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＜プロローグ＞
「・・・はぁ・・・」
大きなため息が漏れる。
目の前には、真っ黒になって辛うじて形態から本だった事が伺える消し炭。
がっくりと肩を落として項垂れるのは、小柄な少年で・・・。
―――その隣に踏ん反り返るように、立っていたのは“ニンゲン”ではなかった。
『アーア・・・』
のほほんと零れた“声音”に、少年はゆっくりと顔を上げて、銀色の髪の青年の姿をしているモノに向き直った。
「―――トキサダくん・・・そんなにボクの事いじめて楽しいの？」
グスッとすすりながら、恨めしそうに見やる。
『はぁ？オレがタクちゃんをいじめる訳ないだろ。手が滑っただけ。』
フッと麗しい微笑を浮かべて、何でもない事のように告げる相手に、小柄な少年はまたしても肩を落としただけだった。
少年の名は、タク。
“精霊使い”マスターを目指して、アカデミーで勉強している学生である。
小柄ではあるが、現在１７歳で・・・半年後には卒業試験を受けなくてならない。
だが、簡単な精霊すら呼び出せなくて、失敗ばかりしている落ち零れであった。
そんなタクが唯一呼び出せたのが、偉そうな態度で“精霊”とはとても思えないトキサダだったのである。
銀色の髪に褐色の肌・・・“赤褐色”の瞳のトキサダは、黙っていれば確かにそこらの“精霊”よりも遥かに見栄えは良かったのだが・・・。
“精霊”にとって、“精霊使い”とは、契約を交わして主従関係になる筈なのだ。
だが、突然現れたトキサダは、契約を交わす以前の問題で・・・勝手にタクを気に入って、オロオロしているタクを尻目に契約を済ませてしまったのだった。
そうして、良く分からない内に持ち霊を決めてしまったタクだったが、タクの持ち霊がトキサダだと理解って、タク以上に驚いたのは先生たちの方だった。
何しろ、トキサダの容姿が、古い書の中に出てくる伝説の“精霊”と同じであり、禁断の術を使わなくては持ち精霊にならない種族なのだ。
勿論、落ち零れのタクがそんな高等な術を使いこなせる筈もなくて、たまたま似た種族なのだろうと言うことで、方は付いたのだが・・・。
大体、そんな伝説になるような精霊なら、簡単な炎の術一つ満足に使えないのもおかしい。
やる気が全く無いのは、最初から理解っていたことだったけど・・・と、タクはまた溜め息を漏らした。
尤も、いくら溜め息を付いたところで、黒焦げになってしまった書物は戻る筈もないのだけれど・・・。
また、先生に叱られるのだと思うと気も滅入ってくる。
トキサダが持ち霊になってから、タクはますます実践の授業についていけないのだった。
こんな事で、無事に卒業して“精霊”マスターに成れるのだろうか・・・。
そんな事を考えていると、突然鐘の音が鳴り響いた。
今日の実践鍛錬も失敗で終わりである。
機械仕掛けの標的は、一度も炎に包まれることなく・・・無事な姿で戻っていく。
修得点数が０点で、また最下位になるのは目に見えていた。
出きる事なら、持ち霊を変えたい・・・。
つくづく、そう思う。
―――それが、できないからこんなに苦労しているのだが・・・。
トキサダは、自称ドラゴンの眷属である。
確かに、容姿に付いては問題ないだろう。
だが、ドラゴン族と言えば、一流のマスターが何年もの修行の末に獲得できるであろう秘術を用いて、漸く呼び出せるかどうかという神族に一番近い種族なのだ。
最強無敵のその力を自在に操れれば、世界を支配すら出来ると言われるが、力の無い者が契約しようとすれば、その者を破滅させるという・・・禁忌の秘術を行わなければ絶対に持ち霊にならないプライドの高い種族でもある。
だからこそ、自称なのだ。
誰も、本気でトキサダがドラゴン族だとは思っていないし、タクだって信じていない。
ドラゴンが得意な筈の炎の魔法だとて、平気で失敗するようなトキサダに世界を征服できるなんて、夢のまた夢だろう。
術を使う為に借りていた本をトキサダが消し炭にしてしまった為、図書館の司書に散々叱られてから、タクは寮に戻ってきた。
「あれ・・・？手紙・・・」
自室のポストに入っていた封筒に、タクは目を丸くする。
自分に手紙を書いてくるような知り合いなんて殆どいないからだ。
「誰だろ・・・？」
呟きながら封印を剥がし、中を開けて差出人を確認すると、それは以外と言えば意外過ぎる人物だった。
「―――ヒデトくん・・・」
ドキンとタクの胸が鳴った。
そして、自然と笑みが零れ落ちる。
『―――ダレ？』
ピンッときたトキサダが尋ね返す。
始めて見るタクの柔らかな微笑に、心中は穏やかでない。
「ヒデトくんはね・・・ボクの憧れてる人で―――１番大切な親友だよ。」
ニコニコというタクの台詞が決定打。
寝耳に水の恋敵出現に、トキサダの機嫌は急降下する一方である。
周りの空気が渦を巻き、部屋の温度が下がっていく。
『ふーーーん・・・』
そんなトキサダの変化にも気付かずに、タクは手紙を読み始めた。
ヒデトからの手紙には近況や、現在任務中で国境近くにいる事・・・それから近くの町で珍しい物を手に入れたので、戻ったら土産にくれるなど・・・お世辞にも綺麗だとは言えない字で、無骨だが彼らしい言葉で書かれていた。
「・・・そうか、ヒデトくんはもう任務に就いているんだ。良いなぁ・・・」
アカデミーを卒業すると、今度はその職種にあった仕事をしていく事になる。
小柄で力も無いタクは、どうしても魔法を基準にした学科でなくては駄目で、戦う事が苦手でもあるので“精霊使い”になるしかなかったのである。
ヒデトは同じ年であるにも係わらず、一番難しいとされる“騎士”の学科をスキップして卒業してしまったのだ。
そんなタクにとっては雲の上の存在のようなヒデトであったが、何故かタクを気に入ってくれて、入学した時からまるで弟のように優しく面倒を見てくれたのだった。
そうして、ヒデトが卒業する時、二人は約束したのだ。
互いに“マスター”となったら、一緒にパーティを組んで冒険の旅に出よう―――と。
ヒデトから貰った約束の証でもある＜スクールリング＞は、タクの宝物でもある。
タクが卒業した時、タクの持っている＜スクールリング＞をヒデトに渡せば、約束は半分果たされるのだ。
卒業試験まで、あと半年・・・。
無事に卒業できれば―――の話であるが・・・。
「タクちゃーんっ！！」
軽やかな足取りで、駆けてくるのは、タクとは違う意味でアカデミーの問題児である“魔法使い”のマサトだった。
「マー坊くん・・・？」
タクと同じくらいの体格なので、やはり魔法系の学科を選んだのだと、タクは最初そう思っていたのだ。
だが、現実はまるで違っていた。
「久しぶりーー！元気だったぁ？！」
ギューッと抱き付かれると、これでも手加減してるのか？！と思う程、苦しくて逃げられないのである。
「ちょ・・・」
『―――手を離せ。』
慌てたタクが何か言うよりも早く、トキサダが引き剥がす。
「・・・相変わらず、くっ付いてんのか？オマエ。」
『―――契約したからな。』
「タクちゃん、呼んだ覚えないってよ。」
『オレが、選んだんだ。』
タクを間に挟んで、口喧嘩が始まる。
真ん中でオロオロしているタクは全く蚊帳の外である。
攻撃魔法に関しては、アカデミー内で右に出る者はいないというマサトの欠点は、飽きっぽい事だった。
しかも、面白そうな事には平気で首を突っ込んで行って、事を大きくするタイプだった。
ついこの間も、拳闘科の連中と賭けをやっている最中に熱くなりすぎて、ケンカになって・・・相手をあろう事か素手でやっつけてしまい謹慎を食らっていたのだ。
反省室から出ても、反省する事は全くなく“我が道を行く”マサトであった。
因みに“魔法使い”に拳で負けた“拳闘家”の連中は、余程ショックが大きかったらしく、まだアカデミーに戻ってきていない。
「じゃあ・・・オレが魔法で消滅させてやるよ。」
にっこり笑顔で言うマサトは、外見だけで判断すると、可愛い系の少年である。
『返り討ち。』
これまた艶然と言うトキサダは、黙って立っていれば容姿端麗の美青年である。
真ん中にタクがいなければ、これ以上無い鑑賞になるのだが・・・。
何で自分の周りにはこういう人たちばかりいるんだろう―――と、こっそりと溜め息を付くタクは知らない。
自分が、そういう者たちを引き寄せているのだと言う事を。
暗闇の中にタクは立っていた。
遥か先の方に、ぼんやりと明りが見えたので、ゆっくりと向かう。
自分で歩いている筈なのに、足が地面を踏んでいない感覚に、タクはこれが夢なのだと思った。
更にそれが確信に変わったのは、向かう先にヒデトの姿が見えたからだ。
薄明かりの中は見知らぬ深い森の中のようで・・・生い茂った蔦の中央、張り詰めた空気が漂っていた。
ヒデトは何かと戦っていた。
その敵の姿は闇に隠れて見えなかったが、血のように赤い瞳が闇の中でギラギラと光っている。
ヒデトの持っている白銀の大きな剣が、魔法を伴って敵へと攻撃していく。
だが、見えない壁に弾かれてしまう。
そうして、敵からの攻撃がヒデトの利き腕を貫いて、剣が飛ばされた。
＜―――ヒデトくんっ！！＞
タクの口から悲鳴が上がる。
こんなヒデトの姿は見た事がなかった。
いつも誰よりも強くて、格好良くて・・・。
そのヒデトが、やられる程の、強い敵。
恐ろしい程の魔力が膨れ上がっていく。
敵の最後の一撃は、間違いなくヒデトの命を奪うほどの威力を秘めていた。
腕が使えないヒデトでは、防御する印も満足に結べないだろう。
全てを滅するような黒の強烈な波動が、敵の口から発せられた。
このままでは、ヒデトが死んでしまうと思ったタクは、自然と動いていた。
攻撃を自分が受け止めようと・・・。
両手を広げて、ヒデトを守るように立ち塞がる。
そうして、波動がタク当たった途端に、タクの意識は弾き飛ばされてしまった。
『・・・んっ！！・・・』
遠くから聞こえる＜声音＞に導かれるように、タクは意識を戻した。
「―――タクちゃんっ！！」
ゆっくりと瞳を開けると、目の前には心配そうなマサトの顔。
そして、見慣れた天井は自分の部屋だと言う事をタクに示した。
「・・・あれ・・・ボク・・・」
ぼんやりとした頭で、周りを見回したタクは次の瞬間に今までの事が夢だったのだと理解ってほっと溜め息を零した。
「―――夢かぁ・・・。嫌な夢だったなぁ・・・。」
「夢じゃないよ！！タクちゃん、意識を失って一ヶ月も戻らなかったんだよっ！！オレ、タクちゃんがこのまま目を覚まさなかったらどうしようって・・・」
小さく呟いたタクに、マサトはポロポロと涙を零して抱きついてくる。
「・・・一ヶ月・・・？」
『―――生気が殆ど無くなってた。どんな夢魔に魅入られたんだ？』
横からトキサダが聞いてくる。
その声に、タクは漸く自分を呼び続けていたのが誰だったのか理解した。
「あ・・・夢魔・・・って言うか・・・ヒデトクくんが知らない場所で戦ってて・・・それで・・・ボクも・・・」
夢の内容をタクが口にした途端に、マサトの表情が変わる。
トキサダも眉を潜めた。
「タクちゃん・・・本当に、ヒデトの夢を見たの？」
「・・・う・・・うん・・・。」
真剣に聞いてくるマサトに、タクはびっくりしながらも頷いた。
『“夢視”を行ったのか・・・。』
「それって、寝たまま自然に出来ることじゃないだろ？！“魔法使い”と“僧侶”の両方のマスターになって“神官”になって初めて使える高等術だぞ。」
『―――出来たんだから、仕方ないだろ。だからこそ、生気も無くなる訳だ。』
トキサダの言葉に、マサトは驚愕する。
クラスが上の“神官”など、卒業してからの話だ。
そんな術を無意識に使ってしまうなんて、＜諸刃の剣＞というしかない。
しかし、タクの話が嘘とは思えないし、実際の事なのだから・・・認めるしかなかった。
「マー坊くん・・・？」
「タクちゃん・・・落ち着いて聞いて欲しいんだ。ヒデトの所属する部隊が未確認の敵に襲われて、全滅したって・・・。時期も、タクちゃんが意識を失った頃で―――」
マサトの様子がおかしい事に、タクが問い掛けると・・・マサトは重い口を開いた。
その言葉に、タクは大きく瞳を見開いて愕然とした。
「・・・うそ・・・」
震える声でそう言うと、救いを求めるようにトキサダに視線を移す。
だがトキサダは黙ったまま、タクの視線を促した。
そうして、促された視線の先・・・テーブルの上に置いてあった物にタクの意識が固まった。
信じたくないのに・・・嫌と言うほど真実を訴えかける代物。
鈍く光る銀色の輝き。
それは、間違いなくヒデトの愛剣だった。
ところどころ薄汚れているのは、こびり付いた血の所為で・・・。
「―――嘘だあぁぁぁぁ！！」
慟哭の叫びを上げて、タクの意識はまた白濁の中に引きずり込まれて。
飛び散った涙が、シーツに染みを作った。
『―――タク・・・。卒業したら、どうする？』
『ボク・・・？えっと・・・』
『オレはな、トレジャーハンターになりたいんだ。』
『えぇ？だってヒデトくんは“騎士”として・・・宮廷付きが決まってて・・・』
『それは、オマエが卒業するまで・・・な。』
『―――え？』
『だからな・・・』
キョトンとするタクに、ヒデトは苦笑しながら指に嵌めていたスクールリングをタクに手渡した。
『ヒデトくんっ？！これって・・・』
それは、暗黙の秘密。
卒業する時に、互いのリングを交換して卒業後のパートナーになろうと言う約束みたいなもの。
アカデミーでは代々続けられている儀式。
『“宝探し”はきらいか？』
聞かれて、思いっ切り首を横に振る。
びっくりしたのと、嬉しいのとで・・・言葉が出ない。
それでも、気になる事があって・・・。
『でも、ボクはまだ持ち霊さえ満足に見つけられないのに・・・』
小さく呟いたタクに、ヒデトは笑う。
『―――伝説の“龍神”を持ち霊にする気で頑張ってみろよ。』
『そんなの、ずっと無理って分かってるくせにぃ・・・』
膨れるタクの頭をいつものようにクシャッと撫でて―――。
『楽しみに待ってるからな。』
大胆不敵にそう言い残して、振り返る事無く歩いて行ってしまった。
いつものお気に入りの中庭。
それは、ヒデトがアカデミーを去る前日の思い出。
タクがトキサダと契約を交わす半年前の出来事だった。
あれから、まだ一年しか経っていないのに・・・。
あと、半年して卒業すれば、一緒に冒険の旅に出られた筈なのに。
―――夢は無残にも打ち砕かれてしまったのだ。
季節は容赦なく過ぎ去り、アカデミーの卒業シーズンがやってきた。
あの日から、タクは余り笑わなくなり・・・人と付き合う事も少なくなった。
まるで人が変わったかのように、魔法に取り組み・・・次々と術を完成させては、自分の力へと変えていった。
やりきれない悲しみを、全て注ぎ込むようにしてメキメキと力を付けていき、卒業試験もトキサダの魔力でなく、自分の力でクリアーしてしまったのだ。
終わってみれば、半年前まで落ち零れだったタクが、一番の成績で試験を合格したのだった。
そんなタクが卒業すると言うので、色々なギルドから引き抜きや、今まで無関心だった連中もスクールリングの交換を求めてきたが、タクは誰にも心を開かずに丁寧に断り続けた。
見かねた先生たちの言葉にも耳を貸す事はない。
タクの心は既に決まっていたし・・・タクのスクールリングはヒデトの物なのだ。
だから、約束通り“トレジャーハンター”になるのだ。
たった一人でも・・・“精霊使い”だけでは無謀だと言われても。
タクの意思は固かった。
空は高く何処までも青い。
アカデミーを卒業して、慣れ親しんだ宿舎から出たタクは、一度大きく深呼吸した。
『本当に行くのか？』
「―――嫌なら、契約破棄の呪文を教えて。」
『誰も嫌だなんて言ってない。』
「・・・ありがとう。」
歩き出したタクに、トキサダが問うと言い返されてしまう。
仕方なく言い直すと、タクは小さくそう答えた。
『タクちゃん？』
「バカだって自分でも理解ってるんだ。こんな事したって、ヒデトくんが戻ってくる筈ないのに・・・。でも、約束したから・・・だから・・・」
ポツリポツリ告げるタクの言葉を、トキサダはただ黙って受け止めた。
タクがどれだけ頑張ってきたのかは、傍にいたトキサダが一番良く知っているのだ。
『オレは、ずっと傍にいるから・・・』
震える小さな肩をそっと抱き寄せて、トキサダは優しくそう告げた。
「―――タクちゃーーーんっ！！」
突然聞こえた声に、タクは慌ててトキサダから離れた。
途端に、ちっと舌打ちする音が聞こえたが、タクは聞かない振りをした。
そうして、走ってきた人物に目を丸くする。
「・・・マー坊くん？」
「ヒドイよ、タクちゃん！オレの事置いて行っちゃう気だったぁ？！」
「え？！だって、マー坊くんは卒業したら国に帰るって・・・迎えの人もいたし・・・」
「あぁ？オレ、帰んないよぉ。だって、タクちゃんと一緒に行くんだもん！」
「は？！」
「だから、オレはタクちゃんと一緒に“宝探し”すんの。国に帰るよりよっぽど面白そうだし。」
「でも・・・スクールリングは交換できないから・・・」
「そんなの、いらないよぉ！って言うのは嘘だけどさ。でも、良いんだ。タクちゃんヒデトと交換したかったんだろ？それとも、交換しなけりゃ、一緒に旅しちゃいけないの？」
困ったように言うタクに、マサトは畳み掛けるように言い募る。
お願いの表情に絆されて、タクも嫌とは言い切れない。
「いけなくはないけど・・・」
「じゃあ、決まり！！」
嬉しそうに決定打を告げるマサトに、タクが適う筈もない。
『おい・・・』
だから、納得いかないのはトキサダだけである。
「文句は言わせないよ、トキサダ。お前だけじゃ、タクちゃん路頭に迷いそうだし・・・。第一、一銭も持ってない状態で、“トレジャーハンター”できる筈ないだろ。」
『そういうオマエだって、アカデミー出たばかりでどうするつもりだ？』
「ふふーん・・・♪」
鼻高々にマサトが取り出した皮袋には、ずっしりと何かが入っている。
「どうしたの？それ・・・」
中身がお金だと理解ったタクが驚いて問い掛けると、マサトはにこやかに笑った。
「貰った♪」
「誰に？！」
「アッちゃん。」
「―――はい？！」
聞きなれない名前に、タクはますます目を丸くする。
「アッちゃんは、オレの幼馴染みで、今回オレの事を迎えに来たんだけど・・・オレに甘いから、ネダッたらくれたんだ。これで、町で情報掴んだり、仕度して行こう。」
エヘンと胸を張って言うマサトに、タクはそのアッちゃんとかいう相手の事を哀れんだ。
マサトにおねだりされて、嫌と言える者も少ないのだ。
それが、幼馴染みならば尚更だろう。
貰ったのではなく、ふんだくってきたのだろう事が容易に想像できてしまい、ハァーと深い溜め息が零れ落ちた。
トキサダもこれ以上喋るのがバカバカしくなってきたようで、フンと言ったきり黙ってしまう。
そうして、三人は漸く町に向かって歩き出した。
パーティのメンバーは“精霊使い”と“魔法使い”。
それに自称ドラゴン族の“精霊”が一体。
剣が使える“剣士”や“騎士”・・・更に、力が強い“拳闘家”もいなければ防御系が強い“僧侶”もいない。
そんなパーティで＜宝探し＞をしようと言うのである。
全く持って、命知らずな連中としか言い様がない。
―――三人？の旅は、まだまだ始まったばかりであった。
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