中はまだ現れそうにもない。
今頃、血なまこになって捜しているのは間違いないだろうが・・・。
その姿を想像して、少しだけ気が晴れた。
　
　
ちらほらと、桜の花びらが舞い落ちる。
春の日差しが、柔らかな影を刻む。
　
　
あと少し・・・。
もう―――少し。
　
　
『龍神』と対峙する時は―――きっと"春の嵐"になるだろう。
　
　
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