＜第一章・後編＞

　
夜空には、美しい月が輝いている。
月光を全身に浴びたトキサダは、珍しく上機嫌で夜の散歩に出ていた。
昼間、陽光の下で睡眠を貪ったので、体力・魔力共に十分にある。
屋根の上を“翔”びながら、夜の世界を満喫していたトキサダは、不意に何処からかの視線を感じた。
途端に、銀の髪がザワッと逆立っていく。
“闇”の中、ナニかが居た。
限りなく同類に近い＜モノ＞。
　
　
それは、軽やかな動きで月光の中に現れた。
紫の鬣に、黄金の瞳。
トキサダと同じように人型を取ってはいたが、＜ニンゲン＞ではない。
『・・・魔物か？』
トキサダの問い掛けに、相手は黙ったままトキサダを見つめていた。
『見逃してやるから、消えろ。』
冷酷な笑みを浮かべて、絶対的な威圧感を見せ付ける。
少しでも、知恵のある魔ならば、トキサダの容姿を見て攻撃してくるのはいない。
ドラゴン族というのは、最強の証でもあるのだから。
『―――セロニアス・・・。』
不意に相手にそう呼ばれて、トキサダは眉を潜めた。
その名で呼ばれるのが、２度目だからだ。
だが、トキサダの記憶の中にその名は無い。
『オレはトキサダだ。セロニアスなんか知らない。』
言い切って、身を翻す。
相手が追いかけてこない事を確認しながら、トキサダは“飛翔”した。
折角の夜の散歩が、何だかつまらなくなって・・・。
気分を治す為に、タクの元に戻る事にしたのだった。
　
　
「何処、行ってたんだ？」
窓から戻ってきたトキサダに、気付いたマサトが問い掛けた。
『散歩。』
タクの寝顔を見ながら、トキサダはボソリと答えた。
「途中で、ナニかと出会わなかったか？」
真面目な顔で言うマサトに、今度は応えがない。
「別に、オマエが誰と会おうと構わないけど・・・魔を惹き付けてくるのは、止めろよな。」
言って、マサトは真剣な顔付きとなって、窓の外に身構えた。
ハッとしたように、トキサダもタクを庇う。
先程まで月明かりが差し込んでいたのに、今は真っ暗だった。
暗雲が、月の光を遮って・・・なのに光る黄金の双眸。
「タクちゃん？！起きてっ！！敵だ！！」
叫んで、マサトは印を結んだ。
只ならぬ気配に目を覚ましたタクも、慌てて体勢を整える。
「マー坊くんっ！！」
物凄い爆発が起きて、部屋の中を渦が巻いた。
吹き飛ばされた窓枠の欠片が、マサトの頬を掠めて・・・傷を作った。
タクはトキサダが庇ったので、無傷だったのだが・・・。
「駄目だっ！！あいつには、術が通じないっ！！オレたちに跳ね返ってきちまう！！」
焦ったように言うマサトの言葉に、タクは全身に震えが走った。
こんな状態になって初めて、ヘイゾーの言葉が正しかったのだと理解した。
剣を使える者をパーティに入れないで旅をしようと思ったのは、自分の我が侭だったのに、それを快く受け入れてくれた大切な仲間を、こんなにも危険な目に合わせてしまった。
術が使えないのでは、タクやトキサダの攻撃も効かないだろう。
それ以上に、見えない敵のレベルが自分たちよりも上だと理解ってしまった事が、情けなくて・・・悔しくて・・・。
＜―――ヒデトくん・・・ボクに力を貸して・・・ヒデトくん・・・＞
それが、勇気を出す呪文だとでも言うように、タクは心の中でヒデトの名を何度も呟いた。
深い“想い”。
在る筈の無い―――それでも、一番大切な・・・。
熱い感覚が、身体の奥底から湧き上がってくる。
ゆっくりと、だが確実に形になっていく膨大な＜気＞に、反応するようにタクの荷物が光った。
全ての魔を打ち払う、聖なる白銀の輝き。
「タクちゃん？！」
「―――力を貸して、ヒデトくんっ！！」
袋の中から、ヒデトの形見の愛剣を取り出したタクは、闇に向かってそれを振り翳した。
途端に、眩い程の閃光が闇の中の敵を貫いた。
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・！』
長く尾を引いた耳障りな断末魔が、辺りに響き渡り・・・“闇”は消滅した。
「やったぁ♪」
『いや・・・まだいる。』
嬉々として、タクに抱きつくマサトに、トキサダが忠告する。
薄暗い部屋の中、月光を浴びて人が立っていた。
「・・・ここは・・・何処だ・・・？」
紫の髪を靡かせて、呆然としたように呟いている。
そして、タク達を見て、顔色を変えた。
「お前たちが、オレに妖しい術を掛けやがったのかっ？！」
牙を剥く相手には、先程までの妖気は感じられない。
それでも、相手から魔の気配を感じ取って、マサトが動く。
「―――オマエが“ムラサキ”か？」
慎重に距離を取りながら、タクの傍らに移動する。
相手に術が効かないのであれば、今度はマサトがタクの持っている剣で叩き出そうと思ったからだ。
「オレは・・・ヒザキ。『ロクサーヌ』の頭だ。その剣は“シルバー・ホワイト”だな。オレの短剣と反応している。オマエが＜ゲドウ＞のヒデトか？」
タク達の様子を見てから、頭を振って気を取り直した相手は、ヒザキと名乗った。
そうして続けられた台詞に、タクは大きく瞳を見開いて身を乗り出した。
「―――ヒデトくんを、知っているのっ？！」
思いがけなかった名に反応したタクは、止めようとしたトキサダの腕を潜って、ヒザキと真っ向から向かい合った。
「・・・ヒデトじゃないのか？じゃあ、“シルバー・ホワイト”は消滅しないで、『持ち主』を変えたのか・・・。オマエは何者だ？」
きつい切れ長の目が、タクを見通すかのように細められる。
その強い視線に、タクは急に不安になった。
だが、それを遮るようにトキサダがタクの身体を腕に包み込んだ。
『オレの契約者だ。』
そうして、真正面から対峙する。
お互いに一歩も譲らないような空間に、タクは困ったようにトキサダの腕を外そうともがく。
「―――ただの“精霊使い”に、＜十宝＞の一つに数えられる“シルバー・ホワイト”が扱える筈もない。」
「ヒデトくんは、ボクの大事な親友だっ！これは、彼の形見だけど・・・ボク達を護ってくれたんだ・・・。」
「・・・形見？」
嘲るように告げるヒザキに、タクは“想い”を口にする。
途端に、表情を変えたヒザキは、何かに思い当たったようだ。
「なら・・・最近、＜十宝＞を狙って魔物たちがざわついていやがるのは、本当の事だったのかよ・・・。」
『オマエも、操られてた。』
呟くヒザキに、トキサダは冷たく言い放つ。
「このオレが・・・？」
『オマエ、＜人狼＞だろう？オマエをムリヤリ変貌させた奴が、さっき断末魔上げて消滅した奴だ。だから、オマエもタクちゃんに救われたって事さ。』
トキサダの台詞に、ヒザキはカッと表情を変貌させた。
「ちょっ・・・トキサダくん・・・。」
「オレがこのチビに・・・？」
言い切るトキサダに、タクが恥ずかしそうに顔を赤くすると・・・ヒザキはショックを受けたような顔をした。
「そうだよな。どう考えてもさっきのヤツとはレベルが違うもん。良かったなぁ、タクちゃんに救われて。」
そんなヒザキの動揺も知らずに、マサトが追い討ちを掛けた。
マサトにしてみれば、本気で思った事を口にしただけなのだが・・・。
「・・・フザケンナッッ！！」
ブルブルと拳を震わせて、ヒザキは本気で怒っている。
部屋の空気がビリビリと震えた。
その剣幕に、思わずタクがビクッとすると、途端にヒザキの懐から“緋”い光が放たれた。
それがタクの全身を包んだので、ヒザキは驚いたように目を見開いた。
タクの目の前には“緋”い光に包まれた短剣が浮かんでいた。
すると、その光に共鳴するようにタクが持っていたヒデトの剣からも白銀の光が湧き上がり・・・同じようにタクを包み込む。
「『タクちゃんッ！』」
トキサダとマサトの声がハモる。
「―――これって・・・何？」
自分を包み込む光の渦に、タクは不安そうに二人を見返すが・・・持ち霊のトキサダでさえ、タクに触れる事は出来なかった。
やがて、光の渦はまるで吸い込まれるように消えてなくなり―――後には静寂が残る。
短剣は何事も無かったかのように、消えて・・・ヒデトの剣も光を発しなくなった。
『タクちゃんッ！』
「何処もおかしいトコない？！」
「・・・う・・・うん・・・多分・・・」
ぎゅっと抱きつくトキサダとマサトに、タクは自信無さそうに呟く。
余りの出来事に、思考回路がうまく作動しないのだ。
「・・・・・・。」
思わず自分の懐を確かめてしまったヒザキは、そこに確かに短剣がある事を確認すると小さく頭を振った。
そうして、自嘲気味な笑みを零す。
「―――チビ・・・。オマエ―――＜神子＞だな。」
「―――みこ・・・？」
「あぁ・・・＜十宝＞全てを扱える者だ。」
ヒザキの言葉に表情を変えたのは、マサトだ。
「バカな事、言うなよっ！！あれは、特別な『力』がある者で・・・っ！！」
蒼褪めた顔で、信じられないと首を横に振る。
「・・・＜十宝＞が選んだんだから、間違いネーぞ。仕方ねぇ・・・オマエが＜神子＞なら話は別だ。このカリは返す。―――覚えていろ。」
少し怒ったようにそう言うと、ヒザキは壊れた窓際に立って、明け方の街を一望してから身を翻した。
素早い身のこなしで、その姿はあっと言う間に薄闇の中に消えて行ってしまった。
「・・・はぁ・・・」
緊張の糸が切れたタクが、へなへなとその場にへたり込んで、溜め息を漏らす。
『タクちゃん？』
「―――何だか・・・疲れたぁ・・・」
自分で身体に力が入らない状態のタクを、トキサダが支えてやる。
「・・・タクちゃんが・・・神子？」
ブツブツと呟くマサトは、完全に自分の考えに没頭しているようなので、ここぞとばかりにトキサダはタクを抱きしめている。
小さくて、柔らかくて、触り心地が良くて・・・ひなたの匂いがする。
トキサダが見つけた“唯一”の居場所。
タクが何者であろうと、トキサダには関係が無い。
誰が何を言おうとも、トキサダはタクの傍に居られれば良いのだ。
―――それが、トキサダの望み。
トキサダにとって、タクは“精霊使い”なのだ。
また、タクが“精霊使い”で良かったと思っている。
だから・・・タクをトキサダから奪おうとしなければ・・・タクを悲しませたり、傷付けたりしなければ―――後の事はどうでも良かった。
『タクちゃん・・・。』
腕の中にタクを包み込んだまま、トキサダは美笑を浮かべていた。
　
　
結局、膨大な精神力を使い果たしたタクは暫く寝込み・・・漸く自分の力で起き上がれるようになるまで一週間が掛かってしまった。
その間に、マサトは用事があるからと言って、タクの護りをトキサダに任せて何処かに出掛けていたのだが・・・タクの体力が戻った頃に帰ってきた。
その手に、一本の杖を持って。
「・・・マー坊くん？」
「うん。オレの武器。多分、＜十宝＞だと、思う。」
タクの問い掛けに、マサトは真剣な顔でそう答えた。
「これも・・・。」
不思議そうに手を触れようとしたタクに、杖が反応する。
ユラリと立ち上がったのは、“真紅”の光。
それが、吸い込まれるようにタクの身体に入っていく。
「―――やっぱり・・・。」
それを確認したマサトは、小さく呟くと一度口を閉ざした。
「・・・マー坊くん？」
今まで見た事も無いようなマサトの真面目な顔に、タクはどうすれば良いのか理解らない。
＜十宝＞というのが、何なのかも知らないのだ。
しかも、＜神子＞と言われても、実感が無いのだから尚更困ってしまう。
「＜十宝＞って、何？ボクはただヒデトくんの遺志を叶えたくて・・・それで、“宝探し”をしようと思っただけなのに・・・。それに、＜神子＞って・・・」
小さく呟くタクに、マサトは少しだけ躊躇してから口を開いた。
「タクちゃん・・・。オレも全部を理解っている訳じゃないから・・・上手く説明できないけど・・・。この＜カナガワ帝国＞には全部で十個の特別な武器があるんだ。それが、＜十宝＞。その内の半分を手にすれば、その者が覇者になれるという伝説もある。だけど＜十宝＞は武器だから、使い手がいなければならない。それぞれの武器が、主人と認めなければ、持ち手にもなれないんだけど・・・たった一人だけ、全ての武器を操れるものがいて・・・それが、＜神子＞と呼ばれるんだよ。」
マサトの説明に、タクは愕然とする。
「―――そんな凄い＜神子＞に、どうしてボクが？！」
「だから、オレも驚いたんだってっ！だけど、オレの“レッド・フォア”もタクちゃんに反応したから・・・間違いないよ。」
言いながら杖を持ち直すマサトに、タクは頭を抱えたくなった。
「・・・どうしよう・・・。」
「うん・・・。オレもこれからどうすれば良いのか理解らなくて、一度ヨコハマに帰って『聖女』様に＜予知＞をして貰ったんだけど・・・」
「・・・だけど？」
「水晶球に映らないんだってさ。真の闇の中に小さな光が点るだけで・・・」
「・・・はぁ・・・。」
お手上げだという風に手を動かしたマサトに、タクはがっくりと肩を落とした。
「ボクたちこのまま、旅してても良いのかなぁ・・・。」
「良いんじゃないか？タクちゃんがそうしたいのなら。」
外から戻ってきたトキサダが、両手一杯の荷物を持って部屋の中に入ってくる。
「―――ったく、一々姿を変えなきゃいけないのは、面倒だな。」
「・・・トキサダくん？」
「へー、そういう姿になれるんだ。なら、最初っからその格好で旅すりゃ良かったじゃん。」
びっくり眼のタクの横で、マサトがしきりに感心する。
トキサダの銀髪は、金髪に変わり・・・赤褐色の瞳は、青色に変化していた。
『メンドくさいから嫌だ。』
言うなり、元の姿に戻ってしまう。
そうして、荷物を置くとそのままタクのベットに寄りかかる様にして、床に座ってしまう。
口では面倒くさいと言いながら、トキサダの疲れた様子を見て、精霊のトキサダが人間の姿になるには余程の力を使わなければならないのだと、タクは理解した。
更にマサトがいなかった間、寝込んでいたタクの面倒を見てくれた分、疲れているのだという事も理解っていた。
「うん。ボクもトキサダくんはいつもの方が好きだな。」
小さく、そう告げる。
―――感謝の意味も込めて。
何時の間にか、傍に居るのが当たり前になっていたその姿。
それが、変わってしまうと何だか距離が出来てしまいそうだから・・・。
マサトも、トキサダが疲れている様子が見て取れたので、それ以上は何も言わなかった。
「タクちゃんは、このまま旅を続けたいんだ？」
だから、話題を元に戻す。
「・・・それが、許されるならそうしたい。突然＜神子＞だって言われてもボクにはよく理解らないし・・・。」
「―――もしかしたら、タクちゃん自身が危険な目に会うかもしれないよ？それでも、良いの？」
マサトの言葉に拓は一瞬口を紡ぐ。
ちょっと唇を噛んでから・・・それでも、その瞳は強い決意を秘めていた。
「うん。それでも・・・。どっちにしろ、“トレジャーハンター”になると決めた時点で、危険な事は覚悟していたんだ。ボクはこのまま先に進みたい。あっ・・・でもマー坊くんが帰るって言うんなら・・・」
「オレ？帰る訳ないだろ！」
タクの言葉に、マサトは強い口調で言い返す。
「―――そう言うと思ったから、＜フオァ＞を持ってきたんだよっ！これなら、思いっ切り術を掛けても壊れないし、耐久性もあるから殴る事も出来るんだ。」
赤い輝きを放つ杖は、マサトの言う通り硬質な物だった。
「マー坊くん・・・本当に良いの？」
「勿論っ！この前のヤツみたいなのが、この先に居るかと思ったら、術だけじゃやっぱ心細いと思ったからこそ・・・城に帰ってこれを持ち出してきたんだ。」
「―――城？」
マサトの言葉に、タクは不思議そうに聞き返す。
一瞬、ヤバイと口を押さえたマサトだったが、言ってしまったものは仕方ないと考え直して、ヘヘッと笑った。
「ごめん、タクちゃん。今まで黙ってたんだけど・・・オレ、＜ヨコハマ＞第二聖騎士団『バクオンコゾウ』の隊長なんだ。」
「―――え？！」
「隊長って言っても、前の隊長だったナツオさんの後を継いで、マコトさんからこの＜フォア＞を受け取ったからそう言われてるだけなんだけどさ。」
思いがけなかったマサトの告白に、タクはびっくりした。
聖騎士団とは、首都を護る“騎士”たちの所属する部隊の事だ。
アカデミーを出たヒデトも、その中で働いていたのである。
聖騎士団はいくつもの部隊に別れ、それぞれが役割を持っている。
現在の第一聖騎士団は『ヤシャガミ』と呼ばれ、そのトップは王であるワニブチであり・・・。
マサトの言った『バクオンコゾウ』は前の王だったナツオが隊長の部隊の事だった。
つまり、マサトは前王の知り合いであり、次の王となれる位置にいると、タクに言ったようなものだった。
「・・・・・・・」
余りの事に、言葉も出ないタクに、マサトはにっこりと笑った。
「オレ、王になんかなるつもりないし・・・ただの“魔法使い”のマサトだから！第一、身分云々っていうなら、＜神子＞のタクちゃんの方が、位は上だしさ。」
「ボクはそんな・・・。」
「だろっ？！だから、良いじゃん！！この世界にはまだまだ面白い事が一杯あるし・・・人生刺激が無くちゃね♪」
笑顔で言い切るマサトに、タクも押し切られてしまう。
でも、これから先も一緒に旅を続けられる事が嬉しいので、余り深く追求はしない事にしたのだった。
よくよく考えてみれば・・・これ以上標的となる者はないパーティなのだが・・・。
この時のタクもマサトも、そこまでは考えていなかった。
　
　
「お世話になりました。」
宿屋の主人に礼を言って、タク達は＜カマクラ＞の町を出発した。
次の目的地は、＜アサヒナ＞峠である。
＜ヨコスカ＞の街に行く前に、万能の杖と呼ばれる＜宝＞を手に入れようと思ったのだった。
“ピンク・ルビー”の短剣が、＜十宝＞だと理解った今では、それを手に入れようという気は起きなかった。
“―――＜十宝＞は＜神子＞を呼び寄せ、＜神子＞は＜十宝＞を惹き付ける。”
古くから伝わる詞である。
＜十宝＞には必ずそれを護る＜守護人＞が居るのだ。
タクが＜神子＞である限り、縁は繋がってしまう。
だから、マサトはトキサダに＜十宝＞と＜神子＞との関係を説明した。
曰く・・・
『これ以上タクちゃんに纏わり付く奴を増やしたくなかったら、＜十宝＞には近づいちゃ駄目なんだ。』
―――――と。
マサトの実に判り易い説明に、トキサダも素直に納得したのである。
勿論、タクにその事は内緒であったが・・・。
　

　
一瞬、何かに呼ばれたような気がして、タクは思わず足を止めて振り返った。
「―――タクちゃん？」
『どうした？』
マサトとトキサダの問い掛けに、タクは少しだけ首を傾げた。
「誰かに、呼ばれたような気がしたんだけど・・・気の所為だったみたい？」
自信無さそうにそう言うと、タクは苦笑した。
遥か遠くに見えるのは、＜カマクラ＞の町で・・・今来た道がそこに続いている。
そこにはタク達以外、旅人の姿すらなかった。
「妖しい気配もないよ。」
「そうだよね。空耳かな？」
そう言って、タクはまた前を向いて歩き出した。
　
　
どんなに離れようとしても、“運命”までは変えられない。
生まれながらに持ってしまった『生命』が変えられないように―――。
出会ってしまった＜十宝＞は、＜神子＞を追いかける。
その存在に焦がれるように・・・＜守護人＞もまた惹き付けられてしまう。
　
　
―――自分がどれ程凄い『力』を秘めているのか・・・タクはまだ知る由も無かった。
　
　
　
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