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星に降り積もる音色
冷たい風が吹いていた。
超高層のビルが立ち並ぶ街並みは、何処までも煌びやかだったけれど・・・ビルの間を渡る風は身を切るような寒さを齎した。
あの冷たいけれど優しい雪の『世界』よりも余程寒い―――場所。
想うのは・・・思い出すのは、密かな温もり。
腕の中に包み込んだその感触も、薄らいでしまったけれど・・・。
それでも、心の奥にある『存在』は決して消えることは無い。
身体だけではなく、心まで凍らせてしまいそうな冷たく乾いた風に吹かれながら、トキサダは上空を見上げた。
どんなに目を凝らしても、視界を塞ぐビルや空を焦がすようなライトの所為で、『宇宙』は何処にも見えない。
それでも、そこに存在する筈の・・・小さな“星”を捜す。
「・・・ルビィ・・・」
唇から零れ落ちるのは、切ない響き。
たった一週間しか傍にいなかったのに・・・トキサダの心を奪った唯一の『存在』。
綺麗で純粋で・・・小さくて儚くて・・・今にも消えてしまいそうな―――《紅玉》。
最初に見た時は、何処までも白い雪原の中に、まるで咲いている一輪の花のようだった。
可愛い“ウサギ”の姿をした・・・愛しい『ルビィ』。
『楽園』に帰れただろうか？
あれ程、望んでいた場所に・・・。
大切な仲間と共に―――ちゃんと戻れたのだろうか？
力の無い自分は、一緒にいる事が出来なくて・・・。
―――ただ祈る事しか出来なくて。
想いを旋律に変えて、音色を生み出すことしかできない。
いつか、届くように。
愛しいルビィに、この“想い”が。
あの柔らかな長い耳に、優しく響くように―――。
「・・・南の王国の王宮での演奏会？」
突然舞い込んできた依頼に、トキサダは目の前の人物に思わず尋ね返してしまった。
スケジュールの総てを任せている相手は、手に持っていた手紙を差し出して、もう一度同じ言葉を繰り返す。
「―――中央大陸の砂漠のど真ん中・・・南の王国の『水の王宮』からの依頼状。しかも、王子様直々の手紙付だ。更に、ギャラは破格の＜契約＞だ。スケジュール的には、どうにでもなるが・・・。どうする・・・セロニアス？」
「王子様からの依頼ねぇ・・・。」
受け取った手紙を、目を細めて見る。
それは、水色の不思議な模様の透かしが入った、とても綺麗な物だった。
「あんまり、近寄りたくない・・・なぁ・・・上流階級の誘いって、嫌な思いしかした事ないし・・・」
呟きながら、パラリと紙を開く。
今時、大昔の紙を使うという方法で連絡を取ってきた相手には、少しだけ興味を持ったが・・・過去の記憶が二の足を踏ませる。
だが、取り敢えず読んだ手紙に書かれていた内容に、トキサダは眼鏡の奥の“緋”い瞳を見開いた。
紙を持っていた指先が、動揺で震える。
信じられない想いで、再度手紙を見直すが・・・書かれている内容が変わる事はなかった。
思わず、きつく目を閉じて、手紙を握りつぶす。
「―――ラファエルっ！！今すぐ、南の王国に向かう手配をしてくれっ！！」
立ち上がって、指示を出す。
「セロニアス？」
椅子から立ち上がって強く言うトキサダの姿に、返事を待っていたラファエルは驚いた声を出す。
こんな風に感情を表に出すトキサダを、初めて見たからだ。
主従の契約を交わしてから一ヶ月・・・雇い主であるトキサダは、いつも冷静で静かな表情を変えた事が無かった。
世界中・・・いや、いまや太陽系の総てのコロニーに、その名を轟かせている『音の魔術師』と呼ばれているセロニアスは、音楽以外の総てに興味を持たない男だとばかり思っていた。
その相手が、表情を変えて・・・命令のような言葉を発したのだ。
「・・・わ・・・分かった。じゃあ、スケジュールを変更してくる。だが、今すぐというのは・・・」
「―――返事を出せば良い。演奏するから、迎えを寄越せと。とにかく、俺は今すぐに、行かなきゃならない。」
ラファエルの言葉に、更にトキサダは辛そうな表情でそう付け足した。
渡した手紙の何が、トキサダを豹変させたのか、ラファエルには理解らない。
だが、雇い主の言葉は絶対だ。
「オーケー！んじゃ、先方にそう連絡してくる。」
瞬時に頭の中で状況を纏め上げると、少しだけ肩を竦めながらラファエルは部屋を出て行った。
一人部屋の中に残ったトキサダは、再び椅子に座り込むと、両手で頭を抱え込む。
「―――どうして？・・・何があったんだ、ルビィ・・・」
震える声が、唇から零れ落ちる。
手紙に書かれていた内容が、本当の事ならば、それはトキサダにとって絶望以外のなんでもない。
「・・・ッ！！」
考えたくない・・・決して、望んでいなかった結末。
手放したのは、そうならない為だったのに―――。
机の上に、握り潰した手紙が転がる。
書かれていたのは、とても短い文章。
《―――我が王宮に居る赤い髪の“眠り姫”が、貴殿の音にだけ反応して、涙を溢している。“眠り姫”を起こすために、ぜひ王宮で演奏して欲しい。》
たったそれだけの文章だったけれど、トキサダには書かれている“眠り姫”が誰を指しているのか一瞬で把握できたのだ。
地球の王さまに売られる為に、『楽園』から無理やり連れてこられたと泣いていた小さな『存在』。
元の世界に返すには、あの時の自分では余りにも力が無かったから・・・張り裂けそうな想いを押し込めて手放したのに、やはりダメだったのだろうか？
眠りについているのは、何故なのか・・・？
しかも、自分の曲を聴いて泣いている―――。
考えれば考える程、辛い考えにしか行き着かない。
もしも本当に酷い状態に居るのなら、今度こそ助けたい。
今の自分の全ての力を使って―――取り戻す。
自分が見つけたたった一つ・・・《紅玉》の宝物を。
顔を上げたトキサダの“緋”い瞳が、強く輝いた。
翌日迎えに来た南の王国専用の飛行艇で、砂漠のど真ん中にある青い宮殿に辿り付いたトキサダは、その様式の美しさに驚いた。
飛行艇の中から外を見た時は、一面の砂の世界だったのだ。
途中、砂嵐に巻き込まれかけたのが、嘘のようにその宮殿は、美しかった。
何処から持ってきているのか、宮殿全体を豊富な水が飾っているかのようにその流れを煌かせている。
「―――ようこそ、水の王宮に。俺は、“南国”の第２王子のマサトと言う。初めまして。『音の魔術師』セロニアス。摩天楼の都市からでは、長旅で疲れただろう。ここは、俺のプライベートの城だから、気兼ねなく過ごしてくれ。」
出迎えた王子は、金色の明るい髪に、透明な水のような淡いブルーの瞳をしていた。
しかもその肌の色は、とても砂漠の照りつける太陽の国の者とは思えない程に、白かった。
却って、トキサダの褐色の肌の方が余程この国の住人に見えただろう。
だが、その笑顔は頭上の太陽に負けない程、光り輝いている。
上流階級にありがちな他人を見下すような雰囲気は何処にも無くて・・・。
トキサダよりも年下に見える風貌は、酷く無邪気に見えた。
そんな、全く想像していなかった相手に、トキサダは戸惑ってしまう。
とても、ルビィ達を売り買いするような・・・そんな風に見えなったから・・・。
「・・・突然の無理な依頼で戸惑ったと思うが・・・俺の大切な“人魚姫”の悲しみを取り除く為に、手を貸して欲しい。」
脇を水路の流れる長い廊下を歩きながら、マサトは、そうトキサダに言った。
「・・・“人魚姫”・・・手紙には、“眠り姫”と書いてあったが・・・」
違和感に、トキサダは尋ね返す。
「あぁ。詳しい話は荷物を置いてゆっくりとして貰ってからで・・・。演奏の準備もあるだろう？実は、申し訳ないんだが・・・ある理由があって、“眠り姫”に直接逢わせる訳にはいかない。」
「―――何故？」
「それは・・・本当に申し訳ないが・・・言えない。」
続けられたマサトの言葉に、トキサダは“緋”い瞳を細める。
マサトは、困ったように言葉を濁した。
そんな話をしている内に、一つのドアに辿り付いた。
「この部屋が貴方の部屋だ。滞在中は、好きなように使って構わない。宮殿内を歩いて貰っても大丈夫だ。宮殿内の者たちには、貴方に不自由させる事無いように言い聞かせてある。慰めが欲しければ、父の王宮から女たちも連れてこよう。―――だが、俺の“人魚姫”はとても人見知りをするから・・・あそこに見える『蒼の離宮』には近付かないで欲しい。」
オアシスのような瞳に強い光が滲む。
途端に、幼げな容貌が、酷く強い印象を与えた。
もしもその言葉を守らなければ、どうなるか保障はしないというのだろう。
「・・・理解った。」
トキサダは、その瞳を真っ直ぐに受け止めて、そう告げた。
それから、示された部屋の豪華なドアノブをゆっくりと回した。
「―――俺としては、貴方の音にとても興味がある。外の世界の事もいろいろと知りたい。貴方は、《宇宙》にも行った事があるのだろう？羨ましい・・・。時間が来たら、使いを遣すから、ぜひ一緒に夕食を取って欲しい。」
にこやかに告げるマサトの表情は、すっかり元に戻っていた。
―――ある意味、食えない相手だと理解した。
全面的に高圧的な態度で無いだけに、上手く言い包められてしまう。
しかも、完全に無意識に使いこなしているようだ。
生まれながらの――本物の上流階級者。
全てを手に入れていて・・・飢えなど、決して知らないだろう幸福な『者』。
去り行く背中越しに告げられた言葉に、トキサダはそんな感情を持った。
部屋に入ると、そこは客室とは思えないほど豪華な造りをしていた。
中央には、キングサイズのベッド。
幾重ものラシャ布が、涼しげな様相でそんなベッドを包み込んでいる。
置かれているのは、白を基調にして統一された調度品。
一目見ただけで、それが物凄く上等な物なのだと理解るほど、それらは綺麗に磨かれていた。
本当に、世界が違う。
ここは、王子のプライベートの宮殿だと言っていた。
ならば、本当の王宮はもっと凄いのだろう。
“地球”という星の幾つかに分かれた王国を統治している一族は、桁違いの存在なのかもしれない。
美しいフォルムの棚の上に、自分の少ない荷物が置いてある。
最近はいつも一定の場所に落ち着かないトキサダは、持っている荷物も余り無いのだ。
今回は強行の旅程だったので、唯一の家族と呼べる“兄弟”も連れて来ていない。
連れてきて、厄介ごとに巻き込む訳にはいかなかったから―――。
まず心を落ち着ける為に・・・愛用のギターを手にとって、いつものように弦を調節する。
慎重に、丁寧に音階を定めていく。
紡ぎ出される調べが、部屋の中を満たしていく。
思っていた以上に、この国は暑かったのだ。
大昔の遺物のような形式のこの宮殿も、流石に温度調節はしてあるようなので、灼熱地獄とは言わないが・・・それでも、数時間前までは真逆の季節だった冬の『摩天楼の都』から来たのだから、調節は思った以上に難航した。
ふと気付けば、窓から赤い光が差し込んできた。
演奏していた手を止めて、窓際に近付いて、眼前に広がる景色に声を失う。
地平線に吸い込まれていく巨大な太陽が、砂漠を“朱”に染め上げていた。
「・・・凄い・・・」
幻想的な風景に、喉の奥から感嘆の声が漏れた。
息をするのも忘れて見入ってしまいそうな、美しくて・・・息苦しいまでの情景。
思わず零れ落ちたのは、涙だった。
吸い込まれるように動いて、窓を開けてバルコニーへと移動する。
手すりに身を預けて、両手を差し出す。
「―――まるで、ルビィの瞳みたいだ・・・」
思い出すのは、キラキラとした赤い瞳。
あの瞳で見たら、この世界はどんな風に映るのだろう・・・。
そんな事を思って、トキサダは酷く切なげな表情を浮かべた。
パシャンっ！
突然聞こえてきた水音に、トキサダはハッとしたように、音がした方に視線を向けた。
「――――――」
「・・・・・・」
見詰め合ったのは、ほんの数秒だったかもしれない。
それでも、その時間はトキサダにとって永遠にも感じられる瞬間だった。
すぐ傍の池の彫刻の影に隠れるようにしていたその『存在』。
夕陽に照らされて赤く光る長い髪・・・その顔は―――。
動いたのは、相手が先だった。
弾かれるように身を翻えそうとした相手の腕を、トキサダは思わず掴んでしまった。
「待って！！―――ルビィ！！」
考えるより先に、叫びが口を付いて出る。
追いかけて、伸ばした腕に力を込めてその軽い身体を引き寄せる。
「・・・あっっ！！」
「―――その手を離せ！！」
逃がさないように腕の中に包み込んで抱擁しようとしたトキサダは、次の瞬間目の前に現れた真っ白な白刃を見て目を見開いた。
いつの間にか直ぐ傍に存在していたマサトが、腰に帯刀していた剣をトキサダに突きつけていた。
「・・・もう一度、言う。その手を離せ。」
「ダメ、マサト・・・！」
有無を言わせない静かな口調に、底知れない怒りを感じ取って、一瞬躊躇したトキサダは、腕の中に包み込もうとした相手が発した声に、愕然とした。
そうして、落ち着いて相手を見直して、その姿がルビィではない事に、気付いて・・・泣きそうな表情を浮かべた。
「・・・ルビィじゃ・・・ない・・・」
絶望の言葉が、口を付いて出る。
赤い髪はルビィの物よりも金髪に近く煌いているし・・・その瞳は透明度を秘めた水の《彩》だった。
決定的な違いは、性別とその身体特徴だった。
目の前にいたのはルビィと同じ顔をした“人魚姫”だった。
本来ならば足が生えている筈の下半身が、キラキラと光る不思議な色彩を放つ鱗を持った尾びれだったからだ。
「・・・駄目じゃないか・・・マリン。・・・あれほど、離宮から出ては駄目だと言っておいただろう？」
トキサダが愕然と膝を付いて腕の力を抜くと、そのまま人魚姫を奪い返したマサトが、腕の中の愛しい者を抱き締めて呟く。
「―――ご・・・ごめんなさい・・・。綺麗な音が・・聞こえて・・・どうしても気になってしまって・・・」
「もう良いよ。だから、泣かないで・・・俺の“人魚姫”。」
シュンとしながら、小さく謝る人魚姫の眦に口付けて、マサトは優しく言葉をかける。
そうして、困ったようにトキサダを見返した。
「さて・・・。『音の魔術師』セロニアス。貴方は、秘密を知ってしまった。こちらの落ち度とはいえ、厄介事は少しでも無くしたい。しかも、貴方は俺の大事なマリンを抱き締めようとした・・・」
キラリと光る瞳は、冷徹な陰りをひめている。
「・・・ち・・・違うのっ！！マサト王子・・・この人は・・・私とルビィを間違えただけだから。」
「マリン・・・？」
「さっきも、ルビィの名前を呼ぶ声が聞こえたの。それで、理解ったから・・・。ルビィがどうしてこの人の音楽を聞くと涙を流すのか・・・。」
マサトの腕の中で、マリンは静かにそう言うと、トキサダに向き直った。
「貴方が・・・トキサダなのでしょう？。サフィが言っていた、ルビィの待っている人。」
続けられた言葉に、トキサダはビクッと身体を震わせて、ノロノロと顔を上げる。
別人だと言うことに打ちのめされていた心が、届いた台詞に息を吹き返す。
「―――やはり、ルビィもここに居るのか？あんなに帰りたいと泣いていたのに・・・。だから、俺は離れて・・・。」
愕然とした表情のまま、すがる様に問い掛ける。
「・・・捕まって、ここにつれて来られたのか？幾らでルビィを買ったんだ？！あんなに小さくて儚い『存在』を、どうして欲しがるんだ？！ルビィたちにだって、感情はあるのにっ！！無理やり『楽園』から引き離すなんて・・・っっ！！」
叫ぶように言うトキサダの頬を、涙が伝う。
切なくて愛しくて・・・壊れてしまいそうな・・・溢れてしまいそうな心を押し込めて、身を切るような思いで離れた事すら、後悔ばかりで―――。
力の無い自分では、あの時は、ただ祈る事しか出来なかったから。
「待ってっ！！貴方も何か誤解してるわ。―――マサト王子は、私を買ったんじゃなくて・・・助けてくれたの。そうして、ここにずっと匿ってくれているのよ。ルビィもそう。眠りについてしまったルビィを連れて動くより、ここに置いておいた方が安全だからって、わざわざ言ってくれた優しい人なの。酷い言葉を言わないで・・・お願い・・・」
「マリン・・・」
マサトに掴みかかろうとしたトキサダに、マリンが必死に言葉を伝える。
眉を寄せて、苦しそうな表情でトキサダの叫びを聞いていたマサトが、そんなマリンを優しく抱き寄せる。
「そうか。貴方が、ルビィの・・・。ヒロシたちも探したが、どうしても消息が理解らなくなったと言っていた・・・トキサダなのか。」
「―――ヒロシが？」
「・・・あぁ。二ヶ月前に、ここにやってきた。マリンの仲間のサフィを連れていた。その時に、ルビィの事を聞いて・・・保護を申し出たのだ。“眠り姫”を抱えたままでは、動く事も侭ならないようだったから。貴方がルビィの待ち人なら、会わせよう。“眠り姫”の目を覚まさせてやってくれ。案内する。・・・マリン、良いか？」
「え・・・えぇ。」
腕の中からマリンを離すと、マサトは持っていた剣を腰に戻して先に立って歩き出した。
マリンは、池に身を滑らせて、そんなマサトの横に付いていく。
思ってもいなかった展開に、慌ててトキサダもその後を追いかける。
どうやら、トキサダの想像していた最悪の状態では無い事に、漸く意識が冷静に落ち着いた。
そうして、眉を顰める。
どうしても、自分がルビィの待ち人だといわれる覚えがないからだ。
一方的な思いでしかなかった。
確かに、共に過ごした一週間で、色々な話をしてずっと傍らにいたが・・・。
幾度も生死の淵を彷徨っていたあの頃は、その存在が消えてしまわないように祈るのが精一杯で、他の事まで考えていなかった。
そうして、巡り合った仲間に助けられて、共に帰る為にこの腕の中から手放した。
自分の一方的な想いで雁字搦めにして、《紅玉》の輝きを失いたくはなかったから。
自分の心の痛みよりも、ルビィがずっと口にしていた“願い”を叶えて欲しかった―――から。
何故、“眠り姫”と呼ばれているのか？
どうして、『楽園』に戻っていないのか？
溢れ出る疑問が口を付いて出そうになるが、前を歩くマサトの背中は、声を掛けられるのを拒絶しているかのように見えて・・・トキサダは口を開けなかった。
答えは、この先にある。
ルビィに逢えれば・・・その姿を見れば―――全てが理解る筈だから。
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