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（最初に断っておきますが、物凄く甘い話です。地下室じゃないけど、確実に屋根裏行のSSです（・∀・）ノ折角のバレンタインなので幸せな甘いお話を書きたかったんですが・・・まさかこんなに砂糖塗れみたいに甘くなるとは・・・＜（TДT；）＞ﾉｵｫ！ううぅ・・・新婚でもないのにこんなにイチャイチャしやがってぇ・・・orzｹﾞﾌｯ）
Sweet Logic
持っていた紙袋を、右手から左手に持ち替えてドアホンを押す。
直ぐに開けられたドアの向こうに、現れたのは今朝出ていく時と変わらない様子の拓だった。
「おかえりなさい。」
「おう。ただいま。」
柔らかな笑顔の拓に、秀人も笑みを浮かべる。
そうして、少しだけ困ったように左手を差し出した。
「すまん・・・これ、会社で貰っちまったんだが・・・お前が食べると思って持ってきた。」
鞄と紙袋を受け取った拓も、同じように苦笑を零す。
「今年も一杯貰っちゃったんだ。秀人くん、格好良いもんね。」
「あぁ？義理だ、義理。指輪してんのに、本気で寄越す奴なんかいねぇだろ？」
ネクタイを外しながら、拓の身体を引き寄せて、秀人は俯き気味の顔を上げさせる。
「俺が喰うのは、お前からのだけだぞ。」
そう言って、軽く口付ける。
途端に、拓はカァアっと頬を紅潮させた。
「・・・う・・・うん。あ、ごはん、できてるから！」
何時まで経っても初々しい仕草で秀人の腕の中から抜け出すと、真っ赤になったまま鞄と紙袋を抱えて拓はパタパタと逃げ出した。
振り返った瞬間の拓の耳まで赤かったので、秀人は笑みを堪えられなかった。
２月１４日のバレンタインデー。
今日がその日だと秀人が思い出したのは、会社に出社して直ぐだった。
自分の机の上に山のように築かれた綺麗に包装された包みに、今月はそういうイベントがあった事を思い出したのだ。
入社してすぐに目立つのはまずいと思って、暫く指輪をしていなかった所為で、最初の年のその日は直接持ってくる女子社員が多かったのだが・・・ここ２・３年はこんな風にただ贈り物だけが机の上に置かれている。
既婚者の自分に何を期待しているのかは全く理解出来ないが、最初の年に―――ちゃんとホワイトデーにはお返しをしなきゃダメなんじゃないの？―――と拓に言われて、律儀に拓が用意した物を渡したのも影響しているらしい。
会社の中の付き合いなので、義理として受け取るし、付き合い上でお返しもするけれど、妻以外の物は口にしないとお前が言い切ったのが、一番駄目だろう？との、上司からのありがたくもない詞は、確かに今の状態を考えると不味かったと今なら言える。
かくして秀人は、既婚者の癖に会社でも１・２を争うほど、女子社員の間では人気者であった。
ずっと拓にしか気持ちが向いていないので、本人は全く気付いていなかったりするのだが・・・。
ダイニングで食事をした後で、リビングにあるコタツに入って、秀人は今日のニュースをテレビで見ていた。
一服しながら、マグカップを傾けて、コーヒーを味わう。
紫煙と共に、一日の疲れがゆっくりと消えていく。
「お待たせ。」
暫くすると、キッチンで洗い物を終えた拓がリビングに戻ってきた。
「今夜は、ちょっと寒いね。」
言いながら、コタツに入って温まろうとするのを秀人の腕が捕まえて引き寄せた。
「・・・秀人、くん？」
「こっちの方が、あったけぇぞ。」
そう言うと、秀人は拓を自分が入っている場所に座らせて抱え込むように抱き締めた。
「・・・うん。温かいね、秀人くん。」
ほんのりと頬を染めながら、それでも甘えたように擦り寄ってくる拓に、引きずり込んだ秀人の方の理性が崩壊しそうだ。
「―――拓・・・たく。」
その名を呼んで、何度もキスをする。
目元や頬や髪先にキスをしながら、ゆっくりと腕の戒めを強める。
「・・あ・・・ちょっ・・・」
雰囲気に流されそうになっていた拓が、急に目を開けて秀人の身体を離そうとする。
「拓？」
「えっと・・・あの・・・その・・・」
何かを言いたげな拓に気付いて秀人が問い掛けると、途端に拓はしどろもどろになって目線が泳ぎ始める。
それが、拓が言いにくい事を言いたい時の癖だと知っている秀人は、安心させるようにその背を撫でて、黙ったまま拓の言葉を待った。
「・・・一緒に、・・・お風呂に・・・」
ゆでダコのように真っ赤になりながら、消えそうな声で拓が告げた言葉に、秀人は一瞬息を詰まらせた。
思わず聞き間違いかと拓を凝視してしまう。
「・・・えっと・・・だから・・・その・・・ボクからの、バレンタインで・・・」
しどろもどろに目線を落として告げる拓の声が、ほんの少し震えている。
物凄い恥ずかしがり屋な拓からの、思ってもみなかった誘い。
秀人が否と告げる筈も無くて。
「理解った。」
「・・・っ？！」
スクッと立ち上がると、秀人はひょいっと拓を抱え上げた。
「あの、秀人くん？」
「一緒に入ろうな。」
驚きに目を丸くする拓に向かって、秀人は極上の笑顔を浮かべた。
途端に、拓はかあぁと頬を染め上げて・・・それでも、小さく頷いた。
「あのね・・・ちょっと、待ってて。」
脱衣所で互いに服を脱ぐと、先に拓がバスルームに入った。
開いたドアから秀人が覗くと、何処から持ってきたのか、拓が入浴剤の袋を開けてバスタブの中に入れているのが見えた。
「―――拓？何だ、それ？」
「え？あ・・・」
見る見る内に、バスタブの湯が信じられない色に染まるのを見て、秀人が思わず声を掛ける。
同時に、甘ったるい匂いが湯気と共に立ち上って、漸く秀人は理解した。
「チョコ・・・か？」
「う、うん。あのね、『ショコラ・バス』っていう商品で、一応アロマ系の入浴剤なんだ。秀人くん、本物の甘いチョコいつも無理して食べてくれてんじゃないかって思って・・・これなら、雰囲気だけでも良いかなぁって・・・でも、凄い色だね・・・」
秀人の確認するような問い掛けに、説明しながら拓も困ったように肩を落とす。
見た目真っ黒な湯色が、あまりにも違和感だったからだ。
「あ、でも、色は凄いけど・・・ちゃんとお湯だよ？」
かき混ぜるように手を入れた拓が、普段と変わらない感触に少しだけホッとしたように笑みを浮かべる。
そんな拓の様子に、秀人は腹を括った。
バス内に充満する甘ったるい匂いは、思った以上に脳内をかき乱したが、それでも自分の為に拓が用意してくれた物を否定する秀人ではない。
「取りあえず・・・先に洗うか。」
苦笑して、秀人はシャワーヘッドを持って、コックを捻った。
途端に、温かくて透明な湯が溢れ出る。
新しい湯気に、充満していた甘い匂いが和らいだ。
互いの頭や身体を洗って、散々じゃれ合ってから、二人でバスタブに身を浸かる頃には、すっかり匂いにも慣れてしまっていた。
甘ったるいチョコの匂いが、互いの身体からも匂ってきそうな状態だ。
「お前の身体からもチョコの匂いがするな。」
「え？ほんと？」
腕の中で、自分に凭れ掛かる様に入っている拓の項にキスしようとして、秀人は微笑った。
甘い匂いにうっとりとしていた拓は、秀人の言葉に驚いたように身じろいだ。
「あぁ。」
そんな拓の動きを腕で抑え込むと、秀人は項に甘く噛み付いた。
「―――なぁ、今年は“これ”を喰っても良いのか？」
ビクンッと身を竦ませた拓の耳元まで舌を這わせた秀人が、甘く強請る。
その言葉に含まれている欲情に、拓の身体が大きく震えた。
「・・・ダメ、か？」
「・・・っ」
拓が当惑しているのを理解っている秀人は、畳み掛けるように耳元で囁いた。
途端に、腕の中の拓の肢体が弛緩する。
喉元まで赤くなった肌が目の前にあって、秀人の目を焼く。
こんなに美味しそうなモノを、我慢できる筈も無い。
それでも、身体がその気でも心が追いつかないと酷く泣かせてしまう事も知っているから・・・甘い肌を口付けで堪能するだけで抑え込んでいる。
「―――ぃぃ、、、・・・よ。」
やがて振り向くように秀人を仰ぎ見た拓が、真っ赤な顔のままで、蚊の鳴くような声を出す。
目元を滲ませたまま色香を滲ませて、羞恥に震えながらも必死に受け入れようとする拓の姿に、秀人の全身を物凄い衝撃が付き上げる。
何時まで経ってもこういう行為に慣れなくて、恥じらうその姿が可愛くて愛しくて大事にしたいと思う半面で、滅茶苦茶に乱れさせて愛したくなる。
「―――たく、っ！」
「・・・・っ、んぅ」
直ぐに顔を俯いてしまう癖がある拓の顔を上げさせたまま、秀人は噛み付くように口付けた。
ビクッと怯える拓の背を抱え込むようにゆっくりと愛撫しながら、甘い唇を堪能する。
秀人にとってはチョコなんかよりもずっと、甘くて蕩けそうな存在。
甘ったるい匂いはどちらかと言うと苦手なのだが、直接喉を詰まらせるような胸やけは今日は起きない。
ただ甘い匂いの拓を腕に抱いて、その存在総てを残らず食べ尽くすだけだ。
慣れない匂いに神経を侵されて、貪らないように身体をコントロールするのが、一番難しいかもしれない。
そんな事を脳裏の片隅に考えながら、秀人は口付けを深くしたまま、静かにバスタブの栓を抜いた。
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